If もしも、彼らが禁断の魔法を見つけてしまったら ~とめれぬシリオル&とまらぬジヴォイド~ シリオルは、太り続ける自分の事をさすがに心配していた。昔、くびれていた事がまるで伝説か、神話レベルまで遠かった日のことのように思える。 「はぁー・・・。」  そんなストレスをごまかすのは、やはり大好きになってしまったおやつ。ケーキを2,3個食べるのは当たり前。 こんな風に思い悩む日には10分で5個のペースで30分間食してしまうのだ。まるで、おつまみか何かと勘違いしているような食べっぷりである。 このまま延々と太り続けたら、それこそ部屋におさまりきらず、城に出入り出来ないぐらい肥えてしまうのでは・・・という不安があった。 ある日のこと、シリオルは古びた本を見つける。 「あら、こんな本見たことないわ。」 ぺらぺら、と軽い気持ちでページをめくる。 すると、どうだろう。ある意味、最も知りたかった情報がそこには載っていたのだ。 「や、痩せ続ける呪文・・・?」 半信半疑、うさんくささ100%のその呪文だがーーーシリオルは何故だか気になって、軽い気持ちで実行してしまうのだった。 数日後ーーー 「ど、どうしたんだシリオル; 最近具合が悪そうじゃないか」 「え、そうかしら・・・?」 ジヴォイドは、些細な変化を逃さなかった。シリオルの体重が20kgほど減っているのを見破ったのである。 8t以上の体重で、その差を見破るとはすさまじい眼力というか、なんというか。 すぐに食べやすい栄養食を手配させ、彼女に与えた。 だが、日に日に彼女はやせていく。 シリオルは、あの魔法が利いたんだわ、と喜んだ。しかし、禁術であるそれには、危険な要素も含まれている。 どこまでも、止まらずに痩せていくのである。さすがのシリオルも不安になりはじめた。 ろくにダイエットもしてないし、食べ過ぎた日でも確実に体重と体脂肪率が減っていくのだから。 そして死ぬほどショックを受けているのは、むしろ夫・ジヴォイドの方だった。 奥さんが太っているほど可愛いと思ってしまう重症(?)な彼。 あらゆる手段を用いて、彼女の体重減少を防ぎ、増加を促進したがいずれも失敗。 そして、とうとうーーーー 彼女が3トン程だった時期にまでシリオルは痩せ細ってしまった。あれだけ肥えた体の後に見ると、その変化の差が凄まじい。 予想を遥かに超える効き目に、とうとう彼女は夫に告白した。 「なんて恐ろしい呪文を・・・」(彼にとっては、特にそうだろう) 「ご、ごめんなさい; 止める手段がないの・・・食べても、食べても、太らないし。」 そう、今では体重全盛期並の食事をしたとしても痩せてしまうのだ。これは、一種の呪いに近い。 このまま痩せ続ければ、命にも関わるかもしれない。 ジヴォイドは本気の捜索手配を開始、そして対になる魔法を発見した。 それは、”ひたすらに肥え続ける魔法” だが、こちらの使用条件には制限無しに太ったりしないかわり、対価が特別だった。 「対象とする者の、最も身近な者が太った率だけ、魔法をかけた者が太っていく・・・か。」 だが背に腹は変えられない。 「その役目は私しか適任がいないだろう。」 凛とした表情で断言するジヴォイド。その横顔に、思わずシリオルはポッと顔を赤らめてしまった。 彼は私の体重を増やしたい気持ちが強いのはわかってる・・・・けど、そこまで真剣に自分の身を案じてくれる彼を、やはり自分も好きなのだ。 それから、ジヴォイドの辛い時期が始まった。 日がな一日、食べてばかり。ろくに体を動かさず、業務は最低限だけこなし、あとは間食をしながらベッドでごろり。 かなり堕落したぐーたらな亭主として映りそうだが、その姿勢は真剣そのものであった。 スタート時には、やせ続けたシリオルの体重は2700kgほど。それに対してジヴォイドは300kgもない。 つまりその差は10倍以上。 もし、彼が太った量だけ妻が太るなら絶望的であっただろう。 しかし、この魔法は倍率による変化。もしジヴォイドが300kg太ることが出来れば、現在のシリオルは2倍・・・つまり3000kg以上太るということだ。 ジヴォイドは”本気”で”だらけた”生活を続けた。 わざと太るのも大変なことである。 脂の多い料理をどんどん積極的に食べ、苦しくなってからもお代わりを続けた。 野菜ジュースは砂糖たっぷりの炭酸飲料に代わり、ビール類+おつまみという太りやすいセットも夜食に飲み食いを続けた。 次第に、彼の腹回りがむくむくと成長するにつれて、比例して妻のウエストも元気(?)に大きくなり始めた。 体重増加なんてぜんぜん喜ばしくないはずなのだが、一生懸命に努力する夫を見て、シリオルは嬉しかった。 「ふぅー。今日は、かなり食べる事が出来たな。」 相反する魔法の効果のおかげか、次第にシリオルの体重増加率もよくなってきた。あの呪いめいたダイエット魔法の効果が薄らいできたのだ。 それすわなち、元々太っていく彼女の増体にプラスして、ジヴォイドの増加分彼女が太ってしまうのだが・・・ この時はまだ、互いにその事に気づいてなかった。 順調にリバウンドが進行するにつれ、シリオルの全身に肉が波打つように脂肪がまとわりついていく。 どんどん腹の段差が増えて、わき腹も溢れんばかりにたまりはじめた。 ジヴォイドの肥満率は、まだ軽度のメタボ竜だったが、それでもあんなに細かったお腹はぽってりと可愛げのある丸みを帯びている。 彼は、妻と違って体重の増加になかなか苦戦しているようだった。 簡単に取れていた落し物が拾いにくい。突き出た腹を曲げるのがこんなに大変だったとは・・・。と彼は驚いたぐらいだ。 もっともシリオルには曲げることの出来る胴体などもはや存在しないぐらい肥えちゃっているのだが。 しかもうつ伏せに寝ようとすると、かなり腹が圧迫されて苦しい。 そして太ったことにより、かなり間食が進み、お代わりもしやすくなった。 だが、それだけ自分が太りやすくなれば、シリオルもまた肥えていく。 彼女はすっかり調子を取り戻し元の体重に戻りつつあった。 ジヴォイドは3倍近くなった体重にーーーそれでも1tにも満たないがーーー かなり四苦八苦していたが、愛する妻の美しい姿に見惚れては、今日も頑張って過食を続けるのだった。 更に数日後。 「ん、ぐっ、ふーー!」 昨日は調子に乗って食べ過ぎたようだ。いくら起き上がろうとしても、腹がつっかえて体を曲げられない。 よく妻は毎日あの体で活発に動くものだ・・・・さすがは我が愛する妻。 と、うんうん感心しているが、これはマズイ。 ”一応”仕事もこなさないといけないので、一日中体重増加に身をやつしているわけにはいかない。 なんとか体を横にしてベッドから降り、立ち上がった。 ぼよん!と丸い腹が揺れる。 パツパツで、だぶついてはいないが、かなり柔らかいお腹。 身重じゃないのに、服がはち切れそうなぐらいだ。 一番最初の王族衣装は完全に役目を果たせなくなっている。 朝食を食べに皇室専用の食堂に足を運ぶ。 いつの間にか、こんなに私の足は遅くなっていたのか、と思いながらも扉を開けると美味しそうなにおい。 そして一足先に山盛りの朝食を食べ続ける愛しい存在の姿が目に入った。 どこまでも続く長いテーブルの上に並べられた料理。 それらを、動作は丁寧に、しかし量は破壊的なまでに、彼女は食べ続けている。 朝食だけで、もう確実に太ってしまうであろう量を食べている彼女は、早くも11トンに到達せんばかりの勢いだ。 ジヴォイドもだいぶ太り、中年太り程度の腹だ。 横幅、そして前後幅も増えている。 11トン、と軽く表記でながしてしまったが、そんな軽いもんじゃない。以前より、3000kgほど余分に肉が増えたのだ。 見た目に変化が無いはずがない。 その、重量感が増し、動くたびに揺れ動く量の多さにジヴォイドは感心し、歓心した。 それから、そこそこの日数が過ぎてーー 「ふぅふぅ、あなた、そろそろ、夕食の量は戻しても、大丈夫じゃないかしら;」 とっくに痩せる魔法の効果は切れている。だが 「(ムシャムシャ)うっぷ。用心するに越した事はない。なに、あんなに簡単に痩せられたんだ。 君ならすぐにダイエットできる。それより今は健康、そして体力を完全に戻すほうが(ばくばく、ゴクン)先決だろう。」 「そう、ね。最近はすっかり元気になったし、ストレスも少ないみたい。」 二の腕に肉が垂れ下がりすぎている彼女は、そんなだぶついた腕を無理やり動かすと空間魔法で皿を取った。 あまりにも太りすぎ、以前にもましてテーブルは遠くなった。 すでに、侍女や魔法を用いなければ食事は難しい。腹テーブルの利用回数もかなり増えた。 対の席に座るジヴォイドも、迂闊にテーブルに近寄りすぎれば腹が食い込む程度のビア樽体型と化していた。 この頃はすこぶる食欲の調子がよく、一定ラインを超えた〔肥満竜〕に足を踏み入れたからだろう。 太るペースも日に日に速くなっており、それがまたシリオルの肥満速度も速めた。 「ぅうう、食べ過ぎた・・・」 胃もたれは確実だろう。調子に乗って分厚い2kgのステーキを10枚以上も食べたのはやりすぎだっただろうか。他にもいろんなおかずやデザートも食べたし。 腹がパンパンだな、とぽんぽんと叩くと小気味良く音が響く。 と同時に、張り詰めているはずのお腹が柔らかく、余計な肉がだいぶついている事もわかった。 しかし、ジヴォイドは嘆いていない。自分が肥えるほど、妻もはっきりと、私以上の変化を遂げているからだ。 よたよたとした足取りで風呂に赴き、のんびりと体を洗い始めた。 しかし腹が出すぎで、全身に肉付きボリュームが増えたせいで、足下や尻尾、そして背中側にほとんど手が届かない。 う、私もサポート役が必要になっていくのだろうか? 自分の体重には興味ないので測っていなかったのだが、先日体重計に乗ったところ1385kgと表示されていた。 ここまで増えると、何もしていなくても息切れしそうになる時がある。 なにより短期間でここまで太ったのがまずかったのだろう。 疲労するほど自身を肥育して、間接的に妻を太らせていったが、シリオルより先に彼がまいってしまいそうだった。 「ふぅ、ふぅ・・・よっーーーと。」 ぐぐぐ、と思い切り力をこめてようやく足を乗せ、その勢いのまま体をベッドに載せる。 ドスン!と沈みこんで、ギシィ、とベッドがうなる。体重が4倍以上増えたのだから、当然ともいえる。 新しいベッドを新調しなくてはいけないかもしれないな。 「ぶはぁー・・・!つ、疲れた・・・」 今日は腹も重いせいで、余計に体力がなくなった気がする。私の体重でこれでは、妻はもっと苦労しているのではないだろうか。 なんて彼が思っている時・・・、体重15トンを軽く超え、肥え切った妻の方はというと余裕の仕草でベッドの上に載って、軽く髪をほぐし、ととのえてから就寝した。 いかに彼女が《肥満慣れ》しているかが垣間見える。 ちなみに、シリオルは空間魔法を駆使してシャワーを巧みに利用する。そして浴槽に入ると、お湯をどれだけ無駄に捨ててるんだ!って国民に怒られそうなぐらい溢れてしまうんだけど、そこは目を瞑ってもらいたいところだろう。 なにせ体重と、ボリュームが普通の竜ではないのだから・・・。 ※ ちなみに、この”肥え続ける魔法”は一回しか効果がなく、また時間が立つに連れて太らせることの出来る比率も減っていく事がこれまでの流れと、実感で分かった。。 つまり、ジヴォイドは今まで以上のペースで太らなければ、シリオルの体重を増やせないと知り本気を出して、頑張り続けた。 体重はもう2000kgにもなろうとしていた。慣れた小部屋の出入りで腹がつっかえて、あたふたする事もあった。 滑って転んでしまい、ひとりで起き上がれず苦労することもあった。 痩せていた時は、あんなに格好良かった皇帝が、なんだかとても身近で、親近感のある存在になっている。 丸々と太ってしまい、両足も腹に押されてしまうほどだ。服もほとんど着れず、前を閉じる衣装は全て新しく作り直されていく。 「ふぅ、ふぅ、そろそろ魔法の効果が完全に失われる頃か・・・」 この日は、皇室専用食堂をフルに使って食事会を開催する予定だ。食事がメインで、彼女の好物もふんだんに取り揃えている。 もちろん、私自身も食べやすい好物や、高カロリー高脂肪、とにかく太りやすいものをシェフに用意させた。 食欲増進する秘伝のスープや、吸収率を促進する果実酒など、下準備は怠らない。 そして、城の中庭でその豪勢過ぎる食事会は開かれた。 全身の肉をひきずるような勢いで、立派に太ったシリオルは楽しそうに魔法を使いながら料理を手に取り、食べ続ける。 彼女の心の中には、”魔法で不自然に痩せてしまった反動だし、今は少し太ってもしょうがない”という状態で一切我慢していない。 ストレスも皆無の状態でひたすらに、バクバクと食べて料理の載っていたはずの皿を次々からにしていく。 この会場に招待されている者達、全員が束でかかっても彼女の摂取カロリーには敵わないのでは?という量を全部胃袋に収めていった。 ジヴォイドも腹をパンパンに膨らませつつ、努力してお代わりを続けた。 心配する声もちらほら聞こえたが、今日は折角のパーティーだからな、という理由からワインを飲み干し、酔いに任せた勢いでそれこそ衣装のベルトやボタンを飛ばす勢いで食べ続け太り続けた。 7時間にも及ぶ”食事” と特殊な料理 で、ジヴォイドは激太りを見事成功させた。 一方、ただでさえ太りやすい食事会だったにもかかわらず、調子に乗って食べ過ぎたシリオルは、ジヴォイドの魔法効果もプラスされて、目に見える量の肉が追加され、超激太りする事になってしまうのだったーーー。 後日・・・ 「ーーーあの竜(ひと)には悪いけど、もう一度だけ痩せる魔法、試してもいいわよね。」 体重が20トンにもなり、食欲が止まらなくなり一日に百キロ以上も太るようになってしまった彼女は、再び禁断の魔法に手をかけようとしていた。 「ええと、これで準備は完了・・・っと。」 そして呪文詠唱を始める。これで、またどんどん痩せていくはずだ。 だが、この”痩せ続ける呪文”は一度耐性がついてしまうと、抵抗による間逆の効果が発動してしまう。 すなわちーーー 日々、体重が増え、脂肪が、肉が、たっぷりとついていく皇后シリオル。 32トン265kgという前代未聞な肥満竜になり、どの部屋の出入りも不可能になってしまった彼女は反省しながらも3ホール目のケーキをペロリと平らげるのだった。 一方、ジヴォイドの方も魔法の効果が切れてからはダイエットに励むが、なかなか風船デブ体型は元に戻らず、依然としてお腹はふっくら丸々と、手足はパンのようにもちもちとした姿でお仕事を頑張っているようだ。 〜おしまい〜