赤竜:ファイン ♂ 肥満係( 青竜:スィーダ ♀ 肥育係( 大型の西欧風ドラゴン。♂の平均体重は2.5t ○月×日 赤い月の日 二つの衛星が周囲を廻る、とある星に、2頭のドラゴンがいた。 彼らは少しだけ珍しい組み合わせの夫婦である。 ファインという名の赤竜の夫、そしてスィーダという名の青竜の妻だ。 とりわけ特徴的なことといえば、やけに夫が太っているという事だろうか。 しかし、不摂生で肥えた体というよりはあまりにも食べる量が多すぎる故に作られた体型に見える。 そんな太った体、突き出た大きなお腹の持ち主であるファインは怒鳴り声で喋っていた。 「おい、メシはまだか!」 燃え盛る炎みたいに語気を荒げて、ファインはその巨体をズズイっと妻に近づけた。 「ご、ごめんなさい。すぐに追加を持ってきますからっ。」 妻のスィーダは、怯えた様子で急いで厨房へ走った。 「早くしろよな。ったく・・・俺を餓死させたいのかアイツは。」 そして棚に常備しているお菓子を手に取ると、ボリボリと油っこいポテトチップスの5袋目を食べ始めた。 後でわかる事だが、「今」の夫の食欲に対して、「今」の妻の料理速度では十分に満足させる事が出来ない。 「はぁ、はぁ・・・お、お待たせ。」 スィーダは長時間料理を急いで作っているせいで、疲労しきっている。 だが、そんな彼女にファインは労(ねぎら)いの言葉をかけてやらなかった。 「くそ、遅すぎるぞ!まったく、、、(むしゃ!ガブゥ、バクバク!ゴクン、ごくん、)げぇっぷぅう! ・・・何をボーっとしてる、早く次の料理の準備をしねぇか!」 「あ、は、はいっ。」 それから何度も何度も彼の元へ料理が運ばれた。朝食も昼食も関係ない。腹が減っている時は四六時中食べているのがファインだった。 こうして彼らのやり取りを見ていると、亭主関白とはいえ特に珍しい夫婦には見えない。 「ぐぇ〜っぷ。 ・・・ふん、まぁまぁだったな。おい。」 倍近い腹に膨れたファインが、デザートを催促する。 しかし1分の休みも与えずに料理を作らせて、もし作りおきしておいてもすぐ彼の胃袋に消えるのだから、現時点でデザートは何も無かった。 「用意してねぇのかよ。ったく、お前は学習しない奴だな・・・?」 屈強な肉体でぬぅっと巨体を立たせ、ファインは妻の目の前に立った。膨れすぎなお腹が彼女を後退させる。 そしてそのまま前進し、ファインはスィーダを壁に押し付けた。パツパツに張り詰めた風船のようなお腹だが、中身は空気ではなくお肉なので十分に柔らかさを保っている。 「ぅ、、、;」 もともと身長さがあるにも関わらず、横幅と前後幅も広いせいで(太っている為)彼女の体は後ろから見ると完全に隠れてしまう。 「あんまりガッカリさせるんじゃねぇぞ?今度物足りないと思ったら、、、」 ググ、グゥ、とファインはその超重量で彼女を壁に押し付けたまま体重を預け始める。 「ごめ、、ん、なさい・・・!」 息苦しさで満足に返事も出来ない。夫の機嫌が悪い時は、床に倒されて腹に押しつぶされて完全に身動きが取れなくなる事も珍しくないので、これはマシな方だ。 「ふん。明日は俺の腹がはち切れると思うぐらい、満足させろよな。」 ぐるりと踵(きびす)を返したファインは、ドズゥンドズンとその平均の数倍ある体重で寝床へ向かった。 自室へ帰ると、彼はそこにも備え付けてある菓子やインスタント食品にも手をつけ始める。 最後にドラゴン用の20リットルジュースを3本ほど飲み干して壮大なげっぷを漏らすとグースカと寝息を立てて眠ってしまった。 そして、赤い月が沈み、 青い月が昇り始める・・・ ○月△日 蒼い月の日 「なぁに、アナタ・・・まだ飲み込んでないの?」 氷のように冷たいスィーダの声が、ファインの背中をゾクリとさせた。 「ふ、ふっ、ふっ、待って、くれ・・・(ゴク、ン)。少し休憩、させてくれっ」 無駄とわかっていながら、夫は心の底から懇願する。 「ダ・メ♪」 妻は通常の何倍も巨大なスプーンでグラタンを掬(すく)うと彼の口へ押し込んだ。 「んぐっ?!あ、、、!(ゴッ、ゴクッ)」 まだ満足に飲み込み終わってないのに、容赦なくスィーダは彼に食べ物を与えていく。 喉に詰まりそうなほど詰め込ませ、そして3リットルの炭酸飲料(人でいう500mlボトルみたいな物)を仰向けに寝たままの彼に流し込んだ。量は少ないが今朝から通算して、20本目である。 「(ゴブ、ゴっ、ゴブゥッ)−−−ぶはぁっ!はぁー、はぁー・・」 「クス、凄いお腹。あなたって前世は風船か何かだったんじゃないかしら。」 馬乗りに彼のお腹に跨っているスィーダは、そのパンパンに膨れて大きさを増した風船を優しく撫でた。 食べすぎで膨張した腹部が過敏になってるせいか、ファインはビクリと体を震わせ、抵抗しようと体を動かした・・・が無意味。 太りすぎ、かつ膨れすぎなボール腹のせいで、仰向けに寝た状態・そのうえ妻が上に乗っていては起き上がることは出来ないのだ。 ふたりとも、昨日とはまるで別竜である。 これが、彼らが珍しい夫婦という理由。原因はこの星の空にある、魔力を帯びた蒼月(ソウゲツ)と赤月(セキゲツ)だ。 赤月が昇る日は赤竜が。蒼月が昇る日は青竜、それぞれ気分が高揚し、開放的になる。要は、ろくに我慢せず積極的になりがちなのだ。 この夫婦は、偶然に赤竜と青竜で、なおかつ両者ともその月の影響力を非常に受けやすい体質であるからこそこうして真逆に、まるで性格が入れ替わったかのように変化してしまうのだ。 「ぜぇぜぇ、げっ、、、うげぇえああああっぷ!!! ゆ、許してくれ。私が悪かった、、、もう、今日はこれで限界だ。」 昨日の毅然とした態度はどこへやら、ファインの目には涙が溜まり始めている。 「嘘は良くないわよ、、、それに昨日お腹がパンクしそうな程食べさせろ、って言ったのはあなたでしょう?」 なぜか恐怖を与えるような笑顔のまま、彼女は介護でもしているように、優しく、それでいて無理やり大量に、新しい料理を彼に食べさせ始める。 昨日、自分で山ほど食いまくっていた彼のお腹に余分なスペースなどなく、膨らむしか無かった。 「そうそう、あなたいつも足りない足りない〜って駄々をこねるから、また新しい物を作ってみたの♪」 いったん彼の体から降りると、彼女は楽しそうに台所へと向かった。いわずもがな食料である事はファインもわかっていた。 「はぁ、はぁ、うぅっぷ。何が出てくるんだ・・?以前はウェディングケーキサイズのデコレーションデザートを、2回も腹に・・・ぅう!」 思い出すだけで胸焼けしてきた。あの時は、本当に過食で死んでしまうんじゃないかと思った。 「お待たせ〜」 そうこうしているうちに、スィーダがワゴンに料理を載せてやって来た。 寝そべっているせいでほとんど見えないが、ボリュームはいたって普通に見える。(それでも一般的な成竜20匹前は軽い) 「これを作るのに手間どっちゃって。今日はこれだけでオシマイなの・・・ごめんなさい。」 「あ、あぁ、そうか。いや、いいんだ。」 内心で、ファインはガッツポーズをする。これだけですむなら今日は優しい方だ。 しかし、ぺろっといたずらっぽく舌を出した妻の表情は見逃していた。 「はい、あ〜〜んして☆」 「う、うん。もぐ、、もぐ、、」 再び彼への食料攻めが再開される。これを乗り越えれば終わりだ・・・!と、ファインは頑張ってその料理を食べ始めた。 やけに濃い味付けな気がする。それに、喉が渇きやすいし、なにか違和感を覚えた。 しかし必死になっており、すでに腹一杯の彼に考える余裕はまったく無かった。 ==数時間後== 「ゴッックン!! はぁーーー・・・・はぁー・・・ご、ご馳走、さま。ふぅー、、」 最後のひとかたまりを飲み干し、ファインは深呼吸した。 それにしても、やけにお腹が重い。一昨日に比べたら、まだ少ない方だと思うのだが・・・ん? なんだか自分のお腹が、さっきより大きくなっている気がする。 「喉渇いてるでしょ?はい、ジュース飲んで。」 「あ、あぁ。ありがとう。」 渡された20リットルボトルをごくごくと一気飲みしてしまう。 だが、なんだかもっと水分が欲しい気がする。というか欲しい。 「なぁ、良かったらもう1本・・」 「はい、どうぞ♪」 言われているのがわかっていたかのように、用意されていた大きなペットボトルを渡される。 結局、その後にも追加して合計5本も飲んでしまった。 「ゴクゴクゴクゴク・・・・・・・!! げぷぅううううう!!ふぅ〜、すっきりした。」 依然としてお腹は苦しいままだが、息苦しさは減ったような気がする。 「・・・?」 本当に、そうだろうか。先ほどに比べてどんどん苦しみが増していないだろうか。 「なんだ・・?ふぅ、ふぅ、、、」 「ねぇ、あなた。乾燥ワカメって、水に浸しておくとどれぐらい大きくなるか知ってる?」 「い、いやわからないが、、、」 なんとなく、その質問の意味を察して不安になる。 ますますお腹が苦しくなる。 「物によるけど、だいたい5倍から10倍になったいるすのよね。クス、、、乾燥食品って、凄いわよね。 普通に大量の料理を作っても、食べさせる時間がどうしても足りないの。けど、最初が小さい状態なら沢山短時間でも入るわよね。」 ま、まさかーーー。不安が確信へと強まる。そして、更にお腹が苦しくなってきた。 「はぁー、はぁー、、、ぐぷっ。つまり、さっき、私が食べたものも・・・」 「ふふ、ご明察。作るのに苦労したんだから♪」 楽しそうに彼女は今日一番と思えるとびきりの笑顔を見せる。 そして、徐々に徐々にファインのお腹がハッキリと膨張を始めた。 「う、うぅうう、くぁあっ、アッ、あぐッー−!」 数分立つごとに、彼のお腹が一回り大きくなる。 「どう、満足して貰えたかしら?ふふ。」 本当に風船のように大きく、丸く、巨大になる彼を楽しそうに彼女は撫でて愛でた。 「うげぷ!ぐげっぷぅ・・・!」 空気が居場所を失い、どんどん口から吐き出される。それでも膨張は止まらない。 お腹は二周りほど大きくなっていた。 「う、脚がっ、太股が、、、股がきつぃ・・・!」 以前の超巨大デザートを食べた時のように、膨らんだお腹で脚がぎゅうぎゅうと左右に押し広げられる。 彼のお腹は三周りも大きく膨らむ。 もしベッドに寝ながらであったら天井を押し上げんばかりの超絶的な巨大風船デブ状態と化し、ようやく成長ならぬ膨張は収まった。 「は、腹が・・・・腹がパンクしてしまう、、、うっぷ!!」 「やっと満足出来たみたいね。 ふわぁ、、、徹夜で用意していた生で眠くなってきちゃった。それじゃお休み。」 とはいえ満足しているのは妻の方であろう。昨日の腹いせというわけ等ではなく、普段からお互いにこうなのだ。 何倍にも太った夫のお腹の上でそのまま眠ったてしまうスィーダ。 「あぁ、お休み・・・。」 そして翌日--- 「おい、いつまで俺の上で寝てるんだ! 腹が減ってイライラしてるんだ・・・早くしろっ」 「ご、ごめんなさいっ。すぐに朝食を用意します・・!」 「ーーーと言いたい所だが、ふん。今日はゆっくりでいいぞ。昨日は随分と食えたからな、、、げっぷ。 とはいえ、昼ごろには山ほどの料理を用意していろよ?」 再び昨日とは全く逆の立場と展開。 磁石のN極とS極のような、ある意味対極にいるふたりだが、なんだかんだでお互い仲が良いようだ。 そうでなければとっくに縁が切れている。 これからも夫婦仲良く暮らしていくことだろう。 ただ一つ変化していくものがあるが。・・・夫のウェストだ。 こればかりは、どうしようも無いだろう 〜END〜