D[Battle・Butter] 話は、アバロン夫妻がベクタ料理専門店”chubby”を再び訪れるより数日前に遡る。 マージ家では、ちょっと困った事がおきていた。 目の前に積まれた箱を見つめて、ダグラスは今後の事を考える。 「んーむ。」 冷蔵室に入りきらない箱の山は、無言の重圧をこちらに送ってくる。 パンに使う業務用のバター、チーズ、といった乳製品。それが発注数のミスで、山のように届けられたのだ。 「まさか、桁一つ多く届けられるとはな。」 ため息も出るというもの。向こうのミスなので、料金は従来のままで構わないらしいが・・・。 それにしても、どうやって処分するべきか。要冷蔵なので、外に溢れている分は早いうちに処分しなくてはならない。 まず、ダグラスとハリアは近所の馴染みある者達に、それぞれ2,3箱をわけてあげた。 (そのお礼として、食べ物で帰ってきたり、お茶やお菓子を出されたりして、それらを平らげる羽目になったが) しかし、それぐらいではまだまだ余る。 桁一つ多いということは、本来必要だった物の10倍の量。 お客にも、買い物後に欲しい場合はサービスとして渡してみた。 また、業務用バターはどうしても賞味期限が短い。 消費期限という訳ではないから、食べる分には問題ないかもしれないが、 客商売をしている身として当然ながら品質が落ちてから商品に使うわけにはいかない。 結局、身内で早いうちに片付けなくてはいけない。それからマージ家のチーズ・バター漬け生活が始まった。 とはいえ、チーズやバターだけ食べるわけにはいかない。当然ながらパンや料理と組み合わせて食べる必要がある。 しかも、低脂肪なんかを取り扱っているわけがなく、むしろ十分に風味や味を引き出すために高脂肪乳がメインだ。脂肪分の高さは言うまでもない。 余るほど大量にバターやチーズがあるおかげで、色んな料理にも使えると妻のハリアも乗り気みたいだ。 はじめのうちは問題なかった。 初日から、1回のご飯がマカロニグラタンに始まり、バターで焼いた玉ねぎのガーリックステーキ、スクランブルエッグを混ぜたホワイトパスタ。 おかずの野菜もバター炒めが基本だったり、ベーコン巻上げ。 そしてデザートにはベイクドチーズケーキとクリームチーズ蒸しケーキ。 ちなみに、その一皿の量だってとんでもないのだ。当然ながらほとんどが山盛りで、気をつけて食べないと崩れる程のサイズ。まるで山なのだ。 それを、マージ家に居るダグラス、ハリア、コープ、フラーはばくばくと美味しそうに食べる。食べる。食べる。 おやつの時間にもダグラスは店に出す以外のパンもチーズやバターと一緒に焼いて、家族で食べた。 学校へ行くフラーやコープにも持たせるのだが、それは弁当とは別に追加して渡されていた。 そして昼飯の時間。 「流石に量が多いか?」 フラーはドンと職員室の自分の机の上に置いたソレ[昼食の入ったバスケット+大量のパン]を見る。 マージ家の普段から多い昼食+αは、さすがに肥大化した彼の現在の胃袋でもきついかもしれない。 だが食べ始めてみると、やはり美味しく止まらない。お茶も入れて貰ったおかげで、こってりとしたチーズの味も十分に楽しめた。 結局ぺろりと平らげたフラーは、少しは他の先生か生徒達にも分ければよかったのでは・・・と自分のお腹を見つめながら思うのだった。 マージ家では、夕食前にも、コープやフラーが帰ってくる頃におやつの時間がある。 以前までダグラスはこの時間、積極的におやつを食べる事はなかった。むしろ、大食らいの彼らの為にパンを焼き上げる側だった。 なのに、今では自分で焼いたパンやハリアが作ったお菓子を一緒になってモクモクと食べるようになっていた。 そのうえ、余ったチーズやバターを使い大量に生産される高脂肪・高たんぱくのおやつ達は、彼の体にどんどん蓄積されていき、その体を大きくしていく。 というよりも太らせていく。当然ながら成長期は通り過ぎてるし、むしろ中年太りを心配しなくてはいけない。 体重は悲しいかな、毎日順調に増えていった。 そしてマージベーカリーの定休日。 朝早くダグラスは未だに減らぬ箱の山を見つめている。 「さて、在庫はまだまだ残っておる、、、か。」 だが今のペースではチーズもバターも消費し切れない。捨てるのはパン屋を経営してるワシの主義に反する。 決意しなければならない。ワシが太ってきているのも、いい加減自覚している。 しかしダイエットはいつでも出来るが、バターやチーズは今食べなければ捨てるしかない。 ワシはパンを焼き始めた。朝食の時間まではまだ大分ある。 ピザパンを20個ほどつくり、まずそれを食べ始める。 それを軽食代わりに、ダグラスはトロトロにしたチーズを包みパンに入れ、上にはトッピングチーズ、そしてホイップクリームも入れたチーズクリームパンを焼き上げた。 その数、なんと50個。後でコープ達のおやつにするつもりだが、ワシが一番食べないといけんな。 ピザパンを20個食べたばかりの彼は、これから朝食もあるというのにそのチーズクリームパンをもっふもふと食べていった。 以前までの彼なら、おそらくここらで十分、朝食すら遠慮していただろう。 だが、すでに体重が4桁になり胃袋も立派になってきたダグラスは・・・なんと更に追加でパンを焼き始めた。 バターロールを20個作りおきしつつ、そのうち5つを食べる。 ハムチーズサンドも同じように大量に作っては、食べて・・・なんて作業を妻のハリアが起きて朝食を作りコープたちを呼ぶまで繰り返し続けた。 「うぷ、流石に、食べすぎたか・・・。」 胃袋がパンパンだ。張り詰めたお腹が、作業服を引きちぎろうとしている。 なんとかきつめに縛った白い帯が止めているが、ちょっと力を込めれば帯ごと千切れそうな程だ。 「あなたー朝食はどうしますかー?」 リビングから大きな声でハリアが呼びかける。今日も朝から濃厚なチーズやバターを使った料理だが、ハリアの腕前はさすがと言うべきか飽きが来ない。 乳製品を使った料理はここまでいろんなバリエーションがあるのか、と驚いたぐらいだ。 朝からボリュームたっぷりの品々が食卓に並んでいる。直径30cm以上はあろうかというチーズハンバーグ。デミグラスソースもたっぷりだ。 グリュイエール 、卵 、生クリーム 、塩・こしょう で作ったベースの上にたっぷりと細かく刻んだチーズを乗せ、それを焼いたチーズココット。 肉とご飯のたっぷり入ったドリアは、大きな大きな器に入っており、それを食べきるだけでどれ程のカロリーになるか・・・。 他にもまだまだ。もちろん、普通のおかずも並んでいる。 スティック状にしたサラダ(ドレッシングや調味料たっぷり)や、かぼちゃの煮物(野菜系統のくせに高カロリー)。 デザートはフルーツヨーグルト。もちろんたっぷりと砂糖をかけてある。 (※余談だが・・・チーズやヨーグルトなどの発酵食品は栄養吸収力を高める酵素が多く、太りやすくなる。) そしてワシはそれらの料理を見て、あろう事か・・・こんな風に思ってしまった。 「(お代わりもあるのだろうか?)」 と。 自分でもここまで食欲が増えたのは意外だったが、最近は食べすぎが基本になっており腹八分目の時なんか一度も無かった。 そのせいで、満腹感に慣れてしまったのだろうか。うむむ、気をつけねばもっともっと太ってしまうな(汗) 昼食の時間。 薄切り肉にバターを塊で包み込んでフライにした物が数十枚出てきたのだが。 ワシもコープも、フラー先生も、それがやけに気に入ってしまった。 脂肪分の高いバターを塊で、しかも油で揚げるなど、痩せている者が太りたい時に食べるような代物をバクバクとまるでおやつ感覚で食べまくったのだ。 ちなみに昼のメイン料理も何枚ものチャーシューを入れた特盛りラーメンや、チーズカレー。 早朝に食べた大量のパン、そして朝食も消化されていないうちに、ワシは山ほど食べ続けた。 早くバターやチーズを処分してしまわないといけないせいで、体重の事はほとんど気にしなくなっていた。 コープは元から食欲が優先されていたし、 さり気に我が家で今一番の体重になっているフラー先生は遠慮しつつも結局一番食べていた気がするが大丈夫だろうか? その後、2回ほどおやつの時間があり、たらふくバターの塗られたホットケーキを食べた。 腹がはち切れるんじゃないかと思うほど、その日はとにかく食べ続けた。 夕食は、どれだけ食べたか思い出せん。ただ、台所に山積みになった食器がその量が尋常じゃ無かったであろう事だけは物語っていた。 もし翌日体重計に乗れば、ショックを受けただろう。 コープはすでに1700kg以上の更なる肥満児になっていたし。 フラーは2600kgにまで太り、大福餅みたいなお腹のボリュームをどんと増やしていた。 そして、割と痩身であったはずのダグラスはふっくらしたパンみたいに太っていた。 その体重は、1400kg。コープより身長があるから、数値ほどは太っていない・・・とはいえ、とうとう倍である。 作業服を新しくするまで時間はかからないだろう。 結局、休日は外出もせず家族でのんびりゴロゴロと寝て過ごし、ひたすら食べる一日で終わった。太るのは当然であった。 Eへ 続く