【皇后様の復讐】 シリオル=バハム=フリードール。それが彼女の名前。 “超”がつくほど肥満した体の皇后、シリオルは真剣に悩んでいた。間食の、28個目のドーナッツを頬張りながら。ホットケーキの7枚目を食べ終えながら。甘いあまーい砂糖入れまくりの紅茶を飲みながら。 私、また太ったんじゃないかと。 昔の彼女はそれはそれは痩せていた。街を歩けば大半の竜が振り返るような美しいプロポーション。胸も大きく、 くびれは細すぎず、丁度よい感じだった。 しかし、皇帝であり、夫であるジヴォイドと結婚してから・・・彼女は激変した。その言葉のとおり、体型が劇的に。 短期間でびっくりするほど肥え太ってしまったのだ。 胸は変わらず大きいか、更にサイズアップしたが、くびれは完全に見る影もなく、跡形もなく、名残もなく、消滅した。 つまりデブった。太った。肥えた。それはもう、とてもとても。 “太った”とかいう段階ではない。かといって“太りすぎた”というレベルでもない。 なら、どう表現すればいいのか? 一言で表すなら、“肉塊竜への分岐点”。進化前といっても良いかもしれない。 まぁ、つまりそれだけ太っちゃったのだ。元がくびれる程だっただけに、その変化を知る者はまず驚く。 ビフォーが250kg。かなり軽い体重だ。・・・った。 アフターは、なんというか桁が違う。これも言葉のとおり。わずか“数百キロ”だった体重は“数千キロ”。つまり“t(トン)”になった。しかも、1000kgとかそんな生ぬるい体重じゃない。 まさかの8000kgオーバー。その差、実に7t以上。ちなみに四捨五入しちゃうと9tになっちゃう。 そして夫であるジヴォイドはその差に、鼻血が出そうなほど喜ぶ。 そう・・・そうなのだ。彼女が太ってしまった主原因は“夫”。ふくよかなタイプが好みな彼は、それはもう妻であるシリオルに高カロリーな食事を与え、運動の機会をどんどん減らし、食欲を増やし、どかーんと太らせてしまった。 しかし100%原因というわけじゃない。いくら彼が太らせようと頑張っても、本人が本気で頑張れば“ここまで”は太らない。 一度太ってしまってからは、現状に甘えて好きなだけ食べたりお代わりして、彼女はその姿を変えた。 長い前振りであったが、とにかく彼女は痩せていた当時の自分をふっと思い出して、ちょっとだけセンチメンタルになってた。 普段はまったく気にしないのだが、このごろ、また体重が増えてしまったからだ。 流石にこれ以上は太らないと思ってたのに。 はぁ、とため息をついて彼女は43個目のドーナツ(これはいちごチョコレートに、中にたっぷりクリームが入ったもの)を飲み込んだ。 今まで、ダイエットに挑戦したことはあったけど、悉(ことごと)く失敗した。だいたいはリバウンドして、ひどい結果になるし。 なんとか見返してやりたいなぁ、と思ったシリオルは復讐を考えた。 そうだ、自分をこんなに大きくした夫にリベンジしよう。けど、そんな事を考えるもんじゃない。 後で彼女は酷く後悔する事になる。 彼女が考えたリベンジは単純なものだ。 目には目を、歯には歯を。肥えさせられたら、肥えさせよう。と。 結論から言うと、彼女の考えは甘かった。賢帝ジヴォイドと呼ばれるほど高い知能を持つ策略家を罠にはめるのは容易くなかったのだ。 作戦その1。自分を太らせたいと思う夫の気持ちを利用する。 彼女は、自分の食事回数と量を増やしてでも、ジヴォイドと一緒に食べる回数を増やした。自分も体重増加が免れないが、夫も少しなりとも太るはず。 だが、何度も間食や食事に誘って一緒に食べたのに、太るのはシリオルばかりだった。 気付けば体重は9tになっていた。 実はシリオルの考えはバレバレで看破されており、ジヴォイドは自分の食事のカロリー計算や運動量の調整で、摂取量が増えても太らないように調整していた。 しかも、あろう事か再び急激に太り始めたシリオルを見てジヴォイドの肥育魂に火がついてしまう。 “自分を太らせる為ならどんな事でもする夫の特性を利用して共に太ろうとする妻、の現状を利用して妻を更に太らせよう”というジヴォイドの計画が水面下でひそかに行われた。 わざと食事量を減らして、強い空腹感を与えた後で、その怒りのストレスを解消させるために、“非常に”太りやすい食べ物をドンドン与えた。 消費カロリーを更に下げる為に、今まで以上に彼女の行動を抑えて、最低限のカロリー消費に抑えた。 ちょっとだけダイエットに協力して、体重を50kgほど落とさせて安心させたら、後押しして100kg太らせる。 この2歩下げて3歩進める先方、で“太り続ける”という妻の意識を和らげた。 小さなリバウンドを繰り返し、ますます肥え太りやすくなるシリオル。 体重は9500kgを超える。 ジヴォイドはここでぐっと我慢して、妻のダイエットに積極的に協力した。“するふりをした”。 シリオルは、もう夫も共に太らせてやる作戦を止めて、真面目にダイエットすることにした。 とりあえず500kg痩せて、それでもまぁ9tの体重。 痩せた事による安心感、そして我慢してきた食欲の積み重ねが爆発し、更にジヴォイドが本気で“後押し”をした。 毎日がもう過食状態になったシリオルは、それこそもう、ぶっくぶくに太り体重は激増。体型も更にアップ。 そして、とうとう・・・・10000kg(10t)の超大台になってしまった。 心の中でガッツポーズするジヴォイド。 そして、猛省するシリオル。 だが、彼女が痩せるのはなかなか難しかった。少しだけ夫と結婚したことを後悔するシリオルであった。 おしまい。 ====