フーセンイタチ ※knightさんの絵を見て思いついたもの。(ザング・ハブネーク・フローゼル) 「はぁ・・・・また負けちゃった。」 何度目かのため息。全身がふさふさとした純白の毛並みで覆われたザングースは、俯いて今日のバトルを振り返っていた。 ライバルのハブネークとは遺伝子レベルでの宿敵であり、いつも勝負していた。別に仲が悪いわけじゃないけど、戦う事は生活の一部なのだ。 しかし、ここ数年は負けっぱなし。原因は太り続ける自分の体だった。仲間たちの中でもかなり鈍重な方で、素早い身のこなしが出来ない。 だからすぐに動きを封じられて負けてしまう。食欲だけは誰にも負けないせいで、グングン成長したザングースの体重はもう100kg目前にまでなっていた。 「大丈夫、そのうちまた勝てるって。」 そう言って慰めてくれるのは、イタチ系仲間のフローゼル君。 ブイゼル時代からの長い付き合いだ。 「でも、僕こんな体格でトロいし・・・。」 「ダイエットは無理そう?」 正直、痩せれば今より格段に戦いやすくなるだろう。 なにせ太ってると腹は邪魔して腕や足を動かせる範囲が狭くなるわ、すぐ息切れするわ、振り向きに時間がかかったりと、マイナス尽くめである。 でも今までも何度かダイエットには挑戦していた。結果はご覧のとおり・・・。 「ぅう。」 ぼよっとしたお腹を持ち上げる。ザングースは元から太目の種族とはいえ、これは立派な肥満だろう。 「うーーん・・・ダイエットが難しいなら、逆転の発想はどうかな!」 「え、というと?」 「押して駄目なら引いてみろ。痩せられないなら、逆に凄い太っちゃうとか!」 「Σええ?!」 まさにとんでも理論である。どうしてそうなった。 しかし、フローゼルは何も考えなしに言ったわけではなかった。 「いつもザング君がトドメを刺されるのって、あの強力なしめつけ攻撃でしょ? で、ハブネークの全長は、、、よく知らないけどだいたい2・7m。」 「うんうん。」 「つまりさ、ザング君のウエストが3m近くなればハブネークはしめつけ攻撃が出来なくなるんだよ!!」 な、なんだってーーー?!その発想は無かった。というより、思いついてもする者はいないだろう。 しかし切羽詰っていたザングースは、藁にもすがりつく思いで、その案を試してみることにした。 「うん、やってみるよ!」 痩せるよりよっぽど楽だし。それに、ある程度勝てるようになったらダイエットすればいいよね。 軽い気持ちでザングースは、ウエスト3メートルというかなり大変な目標に向け、努力を開始した。 1日目 「こ、これだけ食べるの?」 フローゼルが持ってきてくれた木の実はざっと100個以上。更に飲み物も沢山持ってきてくれていた。 食べようと思えば食べれるけど・・・今まで経験した事のない量だった。 「あれ、足りなかったかな。まだ沢山予備あるけどーーー」 「?!だ、大丈夫!足りるよ。うん。」 そしてモグモグと食べつつけること1時間。 「けぷっ。」 意外と食べ切れた。けっこうお腹はキツキツだけど、好きなだけ食べたおかげで満腹感が心地よかった。 そういえば体重を気にしないでご飯を食べたのは久しぶりかもしれない。 ストレス無く食事したおかげで、食がずいぶん進んだのだろう。 「す、凄いねザングース君・・・。」 用意したのは自分なんだけど、流石のフローゼルも驚いた。自分なら10個食べたらお腹いっぱいだろうに。 でも、このペースならきっとすぐ目標は達成できるだろうなぁと感じた。 3日目 「ご馳走様!」 ポンポンと、ほんの少し膨れたお腹を叩くザングース。今日も見事な食いっぷりをフローゼルに見せていた。 わずか3日とはいえ、確実に体重とウエストには変化があるだろう。 「今日もかなり食べたねーザング君。」 「えへへ、ちょっと食べ過ぎちゃったかも・・・少し太ったかなぁ。」 試しにフローゼルは大きくなったザングースの体をなでなで。確かに、先日より感触が柔らかくなった気がする。 かなり蜜の詰まったものや、カロリーの高そうな食料ばーっかり食べて、ろくに運動もしないザングース君はスクスクと育っていきーーー 1週間後 「ハァハァ、、、んっ、、もう少し、フゥフゥ、食べないと駄目?」 ザングースはちょっぴり汗ばんだ表情で、今日5回目の食事に苦戦していた。 フローゼルは追加の果実を手に取り、それを渡した。 「まだまだ全然これからだよ!頑張ってザング君っ。」 「ぅ、うんっ。(モグモグ、ゴクン。ゴッ、ゴククゴク、ゴクゥ)」 甘い甘い、砂糖たっぷり注ぎ込んだ特性のミックスオレやポケモン用ドリンクもたらふく飲ませる。 「はぁっ、はぁー、甘いものばっかり食べてたら、さっぱりしたくなったよ・・・ぷふぅ。 ねぇ、水貰っていいかな?」 ボールみたいに丸く大きいお腹を右手で摩りながら、ザングースはいつものようにお願いした。 それに、フローゼルは快く応じた。 「わかった。それじゃ、いくよー? すぅーーー」 ピュウー!と水鉄砲。勢いはないので攻撃にはならないが、冷たくてさっぱりする水をプレゼントした。 「(ゴクッゴクッーーー!!) ん、、、んっ・・・・・・・。」 あっという間に数リットルの水をザングースは飲み干した。ゆっくりと膨張するお腹を、フローゼルはじーっと見つめながら不思議な気持ちを持ち始めていた。 水鉄砲をとめずに、ぼーっとザングースの様子を見ていた。 「ンン!ンッムフフ?!(ゴボ、ゴボっ)」 苦しくなったザングースが必死の形相で訴えるのに気がつくまで、フローゼルは無意識のうちにずっと水を飲ませていた。 慌てて止めて、ザングースに駆け寄る。 「ご、ごめんザング君!苦しかった?」 「けほ、けほっーーー。 ちょっと飲みすぎて、苦しいかも。でも、スッキリしたよ、ありがとう。」 ニッコリと笑顔を見せるザングース。体重は以前の倍以上になっているだろうか。そして、たらふく水を飲んでパンパンに膨れ上がったお腹。 「わー、ごめん。なんだかお腹すごい事になっちゃったね。」 「えへへ〜。もう少し頑張れば、3メートルまでいけるかな?」 フローゼルは膨らんだザングースに不思議と親近感が沸いた。 ブイゼルやフローゼルには浮き袋があり、それを膨らませることが出来る仲間に親近感を覚えるのだが、 ザングースの膨らむお腹がまるで浮き袋のようで、それが仲間意識を持たせたのだ。 それからというもの、フローゼルのウエスト増加肥育援助は、より積極的なものへと変わってしまうーーー。 15日目 ザングースは連日連夜、限界近くまで食事を続けた。オレンの実もオボンの実も飽きるほど食べた。 なんとか食欲を増やしてあげようと、フローゼルは木の実や果物に味付けしたり、トッピングを工夫したり、街で見つけた調味料とかを駆使してザングースに沢山ご馳走した。 体重は、そろそろ300kgの大台になろうとしていた。 もう、こうなるとシルエットはカビゴン級になってくる。 お腹は左右上下前後、360°大きく突き出して丸みを帯びており、四肢も顔もふっくらもちもち。 毛並みがふわふわなザングースは体重以上に太って見えた。 「うっぷ。ね、ねぇフローゼル。そろそろ僕のウエスト3mになったんじゃないかなぁ?」 「そうかなぁ、僕はまだまだだと思うけど。ちょっと測ってみようか」 どこから取り出したのか、フローゼルはメジャーを伸ばすとザングースのお腹周りを計測し始めた。 「(もう2m70cmかぁ凄いなぁ)」 感心しつつ、目の前の巨大に膨れ上がったお腹をマジマジと眺めてみる。もっと大きくなったら、もっとふかふかになるんだろうな。 「んー、まだ2m40cmだね。」 気がつけばフローゼルは嘘をついていた。だって、こんなにフワモフなんだもん。もっと大きくなったら、凄い気持ち良いモフモフになるに違いない! 「そっか〜もっと頑張らないと。うん。こんなペースじゃいつまでも目標には届かないし。よーし・・・!!」 バクバクと大食い選手の勢いで、ザングースは食事を再開した。脂肪と食料がはち切れんばかりに詰まったお腹はぐんぐんむくむくと成長を続けていった。 そして、とうとう1ヶ月が過ぎる頃にはーーー予定を大幅にオーバーしていた。 「げぷぅ!! はぁ、はぁっ、、、、も、もう今日は、食べられ、ないよ。 続きは明日に、しない?」 特大の、1粒1000キロカロリー以上ある甘い果物を食べ終わるとザングースは苦しそうに声を出した。 でもフローゼルは、もう少しだけ、と言って追加をガンガン持ってきて食べさせた。 小さなチョコ菓子をザラザラと飲み物のように流し込む。 「んくっ、ぁ。。。。。(ゴグン)」 ポケモンフーズを山のように食べ終えたばかりのお腹はグングン膨張しており、そのおかげでフローゼルのテンションは余計に上がっていた。 「えへへ、ザング君本当に立派になったね。 お腹パツパツだけど、こんなに柔らかいや。」 もぎゅもぎゅ、と巨大に太ったザングースにハグすると膨らんだお腹の感触を全身で味わった。 撫でると綺麗な曲線を描いており、フローゼルは特大ビーチボールかバランスボールで遊ぶかのように、そのお腹に飛び乗ったりした。 すでにウエストは4m20cmを超えている。体重もカビゴンを軽々と超え、そのうち頑張ればグラードン(900kg)級も目指せるほどの体格になっていた。 「(ガツガツガツガツ・・・ゴックン!!) ふはぁ、沢山食べたら、のど、渇いちゃった; フローゼル君、お水貰ってもいい?」 「うん、もちろんオッケー!」 むしろ大歓迎であった。フローゼルはザングースのお腹にぎゅうって力いっぱい抱きつくと、水を大量に飲ませてあげた。 「ゴクッ、ゴクッ、ゴクン」 ザングースの喉が膨れ、そして徐々にお腹に水がたまっていく。限界近くまで食べていたお腹にスペースは無く、お腹が徐々に膨らみ始める。 浮き袋が膨らむ時よりも、凄いサイズ。なおかつふわふわなザングースのお腹に、フローゼルは益々気分が高揚して、知らず知らず水を送る量を増やしてしまう。 「(ゴブッ、ゴブッ)ム、ムフフ、フグゥ??!(フ、フローゼル、君?) ン、、、ンンッンンググ!!(また飲ませすぎだよぉー!)」 でも何を喋ってるかさっぱりわからないし、ザングースのお腹にメロメロ?状態なフローゼルは気づかない。満足そうな表情でザングースのデカッ腹に抱きついたまま、上向きでザングース目掛けて水を吐き続ける。 ググ、グググゥーーー! とザングースの超巨大な腹部が更なるサイズアップを始める。 「ンーーー!!ンンーーーー??!」 涙目になったザングースがジタバタと動くたびに、お腹が大きくゆっくりと揺れて、フローゼルはまるで波に揺られるボートに乗っかっているみたいだなぁ、なんてのんびりしながら目を閉じてウットリ(?)していた。 ムックゥウ・・・! 「ンッーーーーー??!」 しかし、あまりにお腹が膨らみすぎて、ザングースは自身の腹におしきられる形で仰向けに倒れてしまった。 [ドズゥウウーーン!!] 地震でも起きたのかとフローゼルがハッと意識を取り戻すと、かなり膨らみまくったザングースにようやく気がついた。 「わわわ、ごめんザング君大丈夫?!!」 「ふっ、ふっ、ひぃ、はひぃ、、、、 く、苦しかったよもう! ゲホッ、ゲホッ。はぁー・・・疲れちゃった。」 水を少し吐いたものの、お腹のサイズは以前として巨大なままだった。 そして、今回の大膨張(謎)のせいでザングースの摂取可能量は更に強大なものになってしまう。 それから更に3日後。 「なんだか、(モグモグ)もっと食べたいなぁ。かなり食べちゃったと思うんだけど・・・///」 恥ずかしそうに自分のお腹を見つめる。当初の予定だった3mなんて遥か遠い。オーバーしちゃった意味で。 「うーん、ふわっふわだねぇザング君♪ 暖かくて気持ちいいよ。」 すっかりザングースのふかふかな太っ腹が気に入ったのか、最近はフローゼルは頻繁にハグしたりお腹を撫で回したり、どんどん食料を増やしていた。 「そ、そう? けどバトル出来るかなボク・・・・ほとんど動けない気がするんだけど。」 「大丈夫、これなら絶対にしめつけられないから勝てるよ!・・・・た、たぶん。」 そして決戦当日ーーーー まさか、あれから更に太るとは思っていなかった。 明らかに身長よりも横幅が広い、つまり超太ってしまったザングースは、ハブネークと対峙していた。 宿敵であるハブネークに心配されるぐらいのサイズに。 「ぅお、おいおいーーーお前本当に大丈夫なのかよ(汗)」 「ふぅーー、ふぅー、だ、だいじょ、うぶ。はふぅ。ふへぇ、、、。」 試合直前にも限界寸前とも思える量食べてきている。吐きそうな気持ちをどうにか抑え込んで、ザングースは相手に向き合った。顔だけ。 頬っぺたは詰め物したみたいにぷくぷく、手足はボリュームをつけすぎたコッペパン、そしてお腹は大福もちを膨らませたような超・大ボリュームで見事な楕円。 体重やウエストは測っていないが、以前の数値から推測するにかなりのモノ。並のメタボポケモンの域は脱している事だろう。 とりあえずバトル開始ーーーしたはいいが、ハブネークはどうすれば良いか困った。 勝負に勝ちたいという思い(ーーーなんで太ったかは不明だけど。)は強く伝わってきたし、どこから攻めて良いのかわからない。 とりあえず、ろくに動けないから後ろから攻撃すればいいのかな。とか、あのあついしぼう、の前にはどんな技も通用しないんじゃ、とか。 警戒しながら、とりあえずハブネークは後ろに回る。  「がんばれー、ザング君ーー!」 協力したフローゼルも自分の事のように必死に応援する。 「う、うん、フゥフゥ、頑張る、けど・・・!」 どうしよう。ほとんど動けない。ここまで歩いてきた事自体が奇跡(腹で地面をえぐるほどの勢いで来た)な上に体力は全部使い果たしてしまった。 技を出す云々の前に、何も出来ない。呼吸を整えるぐらいで精一杯だった。 「悪いが、こちらも負ける気はないんでね・・・・!!」 ハブネークが素早くザングースの背後から飛び掛り、いつもの必勝パターンを決めようとした。まず体を締め付けて動きを封じてからーーー 体を締め付け・・・ 「のわーーーーな、なにこのお腹?!!」 ハブネークの長いながーい体を持ってしても、一回りも出来ない超ド級な腹回り。 「アンコ体型の力士ってレベルじゃねーぞ?!!」 完全に度肝を抜かれたハブネークはあせった。まさかここまでデブだったとは。 その様子を見て、フローゼルが気づいた。 「!! ザング君、そのまま後ろに倒れこんで!!“のしかかり"だよっ。」 「え?あ、えっと、まって、体が重くて・・・んんしょ!」 ググググ、とギガトンサイズのザングースが背中越しに倒れていく。ハブネークが事態を察して、逃げようとするがもう遅い。 まるでスロー再生のように、地面が近づいていく。そして彼は察した。ああ、オワタな。と。 [ズドォオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!!!!!!!] 土煙が舞い上がり、大地は裂け、その轟音は天まで届く勢いで、まるで隕石が衝突したのかと思ったーーーーー と後(のち)のハブネークは語ったとかいないとか。 「や、やった。勝てた・・・・?ハブネークに勝てたんだ!」 倒れこんだままザングースは思い切りバンザイした。腕が太すぎて、かなり苦労したけど。 「おめでとうザングース君!凄いよ、太った体のデメリットを完全に活かせたね!!」 そしてフローゼルは仰向け状態のザングースに思いっきりダイブ。トランポリンみたいに弾まないが、低反発枕よりも心地よく沈み込むお腹と高級布団みたいな毛並みに全身を埋めた。 「わわっ、フローゼル君くすぐったいよ;」 「フカフカ、モフモフ。」 フローゼル君はザングースの至高の腹ベッドがあまりに心地よくて壊れてしまったようだ。 というのは冗談だが、とにかくふっかふかなボリュームと化したザングースは暫く勝利の余韻に浸るのだった。 が 「あ、れ?」 「モフモフモフ・・・・ん?どうしたのザング君。」 「あのーーーえと、起き上がれない。」 「ありゃりゃ、そこまで太っちゃってたのか。じゃあ、もう暫くモフモフさせてね♪」 「な、なんでそうなるの?!」 暫くは遊ばれるみたいだった。でも、フローゼルの協力のおかげで勝てたし、とりあえず感謝しないとね。 で 「・・・・(え、俺やばくね)」 声も出せないほど完全に押しつぶされたハブネークの運命やいかに。 しかし、その辺りは誰も興味がないのでこの話はこれにて終幕。              おしまい