某危険な魔法陣のある世界に、ベスティードさん(そこそこ肥満な巨大な風船腹の竜)を遊びに行かせてみた。 参照:『魔王と過保護なスライムと』 === どこかの世界の、どっかの国の、魔王様。 しかし異世界に来れば、権力も部隊も持っていないただ1匹のデカイ竜である。 名前はベスティード。整った顔つきの、そこそこイケメン?な黒竜である。 しかし、普通に道を歩いているだけでそこまでモテる事は無いだろう。 なぜなら、彼は、   かなり太っていた。 不摂生により、醜くぶくぶくと肉だけを蓄えているわけではない。 どちらかといえば、丸みを帯びたフォルムであり、頭身が低く見えるタイプ。 すなわち、”可愛い”という表現の方が正しい。 「ふーむ、ここは来た事の無い世界のようだ。」 以前、クィンディ・オレとかいう名前の国にたどり着いたことがあるが、あそこは本当に美味しいものが沢山あった。目に見える大半がお菓子で、それこそ一日中、ろくに移動することなく、ひたすらに堪能できた。 時間も忘れて、三日三晩食べまくって、だいぶ太ってしまったが。 おかげで城に帰った後ダイエットが大変だった。 しかしまったく懲りていない彼は、美味しいものを求めて今日も異世界に遊びに来ている。最近、勇者たちは一向に城の付近まで来ないから暇なのだ。 「しかし、ここの通貨は持っておらんからな。」 手当たりしだい、店に入りたいところだが、無銭飲食はやめておこう。 さてどうしたものか、と困っているとそのうちお腹がグウグウと鳴り出す。 そんな彼の姿に注目するひとりの人間がいた。 「(この街に大型の竜がいるという情報は無かったが・・・。初期段階で、このサイズ・・・期待できるかもしれないな。少し試してみるか。)」 トオル、という名の少年は、それこそ家と住人ぐらいの差があるサイズの巨大な竜に物怖じせず話しかけた。 「なぁ、あんた。腹が減ってるのか? この辺じゃ見ない顔だ。なんなら奢るが」 「ん?」 人間とは珍しい。周囲を見渡しても、他にはいないようだ。 「察しのとおり、ここらの土地には不慣れでね。 しかし気持ちは嬉しいが、そちらにメリットはあるのか。」 当然、警戒はする。親切心の裏には、理由が必要だ。 「なに、ちょっと気を紛わそうと思ってね。俺もあんたも、この辺じゃ同種もいない異端の者。 ちょうど話し相手が欲しいと思っていたところなのさ。 そうだな・・・こちらの条件としては、気まぐれに付き合って貰う代わり、でどうだ。」 「ふむ。」 動機としては、いささか弱い。が、空腹の方が先に音を上げてきた。 そろそろ腹に何か入れておきたかったし、この世界の事を知る機会にもなろう。 ベスティードは、とりあえず少年の後について行く事にした。 大通りを抜け、そこそこ大きな店に入ると、芳醇な香りが胃袋を刺激してくる。 「あんた見たところ、かなり食べそうなんでな。値段が安くて、量は多い。それでいて、味は保障する。」 トオルは、この街での下調べはすでに済んでいた。この店が一番、味や量の犠牲に、料理のカロリーが馬鹿みたいに高いのだ。 しかし病み付きになる味のせいで、常連客は日に日にぶくぶくと肥え太っていく。 メニューを見ながら、魔王は迷っていた。 「うーむ、見慣れぬ料理名がかなりあるな・・・。 しかしどれも興味があるし。ふぅむ。」 お金さえ持っていれば、軽く2〜30皿は注文しておきたいぐらいだ。 自分の世界では魔王ともあろうものが、謙虚に一品だけ頼んでおくことにした。 「(鋭いな・・・オススメ外で、一番評判の高いメニューを選ぶとは。) たった1品で良いのか? こっちの財布には余裕があるぜ。」 とは言われたものの、ベスティードはちゃっかり特盛りで注文をしている。 メインのご飯とハンバーグステーキ、それにサラダとスープも、かなり大きな器に入っており普通の者なら腹いっぱいになるボリュームだ。 それをあっという間に平らげるベスティード。 「ご馳走になった。礼を言う。何かお礼を言いたいが−−−」 と、まだまだ腹一分にも満たないベスティードからぐきゅるるる、と腹の虫が鳴り始めた。 「なんだ、またぜんぜん足りてないんじゃないか。」 「どうやら、そのようだ。」 苦笑して、再びメニューを開く。すると、興味深いものがあった。 「ん、この食べきったら無料、というのは・・・?」 無料にしては、やけに豪華な写真が載ってある。量といい使っている具材といい、一目見て他の料理とランクが違う事がわかる。 「あぁ、俗に言う大食いチャレンジって奴だな。 下に小さく値段が乗っているだろう。制限時間内に食べきらないと、その値段払う羽目になる。」 「・・・・。」 食べてみたい! と、魔王は強く思った。 「挑戦したいんだろう?」 「な、お前は・・・人間にして読心術が使えるのか?!」 魔術の心得があるのだろうか。こんな若い少年が、竜王の私の心をこうも容易く読み解くとは。 「・・・・・・よだれ。垂れてる。」 指摘され、ハッと気がついて涎をふいた。なるほど、一目瞭然だったというわけだ。 === 記事消失により途中まで 追記のおまけ『伝説の秘伝の幻のスープ』 ・竜魔王ベスティードは、食べようとすれば確実に太ってしまう凄まじいスープの話を耳にして興味が沸き作ろうと試みる。 しかし、そのスープは恐るべき代物だった。 鍋で200時間もの間、煮込み続けなければならないのだが、 とんでもなく匂いがよいのである。胃袋が刺激され続け、つい味見したくなるのだが・・・ 特別な材料の組み合わせのせいでか、完成するまでは天にも昇るほどの不味さなのだ。試しに一口飲んだベスティードは走馬灯を見てしまったほど。 仕方なく、スープを煮込み続けるが(自分の魔力も混めて作らないと、最高の味にはならないらしい。)腹の虫が鳴り止まない。 ベスティードは待ち時間の間、他の料理を食べ続けて気を紛らわせた。 しかし、いくら食べてもこの匂いには耐えられず、満腹になってからも10分もすれば新しい料理に手を出してしまう。 そればかりか、城中に匂いがこもってしまい、食欲旺盛なモンスター達やレオヴが食事量が激増して日に日に肥え太り始めてしまう。 「はぁ、はぁ、こんなに完成まで辛(つら)いスープだったとは・・・!(もぐもぐ、むしゃむしゃ)」 数十万キロカロリー分の食事を繰り返し、ベスティードはパンクしそうな程巨大に腹を膨らませていった。 そして、とうとう完成するが−−− 「げふぅ、も、もう食えん・・・。腹がっ、はちきれそうだ・・・・ぐぅうう!!」 極度に空腹中枢を刺激され体重が3倍になるまで食べ続けたベスティードは、目の前のスープを飲むことは出来なかった。 そして、最高の味が出る200時間目を過ぎれば、後は生ゴミのような匂いとなってしまい、誰も手が出せなくなってしまう。 食欲旺盛な者は飲むことが出来ない・・・幻のスープ。その名前の由来を知るのだった。 おしまい