==== C[ベクタ料理は食べすぎ注意] ダグラスやコープ、マージ家に住む者たちの体重が4桁を超え始めたころ、アバロン家でも体重の増加があった。 自分では、小さな変化というのは気がつきにくい。 確実に増えていく体重と食欲だったが、ワグナス・アバロンはたいして気に留めていなかった。 思いっきり体を動かした日は沢山食べたい気分になるし、体重も2t以上を誇るせいか、数キロや数十キロの変化などすぐに取り戻せる。 だが、数キロや数十キロの体重増加も、数日間“連続”で増えるのは問題がある。 そして、そんな状況内で「更に太る」ような出来事が起これば・・・。 [†] 休日の昼前、地図の描かれたチラシを見ながらアバロン夫妻は目的地を目指していた。 「本格的なベクタ料理も味わえる店のオープン、か。」 チラシにある豊富かつ巨大な品々のメニューを見ながら、ワグナスは呟いた。 「楽しみよね。店長や料理長はベクタ出身だって言うし、前評判も良いみたい。」 今日は満足するまで思いっきり食べよう、と心の中で決意するダンターグ。 「ほう、どうやら出前もしているらしいな。」 「あらそうなの?じゃあ美味しかったら、たまに注文しようかしらね♪」 歩くこと、数十分。かなりお腹も減ってきたところに、刺激的なーーーどこか懐かしい気分になる匂いが漂ってきた。 「ここがそうか。」 ベクタ料理専門店”chubby”とデカデカとした文字で描かれた看板。 看板だけでなく、店も予想以上に大きくて、入り口も肥満竜に合わせているのだろう、横幅が不必要と思うぐらいに巨大だった。 しかも、取り外し可能な構造だ。さすがにそこまで巨大な客は滅多に来ないと思うが、店長がベクタ出身なだけはあって、店側は肥満竜に対する配慮は良さそうだ。 店内も、外側から見た時以上に広く見え、天井もかなり高い。大きな建物に見えたが、どうやら2階に客用の席は無いらしい。 「いらっしゃい、2名様ご案内〜。」 恰幅の良い店員がにこやかに挨拶してくれた。 こちらも、職業柄というわけでは無いが、軽く微笑んで会釈をする。 「おや、お客さんはベクタの出身ーーーですよね?」 「? ええ、そうですが何か。」 「良かったら、これ、使ってください。当日有効なんですよ。」 手渡されたのは2枚の紙切れ。 そこには[ベクタ出身竜様へのサービス券]と書かれている。 「ベクタ出身のお客様が来ることが多いのですが、通常の大盛りですと足りない場合があるんです。 しかし、お客様が料理を食べて満足出来なければこの店の名折れーーーですので、この券を使えば特別にメニューの量を2段階以上増やせるんですよ。もちろん無料です。」 ピクリ。無料という言葉に、アバロン夫妻が反応をする。 タダほど恐ろしいものはないと言うが、あながち間違ってはいないかもしれない。 何故なら、彼らは通常サイズの料理をまだ食べていないのだが、「無料で量を増やしてくれるなら」と、迷わずにそのサービス券を使ってしまったのだ。 “ベクタ竜が満足できるように”というサービスから分かるように、注文して運ばれてきた料理のボリュームは驚くべき量であった。 まずワグナスはミートソーススパゲティ(ボロネーゼ)、ダンターグはウィンナーピザ2枚とステーキを注文したのだが、 運ばれてきたのは、軽く成竜5・6匹前はあろうかという巨大な品。 皿のサイズが既に規格外で、無駄と思えるほど大きなテーブルの理由が把握できた。 待ち時間にも追加注文をしたので、これからも次々と料理が運ばれてくるだろう。 ワグナスは予想以上に多い事にちょっと汗を垂らし、ダンターグは逆に嬉しそうだ。 だが、とても良い香りなのだ。 やってきたミートソーススパゲティも、ただ量が多いのではなく、主役の麺と肉を引き立てる為のソースは様々な香辛料や赤ワイン等で味を鮮明にしてくれて、メインの肉は、炒めるのではなくきちんと焼かれて旨味がギュッと閉じ込められており、肉汁が実感できるほど。 ワグナスは最初の一口は恐る恐る、二口目は豪快に、三口目以降はじっくりと味わいながら、これでもかという勢いで食べ始めた。 最初の抵抗など、いざ食べると全く気にならずに食欲がどんどん沸いて出てくる。 細かい部分にまで気の使われた少し上品な味付けだが、何故か親しみやすく気軽に食べれた。 ベクタから取り寄せた野菜やオリーブオイル等が、裏方としてその役割を果たしていたのだろう。 すでに、5kg以上を食べているが全く苦にならないどころかお代わりしたい気分である。 ダンターグも自分と同じような気持ちか、それ以上か。 新たにテーブルに運ばれてきたサラダにドレッシングをかけて美味しそうにモグモグと口を動かしている。 私は、すっかり店の料理にはまってしまい、ハイペースなぐらいで追加をしては食べていった。 それが超特盛の料理だという事も忘れてーーー ベクタ料理を食べ始めてから、そろそろ1時間が過ぎようとしていた。 ワグナスはボロネーゼを食べ終えてから、軽くカラ揚げを20個を口に頬ばりながら、次にやって来たこれまた超大盛りのオムライスを食べ始めている。 ケチャップも本格的で、トマトにも拘っておりベクタ産地のようだ。 ダンターグはすでに4皿目を食べ終えようとしており、それでもなお食べるペースは落ちない。 ピザが気に入ったのか、別の種類も注文しており、3Lサイズのドリンクも何倍もお代わりしている。 「おや、このシチューは・・・。」 メニューを眺めて、ふと視線がとまった。メートルアグの煮込みシチュー、クレソン添え。 ベクタに住んでいたことがある竜なら、メートルアグのシチューは必ずといって良いほど食卓で頻繁に出てくる代物だ。 栄養たっぷりで、成長期の子竜はもちろん、大人も満足できる。もちろん、それだけカロリーも高いのだが。 ほぼ無意識的に、ワグナスはそのシチューを注文した。 大盛りのオムライスも食べ終え、並みの竜ならとっくに腹一杯になっているところだろう。 そろそろデザートに移行してもいいはずだ。 それに体育教師という身であるワグナスが、(ダンターグも、相撲部顧問なのだがーーーそれは置いておこう。) これだけ積極的に料理を「食べまくる」のは久しぶりである。最近、食事量が少しずつ多くなっていたせいか、それほど抵抗を感じなかった。 故郷のベクタにいる気持ちを味わえる環境なのもあっただろう。 この店の客の大半はかなりの肥満竜がおり、ダンターグ以上に肥え太った客、つまり5t以上の竜もちらほらと見られた。 ワグナスも今や2t+α00kg増えている身であるが、むしろ店内では平均以下だったかもしれない。 そして、ドリンクをお代わり(なんと一度注文するとお代わりは何倍でも可能!)して、とうとうメートルアグのシチューが運ばれてきた。 メートルアグの葉や茎を長時間、トロトロになるまで煮込み、店特製の味付けをくわえた代物のようだ。 ふんわりと、湯気と一緒にメートルアグ独特の匂いが漂い、食欲が一層生まれてきた。 ついてきた、大きなスプーンでひとすくいーーーそして口元へ。 「!!」 正直、予想以上だった。と、後のワグナスは語ったとかいないとか。 ただのシチューと侮ること無かれ、メートルアグの特性を十分に生かし、ミルクの割合も丁度良く甘い。 また添えられたクレソンの辛味成分シングリンが消化促進・食欲増進の更なる手助けをしてくれる。 気がつけば皿は空っぽ。私はサービス券により大盛りになっているのに、2杯も追加でシチューを注文してしまった。 もちろん、それだけでは無くカレーライスもついでだ。 ダンターグはメートルアグ(宿根草)のサラダを注文して食べ始めたようだが、 彼女もすっかりエンジンがかかってきたのだろう、どんどん追加注文をしていく。 私は”どれだけ食べたか”をいつもは気にするのだが、今日この日は少々夢中になってしまったようだ。 すでに胃袋は満杯で、ぷにぷにのお腹にも張りがみられてきたというのに。 私たちが満足するまでに所用したのは、結局3時間以上ーーー ちなみにデザートは別腹であり、その後30分ほど生キャラメルソースのプリンやバニラアイスを食べてしまった。 店を出て、家路に着く道のりで、私はどれだけの量を食べてしまったのかやっと気づいた。 「うぐ、お腹が・・・。」 ハッキリ、 くっきりと食べ過ぎた料理のおかげで膨れて突き出ている。 歩行の際に、自分のぱつぱつのお腹を太股が感じることが出来た。 私以上に食べたダンターグは、なんと露天のクレープを購入して食べている。 また太りすぎても知らないぞ・・・と、言おうと思ったが今の私にその台詞を言う資格は無いだろう。 だが、食べ過ぎて苦しいなんて事は無かった。むしろ、満足感だけが体中行き渡っており、またあの店へ行きたいという気持ちだけが強く残った。 帰ってからはしっかりとトレーニング。休日とはいえだらだらと怠けてはいけない。 だが、どう考えても摂取カロリーは数時間の運動でカバーできる範囲ではなかった。 それから休日はほとんど”chubby”で食事する機会が増えていき、ぐんぐんアバロン夫妻の体重も増えていった。 ワグナスのように頻繁に運動をしない、そのくせお菓子は大量に食べるダンターグは以前は4・5tだった体重は5tも超えて、6tに近づきそうだった。 だが、残念ながらワグナスのペースも負けてはいない。 2000kgであった彼の体重も、筋肉量もあるとはいえ、余分なお肉がお腹にどんどん注ぎ込まれてしまい、とうとう2500kgを超えてしまったのだ。 割合にして、25%の増加。 歩行や走る時のモーションも、いまだ力強いがなんだか重たそうに見えるようになっていた。 [†] 授業の呼び鈴が鳴る。 次は、例の肥満児たちがいるクラスの授業だ。 ワグナスは、以前にも増して恰幅の良くなった体を動かして体育館に向かった。 すでに生徒たちは集まっており、準備運動の出来る並びになっていた。 「よーし、それじゃ今日は予定通りバスケだ。準備体操はしっかりやるんだぞ。」 「へへ、今日も勝たせて貰うぜコープっ!」 心なしか、ふくよかになったリガウがライバルの方を向きながらにやりと笑う。 「僕だって負けないからね。」 そして明らかに前回のバスケの授業よりも太ったであろうコープが返事をする。 「今日のバスケで思いっきり体動かそう・・・」 と呟くオーエンは、下手したら3匹の中で一番太ったかもしれない。 うーむ、ここ最近は補修をしていなかったからなぁ。だが、しかし・・・ ちらりと自分の下っ腹に視線を送る。 ドンと大きく突き出たお腹、、、明らかに自分も太っている。 指導する立場がまず見本の鑑(かがみ)にならなければいけないのに、これでは反面教師も良いところ。 だが、今日はバスケの授業で基本的に私は審判の役割だ。 生徒たちが怪我をしないように監督する必要もある。 メンバーの足りない時は一緒に参加して体を動かせるのだが、今日はチームが綺麗に分かれているので出番もなさそうだ。 結局、授業終了まで私はほとんど体を動かす機会が無く、(せいぜい準備体操ぐらい) バスケの試合はというとリガウが率いるメンバーの勝利で終わった。 スピードがほとんど出ないオーエンや、ジャンプしてもほとんど飛べないコープ達が足を引っ張ったのもある。 (ブロッカーとしては、かなり幅もあるし優秀だったんだがなぁ;) 腹が出すぎているせいか、味方のパスすらブロックしてしまう時があり、プラマイ0だったから仕方ない。 やはり、ここ最近していない特別補修には効果があったという事なのだろうな。 授業を終え、休み時間に職員室へと戻るワグナス。 「あ、ワグナス先生。お茶が入ったみたいですが、飲みませんか?」 かなりデップリと太った白い大福餅・・・ではなく丸々とした体のフラー氏が来客用のソファとテーブルを使い茶菓子を食べていた。 隣では、これまた立派な体型をした黒竜・・・妻のダンターグが空箱をどかして、新しいお菓子の箱を空けていた。 「ほう、このお茶は良い香りですね。」 いままでなら、お茶を淹れて貰い、飲むことはあっても、茶菓子まで一緒に食べる事はほとんど無かった。 だがこの日はなんだか甘い物も口に入れておきたくなり、結局5分の短い間だけだったが5,6個のお菓子や煎餅を食べてしまい、 そしてそれが習慣に組み込まれてしまう羽目になった。 おにぎり1個にも満たない小さなお菓子。また渋いお茶を飲むことで甘みが緩和され、たいしたカロリーでは無いと思っていた。 だが、実際はたった一つでもおにぎり1個以上のカロリーを摂取していたのだ。お茶菓子って怖い。 ワグナスの体重と食欲は、じわりじわりと増加していき、 その事を自覚しつつも、激しい運動により体重を落とせるという過信もあってか、なかなかダイエットを開始できなかった。 それから、また日は流れーーー休日の外食。 アバロン夫妻は再びベクタ料理専門店”chubby”へと足を運ぶ。 別に予定として決めていたわけではないのだが、自然と目的地はソコに決定していた。 実は、太ってきたのは自覚しつつも、夫婦揃って体重計には長いこと乗っていない。 だが、この時点でワグナスは2700kg。ダンターグは5800kg。 元からだったかもしれないが、両者とも立派な「肥満竜」である。 未だに引き締まった体格をしているせいか、それ程太ったように思えないワグナス。 だがお腹周りは綺麗に一回り大きくなっており、もしも彼が普段着ている制服があったら確実にベルトが閉まらないかボタンが飛んでいくレベルである。 ダンターグに至っては、はっきりと太ったと思えるのだが、毎日顔を合わせる夫や先生たちはそれほど気にしていない。 そんな彼らは店内に入ると、普段より大きめの声で料理の注文をする。 もちろん、例の[メニュー増量チケット]は使うに決まってた。 「では、私はまず炒飯と、海老チリに、ウーロン茶を頂こうか。」 「えっとこっちはポークカレーと、ナポリタンを大盛りでーーーん〜、あと3段重ねハンバーグに、メロンソーダ2つお願いします。」 超大盛りなわけだから、これだけでもうひとり分以上だ。しかし、彼らベクタ大陸に住んでいた者からすれば、それでも前菜レベルでしか無いのだろう。 事実、次から次へと料理は注文されていき、ソースやラーメンのスープも余すことなく飲み干していくのだからーーーー。 5へ続く