-貪欲な鮫- 鮫人=鮫の獣人・・・のようなもの。主食は魚。 なかなかに肥え太った鮫人が居た。固太りでガッシリした体型とも言えるが、少々腹が出すぎている。 その原因は、彼の平均以上に強い“食”への欲求であった。 食べる行為自体を求め、空腹が満たされてからも大量に口の中に物を注ぎ込む。パンパンになった腹が限界を知らせてから、ようやくそれ以上食べるかどうかを躊躇する奴だった。 名前はグリィド。その名のとおりGreed(強欲)な鮫人である。 バケツを両手に何個も持ち、荷物を背負い、ドスドスと重たい足取りで彼はいつもの餌場へと向かった。 「ふぅ〜、腹が減ったぜ。」 広大な川を横断する橋。 そこに荷物を降ろし、どかっと座り込むグリィド。そして、リュックから取り出したビンの液体をドボドボと川に流し始めた。 すると、魚が面白いように集まってきて、それを飲み始めた。次いで、彼は大量の餌も川が汚染されるんじゃないかってぐらいの量落とした。 すると、川の魚達は餓えたピラニアもびっくりするぐらいの勢いで餌を食べていった。 「へへへ、俺の為に、どんどん食って太ってくれよ。」 そして、川に流し込んだ液体をグリィドもぐびりと飲んだ。実はこれ、養殖場の魚を肥育する専用の液体なのだ。 魚にとっては、一般人で言う、ビール等の嗜好品(かなり依存度は高いが)に近く、そのうえ食欲も非常に強くなるし太りやすくなる。 鮫人は魚とは違うが、限りなく近い存在である以上、同等の効果はあるはずなのだが・・・。 この鮫はわかっていながら、癖になった液体をグビグビとジュースを飲むように(実際かなり美味)3本飲み干した。とはいえ、この液体が彼の食欲の原動力かというと全く違う。根本的な原因は、彼の根底にある“食欲”の強さなのだ。 「げぶぅ〜!さぁて、まずは腹ごしらえに弁当でも食うか。」 そして、途中買った大盛りの弁当をあろうことか、20箱も自分の前に積み上げて、それを一気に平らげた。 鮫人用なので、当然一箱が1人前なのに・・・。この鮫がいかに強い食欲を持っているか、その一端が垣間見えた事だろう。 そして、弁当を食べ終え2時間近くが経過した頃には川の魚たちも腹いっぱい食べて巨大化していた。 「ふぅー。旨そうだぜぇ、、、今日はなかなか体のデカい連中が食いついてきてくれたな。 それじゃ行くとするか。 よっと。」 パキポキと骨を鳴らしたり、軽く準備体操をすると、あろう事かグリィドは川に飛び込んだ。 ドボォーーンと水しぶきが上がる。まぁ、それだけの体格と体重は持ち合わせていたから仕方ない。 しかし腐っても鮫人、デブっても鮫人。水中での彼は陸上での重苦しさを全く感じさせない動きを見せた。 腹がパンパンになって鈍くなった魚を簡単に捕まえては、あっという間にバケツを山盛りの魚で埋め尽くす。 10分か20分、いずれにせよかなり短い時間なのに、グリィドは4つのバケツを脂の乗った旨そうな魚介類で一杯にしたのだった。 「さぁて、それじゃあメシにするか。運動したおかげで、腹が減って死にそうだぜ。」 だらだらと涎を垂らしながら、我慢限界の胃袋へ捧げる魚を一掴み、あっという間に飲み込むとかなり大きい魚だったのに一瞬で食べてしまった。 その1匹をスタートとして、グリィドの暴食が開始された。 「はぁー、はぁ、(ゴックン)うめぇ、やっぱり、ここの魚は最高っ、だぜぇ〜!(バクバク、バリィ!!)」 ムシャムシャと音を立てながら、すでに20箱の大盛り弁当を平らげた腹に追加で魚を入れる。 5匹、10匹、20匹。 まだまだ止まらない。まだバケツ一杯すら終わっていない。 例のドリンクを片手に、塩で味付けしたり、バターを塗ったり・・・もちろん生で食べるのが一番多い。(新鮮味があるらしい) デカデカとしたグリィドの腹がぐぐん、と大きくなる。太った個体のでかっ腹が膨らむ、という事はそれだけでも尋常でない量が胃袋に収まったことになる。 数万キロカロリーは余裕で突破しているにもかかわらず、彼は食べるのを止めない。 当然だ、山盛りのバケツはまだ3つも残っている。それを全部食べつくすまで彼の欲求は満たされない。 「ふっ、ぐふっ、んぐっ、、、はぐっ!!」 レストランではしかめっ面をされそうな、品の無い豪快な食べっぷり。そうでなくては、“用意された量”を食べつくすだけで日が暮れる。 ぶくっ、と音が聞こえそうなぐらい、目に見えてグリィドの腹が更なる膨大化を見せる。パンパンになった腹は、見事な球となり、只の肥満鮫以上のボリュームを表現していた。 休み無く食べるせいでリスかハムスターみたいに頬は膨らんでいる。 そして2時間後 「ぐはぁ〜〜食った食った!!」 ぽんぽんを空に向け、思いっきり背伸びして鮫人は背を下に倒れこんだ。 結局すべての魚を食べつくした彼のお腹は尋常でない程開始時より大きく膨らんでおり、しかし太った体に相応しいボリュームと形になっていた。 「へへっ、食べ応えがあったぜ。げぇえっぷ!!」 何度もお腹を摩りながら、寝そべったまま、ちらりとグリィドは川を再び見た。 まだまだ食い応えがありそうな太った魚がのったりと漂っていた。 「もう少し、食べるか・・・・ふんっ、うぐぐぐ!!?」 しかし起き上がれない。当然である。いったい、今回の食事で何キロ増体したと思っているのだろう。 「畜生、もう少し食いてぇのに・・・!」 だが、何度挑戦しても駄目。寝返りすら辛い状態だ。 「ふぅ、ふぅ。くそ、仕方ねぇ・・・・・・。今日はこのまま寝て、腹が落ち着いたら後でまた食うか。」 魚を捕るための運動で、体は鍛えられる。 だが、彼の貪欲な食欲は自身の体をどこまでも太らせていくだろう。 〜終〜