あらすじ 22世紀の半ば、そこは太平洋の深海の海底。恭一は今回の深海調査団「ディープ2」の団長である。約10年前、実の弟を失ったこの深海で起きた謎の事故の原因を探るべく調査に乗り込んだのだ。そして格段に進歩した科学力で調査が進み、段々、事件の謎が明らかになっていくのであった。 『深海調査記録』   tr 「それでは次のニュースです。先日から行われている深海調査ですが、その海底調査団『ディープ』との通信が途絶えたとの事です。詳しいことはまだ分かっていませんが乗員の安否が心配されます―。」 兄の恭一は一流の技術者であり、弟の康介もこれまた一流の学者であった。兄弟は子供の頃から海が好きでその康介は深海生物を専門とし研究していた。恭一はそんな弟のために深海探索の新しい技術を日夜研究していたのだった。 現在から約10年前、ついに恭一は新しい海底探査用の技術の開発に成功したのだった。そして康介はその技術で自らの理論を完成させるべく、海底調査団『ディープ』の団長として深海へと潜ったのだった。 作業はとても順調に進んでいて、続々と見つかる新生物達に康介はとても興奮していた。しかし、それは突然起きたのだ。 その日も順調に作業を終え、報告のために本部との交信をしていたときの事だった。 「…であるから…ん?…うわぁ、なんだ!!なに・・・っ・・・」 その後、通信は途絶えたのであった。その後、結局潜水艦が戻ることは無く、この事件は「深海怪奇事件」と呼ばれ人々に伝わっていったのだ。   現在、「深海怪奇事件」から10年が過ぎた。恭一はあれから事件の真相を突き止めようと、今度は自分で深海に潜ることを決意していた。恭一は10年掛けてさらに潜水艦の改良を重ね、ついに先月、信じられないほどの性能を誇る機体が出来たのだ。そして恭一は海底調査団『ディープ2』の団長として、10年前の深海に挑むのであった。 「水深4000m突破、このまま潜行を続けます」 段々目的の場所に近づきながら恭介はあの時何があったのか考えていた。 「水深5000m突破、そろそろ目的地周辺です」 深海生物による事故か、それとも他の何か別の物が…。 「水深5500m、目的の海底付近に到着しました」 「ここがあの事件が起きた場所か…」 そこは勿論、太陽の光は一切届かない所で、10年前の報告にあったと思われる魚らしき生物がぎこちなく泳いでいた。とても魅力的な世界で、いつも生きている世界とは別世界だった。  その辺は一帯が平地だったので一時停止をして、恭一は乗組員達に今回の目的の確認をとった―。その後、調査を始めるとまず洞窟が発見された。試しに奥にはいってみると7mほどの魚が4,5匹泳いでいた。あまりに圧巻な光景に乗員は目が点になっていた。深海にはやはり、まだ知らない化物がうようよいそうだ、そんな雰囲気を醸し出していた。そんななか調査は続いた。―どうやらこの洞窟はあの魚の住処だったようだ。  「とりあえず今日の調査はここまでにして休めるところを探そう」 洞窟を出た後、また比較的平地な海底に足を下ろし潜水艦を安定させた。慣れない場所に来て、やはりみな疲れている様子だった。そして夕食をとっていた。 「いやー、あの魚には驚いたなぁ。あんなのが群れをなしてるんだもんな、やっぱり深海はまだまだ知らないことばかりだ。にしてもこの飯なかなかうまいな」 「あんなでけぇ魚を生で見れるとわな。腰抜かすかと思ったわ」 そんな夕食の後、乗員は各部屋で休息を取った。 翌日、早くから調査が開始されていた。昨日見かけたあの魚をまた見かけた。やはり何度見ても驚くほどでかい。そんな魚を尻目に潜水艦は海底探索を続けた。時間はそろそろ昼食の時間だった。その時、乗員の一人が突然声を挙げた。 「お、おい!これは何だ?!」 その声を聞いた他の乗員達がゆっくり集まって来て、そろって画面を見た。皆最初はにやけながら何が写ってるかと考えながら画面を見ていたが、そのにやけ顔も急に引きしまった。それはとてつもなく驚くべき物だった。そう、まさに10年前のあの潜水艦だったのだ。そのほとんどは砂に埋もれていたがその船のマークが確認できたのだ。 「なんて事だ・・・。やはりここで何らかの事件が起こったんだろうか・・・。」 恭一は動揺しながらも乗員に船を砂から出させろと命令した。そして約10分後、潜水艦はその姿を見せた。 「これは・・・。」 引き上げられた潜水艦には無数の穴が開いていた。やはり外部から何らかの衝撃を受けたようだった。 「団長、これはどういうことですか?!団長の作った船がこうもぼろぼろにされるなんて普通じゃないですよ!!」 確かにおかしかった。この船は10年前の耐久力テストでとてつもない耐久性を実証していたからだ。並大抵の衝撃では絶対に壊れたりしないはずだった。それがここまでぼろぼろにされているとなると凄まじい衝撃が船を襲った事になる。 「この海底にそんな衝撃を生み出すものがあるという事か・・・これはさらに調査が必要だな。お前達、今後の作業はかなりの危険を伴う。心しておけよ。」  乗員達は固まりながらもうなずいた。そして昼食の後、調査は続いた。昨日と比べてかなり広範囲を探索したがそれ以上の成果は無かった。  夜、夕食をとりながら乗員達は昼の事を話していた。 「何でも、あの潜水艦は適当なミサイルぐらいなら楽勝で防げたそうじゃないか」 「そんな潜水艦にあんなに穴を開けられるような物なんてあるのかよ」 「実際そうなってたんだからあるんだよ、一体何なんだろうな」  そんな中、さっさと飯を済ませた恭一は自室で一人で考え事をしていた。 「あの潜水艦ならここの水圧でもミサイルでもどうってこと無いはずだ・・・一体何があったんだ・・・。それにあの蜂の巣のような空きよう・・・どう考えても無理がありすぎる。」  船員達は一人一人そんな事を考えながらその日の床についたのだった。   翌日、探索には昨日より熱が入っていた。 「いいか、突然何が起こるかわからないからな。いざという時でもパニックに陥るなよ」  団長自身もなかなか無茶な事を言ってるなと思っていた。その日は昨日ディープが発見された場所とは違う方向を探索していた。その辺は岩だらけでところどころ洞窟のようになっているのが見られる。そこで恭一が言った。 「あの洞窟にはこの潜水艦は入れない。が、何があるかとても気になるから、この海底探索用スーツを着て行ってみてくれないか?勿論私も行くが誰か着いてきてくれる奴は居ないか?」 「俺がやります。」 「私もやります。」  2人の乗員が手を挙げた。 「ありがとう、じゃあ残った奴らは暫くここで待機していろ。何か発見し次第連絡を入れる。」  と言うと恭一と2人の乗員は更衣室へ向かった。  準備が整い3人が何ともごつい服を着て更衣室から出てきた。 「それじゃあ行って来るからな。何か変化があったらこちらにも連絡を入れてくれ」 そう言って3人は海に出た。凄まじい水圧を感じた。そうすると恭一がこう言った。 「慣れれば問題は無い。とにかく今はこれから起こる事に集中するんだ。」 5分ほどしてようやく少し慣れてきたようで、3人は洞窟へと向かった。  洞窟の中はまたあの魚が居た。今度はさらに間近で見れるのでその迫力も凄まじいものだった。ちょっと奥に入るとその洞窟は行き止まりだった。どうやら何も無いようだ。 「こちら恭一。この洞窟は異常なしだ。これから次の洞窟へ向かう」 そういうとその洞窟を後にして近くの洞窟にまた入っていった。今度の洞窟もこれと言って変なものは無かった。  そうして調査を続けていくうちに大きな洞窟を発見した。そこからは何か異様なオーラが放たれていたような気がした。 「こちら恭一。そろそろ疲れてきたから今日はこれで最後にする。この洞窟はなかなかでかそうだから時間が掛かるかもしないが、適当に夕食の準備をしておいてくれ。」  そう言って3人は洞窟に入っていった。その洞窟は今までとは違いかなり奥に続いているようだった。3分ぐらい行くと2手に分かれる分かれ道が現れた。 「団長、どうしますかね?」 「うーん、3人を分けると一人単独になるものが出るのは危ないからな。よし、3人でまずは左から行こう。」  と言うと、3人は左の道へと進んでいったのだった。    静かで静かでとても暗い、海の底の洞窟の中。3人はゆっくり慎重に道を進んでいった。洞窟の壁には何やら絵のような、そう見えるだけのような模様みたいな物があった。こんな海底に何でこんなものがあるのかと3人は不思議そうにしていた。団長は写真を撮ってデータを潜水艦に送った。そうやって調査を続けた3人の前に…、ついに正体不明の異形の怪物が目の前に現れたのだった! 「おい!!な、なんだあれは!?」 「!!!!だ、団長!!一体あれは!?」 「お、落ち着け!相手を良く見ろ、集中するんだ!!」 「構えろ!!取り乱したらこちらの負けだ!!」  その生物はまるで人間のような姿をしていた。髪はなく、肌は異常に白くて、太ももはラグビーボールみたいに膨れ、それより下の足は細く長く、尻尾が生え、上半身はやせ細っていた。水中に生身で、しかも浮く感じもしなかった。  「…ん?な、なんだ?どうしてこっちに来ないんだ…?」  3人は5分近く構えを取っていたのだが、その生物はまったく近寄ってくる気配が無かった。と、ここで団員の一人が前に出た。  「もしかしたら死んでいるのでは…?」  恐る恐る近づく団員。そしてその生物の隣につき、観察して見た。  「だ、団長!大丈夫みたいです。おそらく死んでいます。」 その報告を受けた恭一と団員も近寄ってみた。 「な…一体これは何なんだ…。とてつもない発見だな…。」 「地球上にこんな生物が居たなんて…。」 3人は暫く固まっていた。この驚きが尋常ではないのはよくわかる。と、そこで恭一が 「こちら恭一、洞窟内で未確認生物の死骸を発見。繰り返す、洞窟内で未確認生物の死骸を発見!」 あまりの出来事に報告を忘れていた恭一だったが、少し落ち着きを取り戻したのか、船内に連絡を入れた。 「こちら高橋、い、一体何なんですか!?写真は送れますか!?」 「こちら恭一、ああ大丈夫だ今から撮ってみる。が、何があるか分からんからいつでも動けるように待機していてくれ。」 「こちら高橋、了解しました、もしものことがあれば腰についてるボタンを押してください。押すとロープを一気に巻き上げられるようになってます。」 と言って恭一は団員に写真を撮らせるため、その生物の格好を整えるべく体に触れてみたのだった。するといきなり 「バシュ!!!!!」 一瞬、何が起こったかわからなかった。次の瞬間、恭一の左腕がなくなっていたのだった! 「ぐぁぁぁあ、い、一体何事だ…!!」 恭一は急いで腰のボタンを押した。他の団員の2人もすぐに腰のスイッチを押した。その時には既に洞窟が崩れ始めていた。まだ右側の道には行っていないし、あの生物の写真すらまともに撮っていない。しかしそんな事を言っている余裕は無かった。 「団長!!しっかりしてください!!大丈夫ですか!!」 「こちら杉山!!団長が原因不明の怪我を負った!!今緊急ボタンを押して船に戻るところだ!救急道具を用意しておいてくれ!!それと帰還次第直ちに浮上だ!」 「こ、こちら高橋、了解だ、とにかく落ち着いて行動しろよ!」 ロープを巻き戻し段々洞窟の外に近づいてくる。しかし洞窟の破壊はどんどん起こっていた。 「ガラガラガラガラガラ!!!」 壁が、岩が音を立てて崩れてくる。 「あ、危ない!!!」 「・・・か、間一髪だったか・・・。」 何とか倒壊する洞窟から逃げ切り、3人は船に戻ることが出来た。恭一の腕は見事に無くなっていて切り口も何かに切られた感じであった。これ以上居ると危険、さらに団長の治療のために浮上すべきだと判断した団員達はすぐさま船を発進させた。団長の腕はすぐに応急手当が施された。 1時間後、艦体は研究所の施設に戻ってきた。 「さ、早く団長の治療を!!」  と、研究員が救急車を呼んで待っていた。恭一はすぐに救急車に乗せられ病院へと送られたのだった。そうして、とりあえずその日は各員研究所の施設に泊まって行った。 翌日、恭一の治療も完了し、団員達は恭一の病室に来ていた。 「団長、大丈夫ですか…?」 「とりあえず命に別状はないそうだ」 「ほっ、とりあえずは良かったですね」 「んなわけあるか!腕がなくなったんだぞ!」 と苦笑いしながら恭一は言った。 「…一瞬見えたんだが、私があの生物に触った瞬間にあの生物の体から何かが放出されたんだ。」  周りは息を呑んだ。 「おい吉田、お前あの時確か写真を撮っていたよな?」  驚いていた吉田は少し遅れて、 「あ、はい。数枚ですが団長が怪我をする前にとりましたね。」 「ちょっと今持ってこれないか?」 そう言われると吉田は写真のデータを取りに行った。 10分ぐらいして吉田が帰ってきた。 「ありましたよ団長」 そういうと恭一はノートパソコンにデータを入れて写真を見てみた。 「やっぱりな・・・。」  団員達は不思議そうな顔をしていた。 「な、何がですか?」  団員の前田が聞いてみた。団長は少し間を置いて答えた。 「まず、この写真を見てみろ」  そういうとノートパソコンを回して団員たちに見えるようにした。団員達は度肝を抜かれた。 「・・・!! これって、団長の言っていた物じゃないですか!!」  写真には何やら超高速で動いてる物が写し出されていた。 「そう、これが私の言っていた何かの正体だ」  と言うと恭一は続けて言った。 「これは仮説だがな?この生物は体に何らかの物が接触するとこうやって反応をするんじゃないだろうか。そしてこれが『ディープ』に穴を開けた真相だと思うんだ。 ただ何故、蜂の巣みたいになったのか、それは謎のままだがな」  その後、潜水艦の整備で『ディープ2』に大きなくぼみが出来ているのが確認された。それを聞いた恭一は弟との弔いが果たせたと思った。 ―それから1ヵ月後、恭一は今回の調査の記録をまとめ、この謎の生物を発表した。その禍々しい異形の怪物はすぐに全世界に知られるようになった。人々はこの怪物を『深海人』と呼び、さらにこの発表で恭一はノーベル生物学賞に選ばれた。その後、恭一は深海学を学び、ついには深海学にDr.恭一ありと言われるようにまでなった。弟の意思を継ぎ、それからも恭一は海底探索で目を見張る成果を次々と上げていった。 深い深い海の底の話。そこには今も何かが居るのかもしれない。 end