◆もしも、あの竜がにく界に行ってしまったら 千年竜 を にく界 に招待してみた。 ディブール:メタボ時代の千年竜。鋭い5つ目のちょい悪ドラゴン。 ベアリッド:ぷちメタボの熊 ブゥーク・ブッグ :超アレな恐竜 † そいつは、30cm以上のぶ厚い肉の塊に被りつく。 脂肪分のたっぷりついているその肉は、いずれ食べた者の肉へと変わるだろう。 「(クッチャクッチャ、ゴグン)げえっふぅ〜〜。」 人目も気にせず、大きくゲップを吐き出す竜がいた。 複数の目を持つ、全体的に紫の体色をした大きなドラゴン。 かなりワガママな性格で、自由奔放に生きる彼は、自身の食欲も好きにさせる為、なかなかに太っていた。 腹はみっともなく出ている上に、たらふく蓄えた脂肪のせいかぼよんと柔らかそうで、しかも年々成長していた。 「あー、退屈だぜ。くそっ。」 彼、“ディブール”は、今の生活が何か物足りず…イライラしていた。 不満を解消するために、意味もなく村を襲って食料を奪ったり、家を壊したりもした。 しかし満たされない。空っぽの心を埋めようと、食べ物をひたすら食っても貯まるのは腹や四肢にまとわりつく脂肪ばかり。 「ちっ、この辺の村はあらかた襲い終わったしな。する事もねぇ・・・寝るか。」 ドスゥーンと重たい音を立ててディブールは仰向けに寝ると、そのデカデカとした腹を洞窟の天井に向け、グースカといびきをかきながら深い眠りについた。 食っちゃ寝の生活で、彼はまた肥えてしまうだろう。 だが、その日はいつもと何かが違っていた−−−− † 「ぐがぁ〜〜〜、ぐごぉおーーー。」 近所迷惑な寝息を立てて熟睡するディブール。と、そこへ・・・ 「おい、さっさとどけよデブ!」 耳元で怒鳴る声が聞こえる。自分に暴言を吐く勇気を持った奴が久々にきたのか、それともただの馬鹿か。 「・・・あぁん?」 彼の寝起きは基本的に不機嫌だ。それも暴言で起こされたとなるとなおさらだ。 薄く目を開けて相手の方を見る。自分ほどではないが、ふっくらとした体型の熊が牙を見せて唸るように睨んでいた。 「ここは“俺の縄張り”だ!さっさと出て行け!」 「…。」 何を言ってるんだこいつは。とりあえず今は機嫌が悪い。そんな時にいきなり怒鳴り込んで来たこいつが悪い。 とりあえず黙らせるか。 体重の乗った重いパンチを繰り出す。バキッといい音がした。 元からの馬力が違う種族差にくわえて、なにより体格差と・・・体重差がそこにはあった。 「ぐぁ?!」 紙飛行機を飛ばしたぐらいの勢いで熊が吹っ飛んで岩壁にめり込んだ。 「て、てめっ、げほっ、やりやがったな!!」 見た目の割には素早い動きで熊が接近、腹にパンチを繰り出してきた。だが、なんの痛みも感じない。 竜にそんな程度の攻撃は通用しない。 決して、腹に分厚い脂肪の壁があるからでは無いぜ。byディブール談 お返しにもう一度パンチ。2回、3回。とどめに尻尾でビンタ。 「ったく、ここは“俺の住処”だっつーの。・・・ん?」 だが、なんだか雰囲気が違う。 広さや壁の色。それにここは色んな物がおいてあるが、自分の私物が一つも見当たらない。 「・・・あぁ?どこだここ?」 「ぅ、うっ、だからここは俺の、いえ、自分の住処っす・・・。」 涙目に語る、なぜか口調が少し柔らかくなった熊。実力差を思い知ったからだろう。 「・・・ち、ちょっとした勘違いじゃねーか///。 誰にでも間違いはあるんだよ、うん。」 ディブールは自分が間違っていることに気づいた。けど決して謝ることは無かった。 ちょっと無言になって考え事をするディブール。 俺、違う寝床に来るほど寝相が悪かったのか?まさかストレスからくる夢遊病じゃないだろうな。 だが、そんな事すぐに忘れた。 洞窟の奥に、山のような食料を見つけたからである。 「うひょぉ、美味そうな食いもんがあるじゃねーか!ちぃとばかし貰うぜ?」 相手の返答を聞く気も無いディブールはノッシノッシと食料の山に向かって歩く。 「え、それは俺が必死に集めた、、!いえ、な、なんでも無いです。」 この竜には絶対に逆らうまい、と理解した熊は頭を下げた。 さっそく、1個果物を取ってパクリ。 「!!!????」 瞬間、衝撃が全身を貫いた。 なん・・だ、これは。うまい。美味すぎる。いや美味いなんてもんじゃない。なんだこの食いもんは。伝説のレアフルーツか?いや、まだまだ沢山あるから珍しいわけじゃないだろうが、それにしたってうまいとんでもなくうまいやばいはやくつぎのくわないと というかもうつぎのをくちにいれてた これもやばい かなりやばい いままでくってたものがざんぱんだったとおもえるぐらいに 「うめぇえええええええええええええええええええ???????!!!!」 ガツガツガツガツ、むしゃ!ムシャムシャ!!バクゥッバクバクムシャ!! 「ほふ、ぐふ、(ゴクン)ほっぺたが落ちそうとは、この事だぜ。んぐっ、あぐ、んっ−−−げふぅ! (バクバクバク、ムッシャ、グチャ、モグモグ)うげぇーーっぷ! お前、どっから、ゴクン、こんなうまい食い物見つけてくるんだ、(バクッバクッ)グェ〜〜ップフッゥ!」 熊は、その食べっぷりを呆然と見つめていた。元から大きかったディブールのふとましいお腹はぐんぐん膨張していき、すぐにパツンパツンに張り詰めた。にも関わらず、ディブールは食べる速度を緩めるどころか、むしろ加速させて食べ続けた。 山のような食料が次々と崩されていき、反比例してディブールの体がぐんぐん大きくなった。止めたかったが、熊はどうする事も出来ずにそわそわと、今まで必死に貯めて蓄えた食料の山が無くならない事を祈った。 でも その願いは成就されなかった。 「うぎゅぐげぇえ〜〜〜〜〜ぁっっっぷぅうう!!!!」 とんでもない音と声の超特大なおくびを出して、ディブールは満面の笑みを浮かべた。 「うっぷ、へへへ、これだけ食ったのは生まれて初めて、げぶっ、だぜ。」 まさか、“あれだけの物”を全部食べきるとはディブール自身も、ましてやぽっちゃり熊も夢にも思わなかった。 「ふっ、ふっ、ひぃ〜、は、腹がパン、パンクしちまい、そうだっ。うぅっぷ!!!」 乱雑に食べまくったせいで、ディブールは何度も月賦を吐き出す。それでも胃にたまった空気はまだ抜けきっていないだろう。 その腹は臨月の妊婦もびっくりな満月と化しており、ボン!!と膨れ突き出ていた。 「あぁ、せっかくためた俺の・・・うぅ。」 りんご1個だけが転がっているのが、逆に惨めである。 「ガハハハ、げぷ! まぁそう肩を落とすな。うまい飯の例だ。俺様がたぁ〜っぷりと食い物とってきて、すぐわけてやるぜ。 ちなみにお前の名前はなんだ?」 「あ、俺はグリズポラール=ベアリッドって言います。」 「長い。覚えられない。熊公でいいな。」 「く、くまこう・・・」 非常に理不尽だったが、ベアリッドは反論しなかった。 「で、ここはどの辺の地域だ?見慣れねぇ果物や何やらがけっこうあったが。」 「ここはフィードロアですよ、えっと・・・ドラゴン様。」 「ディブールだ。ふぃー、、なんだって?」 「フィードロアの北西部です、ディブール様。」 しかし、全く聞いたことがない地名だ。博識じゃないが、ディブールは近隣の場所はほとんど足を運んだことがあるから知っているはず。 だが、フィードロアなんて名前一度も聞いたことがない。 えらい遠い場所まで来ちまったみたいだな。・・・いや、待てよ。 逆に考えれば、暫くはこの辺で好きに暴れられるし、美味い物もたくさん食えるってことじゃねーのか。 パンパンのお腹を撫でつつ、ぐふふと不適に笑うディブール。 「よーし、熊公。お前、とりあえずこの辺を案内しろ。ついでに山ほど食料を獲得してやる。」 「ディブール様、よその国から来た方だったんですか? でも、、、この辺は…その、、、。」 熊公こと熊のベアリッドは口をもごもごさせる。 「なんだ、さっさと言え。」 「北西部の、特にこの周辺一帯は・・ブゥーク様がボスで、見つけた食料の半分は、彼に捧げないといけないんです。」 「ぁ?馬鹿な奴だな。わざわざ食いもんをやるなんて。」 話を聞くと、どうやらそのブゥークって奴はかなり強いらしく、また体がデカくて誰も逆らえないらしい。 幸い、ここフィードロアは豊富な食料で溢れているが、気候が不安定なため、ある程度蓄えも無いといざという時に腹一杯食べられないのだ。 ちなみにベアリッドが必死にこつこつ貯めた食料は、さきほどディブールがぜーんぶ食べてしまった。半日で。 ベアリッドの案内で洞窟から出てみると、なるほど、うまいものやカロリーの高いものがあるせいか、やたら肥え太った獣達が多い。 猛獣ですら、でっぷりとした腹を重たそうにのたのたと歩いていた。 ディブールは、あれほど食べたばかりだというのに、その辺に生っている果物をもいでは食べ歩きした。 「おぃ、新入りかお前!ブゥーク様に捧げる事もせず食べまくるとはなんて奴だ!」 道中、ブゥークの手下と名乗る、デブった猛獣たちが何度か襲い掛かってきたが、全部返り討ちにしてぶっ飛ばしてやった。 普段から暴れまくっているディブールはただのデブ竜じゃなく、強さも兼ね備えていた。 そして、あろう事かブゥークの住処へ堂々と乗り込んでいくのだった。 † 広い広い洞窟。その奥に、ブゥークはいた。 そいつは肉塊にまでは到達していないものの、常識はずれなまでに肥え太ったティラノサウルス型の恐竜だった。 とんでもない太鼓っ腹の持ち主で、風船恐竜かと思いたくなるほどである。 お座り状態で(太りすぎて体を支えられないのだ)両足を左右に出して、小さな前脚をちょこんとさせている姿は、一見可愛らしい。 だが凶悪な顔つきが全て台無しにしていた。 「ぐふう〜、ふぅ、ぐふぅ。んん〜〜?飯のお代わりを持ってきた様子じゃないな。」 ブゥークは目を細めて眼前の太った竜を見つめた。 「てめーか、独占してる強欲な野郎は。へへへ、奥にたーんまりと溜め込んでるみたいじゃねぇか。 今日から、ここを一時的な俺の住処にしてもらうぜ。」 「ぐふっふ、馬鹿なやつめ。おい、お前ら、丁重におもてなしをしろ。」 むっしゃむっしゃと骨付き肉をかじりながら、ブゥークは部下に命令した。 「や、やばいですってディブール様。あの数相手じゃ・・・」 後ろにいるベアリッドが、不安そうな顔をする。 ディブールの力強さは身を持って知っていたが、あの数相手じゃ多勢に無勢だ。 だがディブールに大勢の部下が一斉に襲い掛かっても全く歯が立たなかった。 己の食欲に任せて食い肥えるだけだったここの住民は、ただデブくて体が大きいだけの“デクノボウ” いや、"デブの膨”とも言うべき連中だった。 尻尾で簡単に薙ぎ払われ、軽々と投げられて、部下たちはあっという間に戦闘不能状態に陥った。 「ったく、ろくな準備体操にすらなりゃしねぇ。」 ドスゥンと力強くボスへ一歩近づくディブール。でかでかとした腹がどっぷりと揺れた。 「げぶぅー!なかなかやるようだな。」 十数キロある肉片を飲み干したブゥークは、物凄い遅い動きでゆっくりと立ち上がった。 恐竜タイプの彼だが、垂れているわけじゃないのに腹が地面に到達している。いったいどれだけ太っているやら。 ズゥーーン!ズシィーン! と地響きを立てながらブゥークもディブールに近寄ってくる。 「ワシがじきじきに相手をしてやろう。うっぷ。」 「お前じゃ腕(マエアシ)も後脚も役に立たねぇだろ。満足に動けもしない奴が何するやら。」 目の前まで対峙すると、ブゥークの巨大さが際立った。 ディブールもかなり太って大きな竜であったが、ブゥークは“肥満レベル”が遥かに上で、体のサイズもかなり大きかった。 「ぐぶふぅーーー、ふぅー。」 わずか、10歩程度でブゥークは息切れを起こしていた。こんな奴に負ける気はしない。 というより、こいつこんな状態でどうやって戦うって言うんだか。 「ワシの武器はぁ、この鋭い爪でも牙でもない、 この体があれば十分だぁ!!」 ぐぐぐっ、と体を傾けたと思うと、ブゥークはその超重量級の巨体をディブール目掛けて倒してきた。 【ドズゥウウウウンン!!!!!!!】 空間全体が揺らぐような超振動。地震速報が発表されそうな揺れがその一帯を支配した。 ビシビシと地盤にヒビが入り、想像を絶する圧力がディブールを襲う。 土埃が舞い上がり、ブゥークは完全にうつ伏せ状態となっていた。 ブゥークは自慢(?)の超太鼓腹で完全に相手を押しつぶした。つもりでいた。 「ぐ、・・・へっ、ボスとか言う割りに、その程度とはお笑いだ。」 「なん、だとぉ?」 自分の真下から声がして、ブゥークはぎょっと目を見開いた。この体に押し潰された奴は、誰もが気絶したし、仮に一時的に耐えたとしても腹に圧迫されて声すら出せないはずなのに。 ブゥークは現在、どんな状態になっているか確認もできない。自分の太りすぎた体が邪魔をするのだ。 「す、凄い・・・!」 ベアリッドは息を呑んでその様子を見ていた。 地面がえぐれるぐらい脚がめり込んでいるディブール。だが、彼はブゥークの巨体を“持ち上げて”いるのだ。 ガッシリと相手の両脇腹を掴み、(とはいえ、デカすぎてほとんど脇まで届かない)そしてディブール自身のパツパツの巨大なお腹を仰け反るような形で突き出して土台として支え、自分の数倍の体重をほこる相手を持ち上げていた。 「ふぅーっ、ふぅーー・・・!恐竜と竜じゃ、格がっ、違うん、だよっ。多少強い力を持ってはいるが、“竜を恐れる”から“恐竜”、なんだ覚えとけ。」 もちろん口から出任せの嘘である。 「そんな馬鹿な・・ふぅふぅ・・・!」 ブゥークは自分の超巨大な体(ただの超肥満体)が浮き上がる場面など、まして誰かに持ち上げられる姿など想像だにしなかった。 「ぐぉ、おおおっ!!!」 叫びながら気合を入れる。そして、風船というには余りに重い丸々とした恐竜、ブゥークを、ディブールは“投げ”た。 ズドォオオオオオオオオオオオン!!!! その5秒後、隕石落下でクレーターが生まれた。 のではなく、ブゥークの落下と超重量が加算され、柔らかい地盤は見事にその恐竜が半分埋まるほどにめりこんでしまった。 仰向けに倒れこんだブゥークは、山のような腹を上に向け、舌を出したまま気絶した。 「へへへ、大したこと無かったな。」 これで、こいつが蓄えていた食糧は全部俺のもんか。(ぐぐぅ〜〜〜。) おっと、あんなに食ったのにもう腹が減ってきちまった。まぁけっこうエネルギー使ったからな。 あの美味い食料を山ほど食える・・・・ そう考えると、ディブールは自然とヨダレを垂らさずにはいられなかった。 そして、ここからはディブールのスーパーご飯タイムに移行する。 かと思いきや ワァッ!!と聞いたことの無い声があがる。 「やった!ブゥークが倒されたっ!」「これで自由だっ!!」「凄い竜族だ・・・ただ太ってるだけじゃない!!」 それは生まれて初めて耳にする、《歓声》というものだった。 「・・・あぁん。何騒いでるんだあいつら。」 まぁ俺には関係ない。と再び歩み始めようとするディブールに、ドスドスと走ってきたベアリッドが思いっきり腹にベアハグしてきた。 「ディブール様、凄いです!流石です!まさかブゥークの奴をぶん投げるだなんて!!?」 「ふふん、まぁ俺様にとっちゃ軽いことさ。」 とはいえ、ちょっとだけ、素直に嬉しい。 くまこうだけかと思ったが、元部下のデブい猛獣たちも次々とディブールの元へ集まって、感謝の言葉を述べ始めた。 「あなたのおかげで、また自由に食事ができます!」「ありがとうっ!!」「ディブール様、あなたは俺たちの救世主です!」 さきほどぶっ飛ばした連中が、満面の笑みを浮かべて慕ってくれる。 ディブールは困惑し、どう反応していいか分からずにそっぽを向いた。 「俺は腹が減ってただけだ。それより、そこをどかお前ら。さっさとメシにしたいんだよ。」 「それでは、ディブール様を歓迎する宴を開きます!!」 「どうか、暫く滞在していってください!」 俺様を追い出すのではなく、留まって欲しいだと? 不思議な現象に、納得がいかなかったが宴を開くというなら参加するしかない。 「お願いしますっ!!」 「ふん、そこまで言うなら仕方ねぇ。」 生まれて初めて貰う“感謝”の気持ち。なんだかくすぐったい気持ちになったが、悪くはない。 酒で酔いも廻ったディブールは、気分上々でお祭り騒ぎを楽しんだ。 食料は誰も食べきれないほどの蓄えがあったので、何日好きなだけ食べても無くならない。 ブゥークは独占欲が強く、自分でも食べ切れない量なのに、徴収し続けていた。 その数年分の貯蓄は、並みの肥満竜の一生分よりも多くて、大勢の大食らいたちが腹一杯以上に食い続けても減ることが無かった。 そして、ドンチャン騒ぎが1週間を過ぎた頃−−- 「ぐぇえっぷ。おっと」 ぽろり、と特大の果実を落としてしまう。かがんで拾おうとするディブールだが、体が曲げられない事に気づく。 「ん?・・・・ちとデブっちまったか。」 ウエストは以前までの1・5〜2倍近い。毎日大量の食料を詰め込むお腹はパンパンで、見事に膨れ上がっており、また皮下脂肪や内臓脂肪をたっぷり蓄えた体は全体的に丸みを帯びていた。 「ディブール様、はいこれ。」 元・ブゥークの部下が落とした物を拾って手渡してくれた。彼らも、わずか1週間でかなりの増体が見受けられる。200kgほどだった獣人も、300kgぐらいのデブった獣と化していた。 「おう、悪いな。(むしゃ、ゴクン)・・・ぐふぅー。」 「ディブール様、そんな大きい体していますからね。俺たちに手伝えることがあれば、なんでも言ってください。」 ちなみに、ブゥークは依然として床に埋まったままだ。もっと痩せないと起き上がることすら出来ないだろう。 しかし、完全な無運動にくわえ、みんなが食料を情けでプレゼントするおかげで、彼のお腹も巨大化する一方であった。 すっかり大人しくなったブゥークは、丸みを帯びるにつれて性格も丸くなっていった気がする。 だが、肥満化の速度はディブールが圧倒的だった。4m、いやそれ以上あっただろう彼の腹回り。 今では、市販の短いメジャーでは測定不能なサイズになっている。 体重は、彼が体重計に乗ったことがないので不明だが、まぁ平均的な竜と比べたら“重度肥満体”のレベルであるのは間違いない。 「ぐふふ、しかしここのメシは本当にうまいぜ。病み付きになっちまう。」 今では、彼を慕う者たちが最高の食材を使って、様々な料理を運んできてくれる。(実はどれも超高カロリーなのだが、誰もそんな事を知らないし、気にしない。) ディブールは行儀悪い食べ方をするせいで、(良い言い方をすればワイルドに食べるせいで)食事量が本っ当に多い。 すっかりこの場所が気に入ってしまったディブールは、元の住処の事も忘れて好きなように暮らした。 とはいえ、ほとんど食っちゃ寝ばかりであるが。 しかし以前のように暴れなくても、イライラはあまり起きなくなっていた。 「(なんだか、やけに食欲が湧いてくるぜ。にしても、やばいな、、、流石にちょっと太り過ぎちまったか?)」 自分のお腹を撫でて見る。凄く綺麗な孤を描いて突き出ており、自分の体だと思えないぐらいである。 別パーツだと思いたい。 「ディブール様、次の食事の用意が出来ました!みんなと一緒にメシにしましょうっ」 嬉しそうにやって来るベアリッド。彼もまた、冬眠前の熊以上に肥え太っており、わき腹の肉がいい感じに溜まっていた。腹は大きく、頬っぺたや顎もたぷんたぷんである。彼のふわふわの毛並みで丸いお腹は、きっと枕かソファーにすればかなり心地よいかもしれない。 「おう、そうか。待ちくたびれたぜ。」 ドスゥーン、ドズゥンと重い音を立てながら、ディブールが歩く。パツパツのお腹は非常に弾力がありそうで、しかも歩いて僅かに揺れる度に、もう地面へ何度も接触していた。 いずれ、以前のブゥークのように、重力で垂れているわけでもないのに、純粋な腹部成長(膨張に近い)で地面に接するまでのデブ竜へなるだろう。 そして、その時は想像以上に早くやってきた。 2ヵ月後 「ぐぶっぷ!!ぶへぇえええ〜〜〜うぅうっぷ!!うぅ〜ん、く、苦しい、、、どうしちまったんだ俺の体は;」 うぅ〜ん、うーんと、息苦しそうなディブール。太るほど、彼の食欲は増大していき、一日の摂取量がおかしいぐらいになっていた。まるでガス貯蔵タンクみたいな丸々としたデカすぎる巨腹はパンッパンに膨れ上がっている。 摂取量に対して、消化吸収する速度が全く追いつかないのだ。 「だ、誰でもいいっ、ひぃふぅはぁ、げふぶぶふぅー!!は、腹がっ、苦しいんだ・・誰か、さすってぐれぇ〜。」 肉と食料がつまりすぎ風船竜と化したディブールが呼吸を激しくすると、そのお腹がむくぅ〜、しゅうーーと著しい膨張と収縮を繰り返していた。 「だ、大丈夫ですかディブール様!」 果てしなく太り続ける猛獣たちが、心配してディブールの超メタボ腹をさすってあげる。 「ぐぶぅーー!ふぅーーー!ふぅー・・・、少しだけ楽に、なったぜ。ありがどよ。ぐぇっぷ! げふっ、悪くなってた食いもんにでも当たったのかもしれねぇな。」 「かもしれないですね〜。だいぶ前から溜めてた食料も沢山残ってるので、悪くなったものがあったのかも。」 異常なまでの自分の食べすぎ、とは思っていなかった。 「よぅし、このまま貯まってる食料を無駄にするのは勿体ねぇ。 お前ら、今までにアイツが蓄えた食料、全部使い切るぜ!!」 「おぉーーー!!」 食い意地の張った、“食欲にどこまでも素直”な獣達は喜んで舌なめずりをした。 今までは少しだけ遠慮してディブールに多く渡していたが、あの溜め込んでいる食料を全部食べるとなると、誰もが好きなだけ平らげる事が可能だ。 そして、“本当の宴”が始まった。 1日目は、それはもうお祭り騒ぎであった。酒を飲み、騒ぎ、誰もが無礼講で、料理が次々と運ばれ、それでも貯蔵庫の食料は一切減らない。 ディブールは、先日あんな目にあったばかりだというのに、全く遠慮せず、本来の《食欲以上》に食べてしまった。なぜかわからないが、食べたいと思う気持ち以上に腹におさめてしまったのだ。 大勢の仲間(自覚はないが)と共にする食事の時間が、心地よかったのだ。 酔っていた事もあるだろう。そして、その心地よさと満腹感が重なり、“食事の時間”が彼に非常に幸せな気分をもたらした。 本来、食事というものは活動エネルギーの摂取である。それ以上に食べれば、それだけ体は肥える。 だけど普通は食べ過ぎないように、一定上は満腹感が強くなり食欲は落ちる。 しかし無限の貯蓄が可能といわれている竜族のディブールは、いわゆる“食い溜め”が他の生物の比ではない。 元々太る事が可能な体にくわえ、“食事が自分の欲求解消”になっていき、ディブールの食欲は暴走に近いぐらい増大し続けた。 グランド・ディナー(偉大な夕食会)と後に言われる宴の3日目。 ディブールはまた過食状態で苦しんでいた。だが、それでもまだ食べたいという思いの方が強く、腹を膨らませてまで料理を食った。 「ふぅー、ふっ、うぶっ、悪ぃ、そごの、肉をどってぐれぇ。」 「わかりましたっ。」 ディブールは食べすぎと太り過ぎのせいで、ろくに身動きが出来ない。 とうとう以前のブゥークのように、立っていようが座っていようがパンパンの下腹部が地面に接する状態、になっていた。 ブゥークは割と長い期間で、あのような体型になったにもかかわらず、ディブールはこの世界に来てしまってからまだ半年も過ぎていない。 「ぐぇっぷ、ふひゅー・・・また腹がきつくなってぎだ・・・げぷ。」 「うーん、風邪でも引いたんですかね?ここは気候が安定しませんから。 沢山食って元気をつければ、すぐに体調もよくなりますよ!はい、ディブール様!」 そして渡される特性の栄養満点スープや栄養剤をドボドボと飲み干すディブール。 お腹は更に膨らんでしまい、それによって食欲と摂取可能量は更にパワーアップしてしまう。 食欲不振時に食べる激辛の野菜や穀物もくわわり、 ディブールは過剰なまでにメシを食べる。食べる。食べ続ける。 そして、肥えて肥えてとことん肥えまくった。 その後、グランド・ディナーは1ヶ月続いた。 いったいどれだけの食料が蓄えられていたのだろう。 しかも、ここフィードロアは過剰なほどに食糧生産が自動的にされてしまう。自然が非常に強いのだ。 肥沃な大地、というより肥満過ぎる大地というべきか。放っておいても栄養たっっぷりの穀物や果物が溢れてしまう場所なのだ。 「むしゃむっしゃ!!!バァクバクくっちゃくっちゃゴブゴブゴブ!! ぶはぁあああああ!げぇええええええええええええっぷううう!!」 最後の貯蔵分を全て腹に収めたディブール。すでに彼は自身の膨らみすぎたお腹によって後ろに押され、仰向けに倒れこんでいる。 数日前に、天井に挟まって身動きが取れなくなりそうなレベルになっていた彼は外で他の連中がくれる食料をひたすら飲み込んでいた。 「うまがったぜぇ〜〜。こんなに清清しい気分は・・うっぷ! 生まれて初めてだ。げぇっぷ!」 蛙竜とも呼べそうな、超巨大膨張風船腹を撫で回しつつ、ディブールはおくびを出し続けた。 すでに腹を倍に膨らませる程度の食事では、苦しさはなくなっていた。 ウエストは余裕で10mかそれ以上を超えており、ブゥークの肥満体が生易しい状態だ。 肉塊に近づいた肥満竜になっているが、日頃の食べすぎがあいまって腹はまるで木星のように巨大かつ綺麗な円を形成していた。背中側にもたっぷりとついた脂肪のおかげで、シルエットを見ると腹側が飛び出し気味の、球体に近い。 貯蔵分を全て食べ終える頃には、立派過ぎる体格となってしまったディブール。 しかしある問題が発生していた。 「ぐぶっふぅ〜〜〜。しかし、今更だがここまで太るとは思わながっだぜぇ。げぶぶ。」 寝た状態から、なんとか体を起こすことはまだ出来たが、自分で食料を手に入れることが不可能になっていた。 腹が邪魔をするし、体が大きくなりすぎて全く手が届かないのだ。 今では、彼を慕ってくれる者達がディブールの腹をよじのぼり(これがなかなかくすぐったい。)口元まで料理や食べ物を持ってきてくれている。 だが、そのペースだと時間がかかるし人手がかかるし、何よりディブールの今の食欲に全く追いつけていない。 (余談だが、ブゥークの方は身動きが取れる程度には痩せたのだが、相変わらず腹を引きずって歩くぐらいで、実質この付近の肥満獣ナンバー2の座は揺るがなかった。} そうして食欲が満たされなくなったディブールは、徐々にイライラが戻ってきた。 「ぶふー、ふぅー、おい、早ぐ持って来い!遅い、ぞ。。。うっぷ!」 直径1m近い果物を籠に何個も入れて運ぶベアリッドは息切れしながらも、なんとかそれを運んだ。 「ちっども足りないぞ!!はぁ、はぁ、早くお代わりを持ってきやがれ!」 しかし食欲が完全に満たされない状態でも、十分今のディブールが太る量の食事は与えられていた。 空腹の辛さを知っている住民は大食らいの彼をなんとかしてあげたいと思いつつ、いい案が浮かばないで困ってしまった。 「・・・そうだ。俺、ダラクに知り合いがいるんだけどさ。 そいつに頼めば、もしかしたら解決するかもしれない。」 ベアリッドは、機械帝国ダラクでの話を思い出した。あの場所では、あまりに太りすぎて動けなくなった者たちでも自由に食事が可能らしい。発達した機械文明のおかげで、自動給与システムが進んでいる・・・らしい。 フィードロアにも食料はいくらでもあるが、それを食べさせる今の環境がディブールの食欲に追いついていない。 1週間後、ベアリッドはダラクの知り合いに話をつけて、そして1ヶ月・・・ ディブール専用の食料自動給与装置が遂に完成した。 なんと、機械が全て自動で穀物や果物、肉類や調味料を調達し、自動で料理を作成、そしてエスカレータ方式でディブールの元へ運ばせ、そのうえ食べさせるのも機械のマジックハンドという至れり尽くせりっぷりであった。 「ぐははは、これはいい!(むしゃばく、ガツガツ!!) これで好きなだげ、食べ続けることが出来るぜぇ!!」 給与システムは凄かった。ディブールは“ただそこに居るだけで”腹を満たすことが出来た。 マジックハンドがパンパンの腹を摩ったり揉んだりしてくれるおかげで、疲労も無い。 そして驚くべきことに、ディブールが寝ている間もその機械は動き続け、与え続けた。 「ん、んぁあ〜?(ゴクゴク)ううっぷ。うぉ、ほほ、こいつぁすげーぜ。寝たままの状態でも、げっぷ、食えるのか。んふぅー。」 数日後の夜。 [ピピ。主人の肥満レベル、増加を確認。供給量・速度段階上昇します。] 翌朝のこと。 「はぁはぁ、ぐぶふぅう〜〜。んん〜、なんだ?俺様の腹がパンッパンじゃね〜が。げぶぅっ!!」 見ると、視界にはかなり突き出て大きくなったお腹が見える。まるで超肥満竜が妊娠したみたいだ。俺は雄だが。 だが、不思議と心地よい満腹感があった。 マジックハンドは、優しく、丁寧に、だが大量に、料理を食べさせ続ける。 ずっとずっと、どこまでも−−− [ピピピっ。主人の肥満レベル、更に進行。供給速度、2段階上昇させます。] 装置を取り付けてから、1ヵ月後。 常にフル稼働でディブールは食料を与えられていた。その様子は傍から見ると強制肥育に限りなく近い。 「ぐぶっ、ぐぶぅっ(ばくばく、ばく、ゴクン)ふぁ、はっ、ぞろぞろ、ぎゅうけい、してぇっ」 だが音声対応していないこの機械に言葉は通じない。冷徹なマシーンは主人が欲するはずの食料を、ただ延々と運び、食べさせてやる。腹が更に大きくなる。どんどん膨らんでいく。凄まじいまでに。 「がば、ばぁっ、ぶふっ、ぐぇえええっぷ!!うぅ、うっ、だれがっ、そろそろ、止めてぐれぇっ!!」 [肥満レベル、尚も増大。供給レベル、更に上昇します。] 魂のこもっていない声が聞こえ、更に激しい食料供給が、速度を増してディブールを襲う。 「うぶぅっ、はら、がっ、腹が風船みてーにっ、膨らみ、やがるっ、ぐぶぅぇえ〜〜っ!! ぜぇっ、ぜぇ〜っ、くまこうっ、誰でもいいっ、とめで、ぐれぇ・・!」 ぐぐぐ、ぶっくぅうううう!! と超ドレッドノート級に肥大化し、膨張したお腹は、本当にパンク寸前と思えるほど大きくなっていた。 だが、竜の体は頑丈で、なおかつどこまでも太り、膨れる性質を持っている。 ディブールは満腹なのか、満足なのか、苦しいのか判断も出来ない。 涙目になって、どこまでも膨れていくお腹をなんとかしようと手足を動かす。 しかし脂肪を蓄えた四肢は動かしたところで、何の意味も無かった。 腹のサイズが大きくなると、センサーが感知して更なる食料をディブールに与える。 ベキ、バキと音を立ててマッサージ部分の装置が破壊された。 しかし供給場所だけは何が起こっても壊れないシステムになっているのか、なおも止まらない。 「ぐばぁ、がっ、あがぁっ!はっ、アグッ??!」 体重が増え続ける。地面に亀裂が走る。お腹が更に丸く、巨大になる。脂肪はぐんぐん蓄えられる。 胃袋はフル稼働しているが全く消化ペースが追いつかない。 腹回りがどんどん太る。際限なく膨らむ。丸く、更に丸く。 「(もう、駄目だ・・・・限界だ!!!)」 ウエストは数十メートルとなり、視界の大半は自分の膨れた腹だ。 荒い呼吸のせいで、体は大きく揺れて、お腹が膨張と収縮を何度も繰り返す。 それこそ、山のような体になったディブールは、サイズは立派な“肉塊竜”であった。 それでいて、本来ならピラミッドのような形状になる体は膨大な、無限とも思いたくなる食料を詰め込まれた事によって、前代未聞の“お腹”を形成していた。肉風船とも呼べそうな肉体は、なおも膨張し続ける。 意識は朦朧として、ディブールはポンプのように脈動する喉の音と、機械の駆動音だけを聞きながら、深い眠りについていった−−−−− 限界知らずの肉体を持った竜とはいえ、それはあくまで喩えの話に過ぎない。 生物である以上、限度はある。竜とて不死身ではない。 「うぁ、、、、あ・・・・!はっ・・・・・・・・がっーーーーーーーー?????!!!!!」 必死に最後の抵抗をして、へこませていた(つもりの)腹が、力を失って急激な爆発力を生み出す。 【ボンッッッッッッッ!!!!!!!!!!】 パンクしたのではない。無理やり押し込んで、圧縮されていた食料がとうとう腹部の防圧を打ち破り、最大限に膨張したのだ。 紛れも無く、世界一と呼べるような体型と化したディブールは、薄れいく意識の中自分の膨れ上がった姿を目に焼き付けて、暗闇に意識を落としていった・・・・・・・・・ 「ん・・・・・んぁ?」 目を覚ますと、見慣れた洞窟の天井が視界にうつった。 「ここは・・・・」 俺の、前の住処だ。 むくりと体を起こす。相変わらずデブっているが、“あの時”のような姿じゃない。 「夢、だったのかよ。」 くくく、と自然と笑いが込み上げてくる。馬鹿みたいな夢だった。 いくら食い意地が張ってるからって、あそこまで食べるか普通。 安心しきった。途端に腹の虫が勢い良くぐぐぅうーっと鳴いた。 「へっ、長い時間眠ってたみたいだな。さて、一暴れして食料を稼いでくるとするか。」 のっしのっしと歩き、村へと向かうディブール。 だが、なんとなく、不必要に暴れることは無かった。そんなにストレスはたまっていなかったし、何よりメシが欲しかった。 食料庫を襲って、たらふく食って腹を膨らませたディブールは満足そうに次の村へ向かい、そこでもまた好きなだけメシを食らった。 やけに食欲があるな、と自分の腹を摩りつつ、彼は好きなだけ食べていった。 わずか、1日で体重が2割も上昇する羽目になったディブール。 不思議な夢を見て以来、やけに食欲が増した。 順調に、確実に、肉塊竜への道を歩んでいくことだろう。 ぼってりとしたお腹は、日々その丸みを増していくのだった。 〜おしまい〜