「「夜の悪夢にご用心〜ライチュウ編〜」」 就寝前、ライチュウは耳を垂らして落ち込んでいた。 自慢の長いシッポも地面に落ちている ライチュウ「はぁ」 何度目かのため息を吐き、お腹に手をやる。 彼の白いお腹はポッコリと丸く、平均よりも大きかった。 元気がない原因は、ここ数日で大分太ってしまったことである。 今や体重は平均の三割増しである40kg 10kg増えただけとも思えるが、カビゴンやグラードンなら100〜300kgの増量と同じであり死活問題である。 そして太ってしまった理由、それは最近続けてみる悪夢のこと。 「今日は良い夢、、、見たいな_____ZZZ」 ウトウトしたライチュウは、そのまま眠りの中へ。 彼の思いとは裏腹に、再び悪夢へと誘(いざな)われていった・・・ ___ _____ ____◆______ ???「・・・ライチュウ!おい、いつまで寝てるんだ!」 ライチュウ「あ、は、はい!」 ライチュウは怒鳴り声で目が覚めた。 声の主はピカチュウ。 怒りと蔑みの感情を込めた瞳で、こちらを睨んでいた。 隣にいるピチューも同様の視線を送ってくる。 「す、すみません…!」 ライチュウは慌てて起きあがろうとするが、体が重くて起きあがらない。 ライチュウの体は丸まると太っていて、大きなお腹が邪魔をするのだ。 ピカチュウ「追加がきてるんだから、もっと急いで貰わないと。 それともそのデカイ腹は飾りピカ?」 ピカチュウは仰向けに寝たままのライチュウの上に乗ると、小さな足でグリグリと踏みつけてくる。 ピカチュウ「ボク達のおかげで好きなだけ食べれるんじゃないか。 役に立ちたい気持ちがあるならさっさと食べて返事を書き続けるピカね。」 ピチュー「ピカ兄、こんな奴は放っておいて早く遊びに行くチュー」 ピカチュウ「そうだな。 じゃあ夕方までにそこの山は無くしておけよ、わかったな」 冷たい言葉だけを放ち、ピカチュウ達は行ってしまった。 ----- ボクの名前はライチュウ 不器用だし得意なことは何もない。 幼い頃は失敗しても、笑って許して貰えた。 でもある日、進化してからというもの愛想を尽かされて、周りの誰も見向きはしなかった。 体か大きくなって、可愛げが無くなり、かといって格好良さで求められることもなくなった。 居場所を失い、路頭に迷っていた所を同族のよしみでピカチュウ達に拾われた。 けど、なんの取り柄も芸もないボクに任された仕事はファンから送られる品に、お礼の手紙を出す事。 世界的に人気のあるマスコットに送られるお菓子や果物は、膨大で、 ボクはそれらをきちんと食べてから返事を書かなければいけなかった。 ライチュウ「(もぐ、もぐ。) これで〔オボンのみ〕は50個食べ終わったんだ………うっぷ。」 続いてモモンやオレンが盛られたケーキに手をつけ始める。 今日のノルマは、まだ半分以上残っている。 「はぁ、はぁ、はぁ、、、うく。お腹が苦しいよう・・・・・」 ウンウン唸りながらも手は休められない。 ぷくりと膨らんでいたお腹は、時間の経過と共にどんどんサイズを増していく。 やっと食べ終えても、翌日分の更なる追加が届く。 ペリッパー郵便もデリバード運送も、一度の配達ミスもなく仕事するから困っていた。 ※ 「もう、駄目、食べられないよぉ・・・。」 苦しそうな声で、ライチュウはギブアップ宣言をした。 白いお腹は丸々と膨れ上がり、そのもっちりした風貌は大福餅を連想させる。 次第に意識が薄らいでいく。夢の中での眠りは、逆に本来の目覚めが近い事を意味していた。 ーーー◇ーーー ーーーーーーー 「ライチュウにーちゃ、だいじょーぶ?」 不安そうな表情でこちらを覗き込むピチューの顔が視界に入った。 夢の影響で、一瞬ビクリと体を震わせたライチュウだがすぐに悪夢から目覚めた事に気づいた。 現実の僕は不幸な目に合ってなどいないし、森で仲間と一緒に静かに暮らしているだけなんだ。 「そっか、またあの夢を見ていたんだ・・・。」 呟いて、早く悪夢を忘れようと首を左右に振った。 ピチューの横では、大人しくピカチュウが待機していた。 「ライチュウお兄ちゃん、随分うなされてたよ。大丈夫・・・?」 優しい言葉をかけてくる弟達。別に血の繋がりはないが、兄弟同然として一緒にこの森で育った。 「うん、ちょっと疲れたけど心配ないよ。ありがとう。ちょっと、川の水飲んでくるね」 しかし、顔色は悪く明らかに声にも気力がこもっていなかった。ゆっくり立ち上がると、ふらふらとした足取りで水を飲みにいった。 ピカチュウとピチューは、そんなライチュウの様子を見てなんとかしてあげたいと思った。 「どうすればライチュウにーちゃ、げんきになってくれるかなぁ。ぼく、にーちゃにはげんきでいてほしいもん、、」 「うん、僕もだよ。」 「そーだ、ぼくにーちゃのだいすきな きのみ、いーっぱいとってくる!たくさん、たくさんっ。」 「それがいいかもしれない、きっと喜ぶよ。僕も一緒に探すの手伝うよ。」 「うん!」 大好きなライチュウの為、ピチューは元気いっぱいに走り回った。 そそっかしいピチューを監督しながら、ピカチュウもたくさんの木の実集めに協力してあげた。 早くライチュウに元気になって欲しいと、彼らは心から願っているのだ。 ==== 「(もぐ、、もぐ、、、)もう、悪夢は見たくないよ・・・美味しいもの食べて、早く忘れないと;」 ライチュウは連日に続く悪夢のストレスで、過食気味になっていた。 夢のように膨れた体じゃないが、確実にぽってりお腹の肥満固体と化していた。 「けぷ、ご馳走様・・・ふわぁ、なんだか、もう眠く、なって、きちゃ・・・った・・・・。」 そして、クゥクゥと寝息を立ててライチュウは再び夢を見始める。 《ゲケケ、そうだ現実でも沢山食って寝て、そして太っちまえーーー》 声が聞こえた気がした。それが現実の出来事か夢の中の出来事か、はたまた空耳か・・・今のライチュウには判断できなかった。 ==◆== 「・・・チュウ、おい、ライチュウ起きろ!!」 ドゴームのような怒鳴り声が耳をつんざいて、ライチュウは目が覚めた。 不機嫌そうな顔のピカチュウが、足をたしたしと踏みつけてウサギのスタッピング(主に警戒や不満時の足踏み)みたいな仕草をしている。 ライチュウは急いで体を起こそうとしたけど、やっぱり太りすぎた体では自然に起きる動作にすら四苦八苦してしまう。 「まったく、お前は食うだけが取り柄なのに、本当にトロい奴だな。 ほら、仕事だ。3日以内に“それ”片付けておけよ。」 それ、と言われてピカチュウが目を向けた方向を見てみる。今までよりも更に山盛りの果物がわんさか積み上げられていた。 オレンの実やモモン、レム、オボンの実など、好物が沢山あるが、“沢山ある”にも程があった。 「映画の公開前後は人気が上がりすぎて困るよ、まったく。こんなに送られてきても、どうしようもないっての。 ま、お前が居てくれるおかげで助かってるよ。全部処理よろしくな、ラ イ チ ュ ウ 君?」 それだけ言い残すと、巨大なスペースを誇る事務所(?)らしき場所には巨大なライチュウと山積みの木の実だけが取り残された。 「こ、これを3日以内・・・・」 頭の中で計算する。や、やばいのんびりしてる暇なんか無い!! ライチュウはペース配分を考える余裕すら満足に無い事に気づいて、がむしゃらに、バクバクと食べ始めた。 1日目の終わる時点ですでにお腹はパンパン。消化し終わる時間もないので、2日目は無理やり押し込んで詰め込んで、泣きそうになった。 3日目には、もう未知の領域が開始されており・・・・ 「(ムシャ、ムシャ、ゴクン!) うぅ、ううん・・・・苦しいよぅ、ううう・・・・ふぅふぅ、、、!!」 あれ程あった木の実の山は残すところあと僅か。しかし、その功績によるライチュウの膨張は悲惨なものだった。 今では完全に仰向けに倒れこんだ状態で、その巨体の短いコッペパン(手)をどうにか駆使して木の実を取り食べている。 残りはぱっと見て、5〜60個・・・このペースなら間に合う。けど、 「ひぃ、ふぅ、そ、そんな・・・」 届かない。食べすぎの膨れすぎにより、満足に起き上がれないせいで移動することも出来ない。 ウンウンと声を出して踏ん張るけど、一向に変化が無かった。 と、そこへガチャリと扉を開けてピカチュウが入ってきた。 「ピカ?やれやれ、まだ終わってなかったの。 しょうがない、手伝ってあげるよ。」 「え・・・ま、待って、んぐっ?!」 ピカチュウは木の実や果物を取ってきてはライチュウに食べさせるのだが、ペースが速すぎる。 2,3個まとめて口に入れられて、お腹が落ち着く暇も無く次の果物、更に次の・・・ と先ほどまでの数倍の速度、ですべての木の実を入れられてしまった。 「ぅ、え、えっ、えぇええっぷ・・・。」 吐き出しそうな気分だが、そんな事は出来ないし許されない。逆に詰め込まれすぎて、実際は吐くことすら出来ないのだが。 「(もう、駄目だ・・・)」 いつまで、こんな生活が続くんだろう。たった3日でまたかなり太ってしまった。なんとか、ダイエットもしないと、このままじゃ太り続けちゃうよ・・・ 疲労により、次第に瞼を開けていられなくなる。 そして、すべてが終わると見計らったかのように深い悪夢から目が覚めるのだった。 ー◇ー 「ん、ん・・・ふぅー・・・つ、疲れた。」 眠ったのに、逆に体力が無くなっている。いつまで、あの悪夢と付き合わなくちゃいけないんだろう。 そろそろライチュウの心は限界だった。 気がつくと、何かを持ってピチューとピカチュウがこちらにやって来るのが見えた。 「らいちゅうにーちゃ。これ!」 「え・・・?」 熟したオレンの実やモモンの実。どれも蜜や果汁がたっぷりありそうで、みずみずしい立派なものばかりである。 しかし、ピチュー達は運が悪かった。 「なんだよ、それ・・・。」 一気に不機嫌な顔になるライチュウを見て、ピチューは困った顔になった。 「えっ、あの、これ・・・ライチュウにぃちゃんに、たべてもらおうとおもって・・・。」 ピカチュウがあわててフォローをする。 「あ、あのさ、それとかピチューが一生懸命探して見つけたんだ。かなり危ない場所にあったりしたけど、一番美味しいのを食べて欲しいからってーーー」 だが、その言葉はライチュウの怒号によって途中でかき消された。 「誰が頼んだんだよ、こんなもの!!」 リアリティのある夢のせいで、もう暫く見たくも無かったのに。 それを大量に持ってこられては、確かに気分は悪くなるだろう。 ライチュウはバシッとはたいて、木の実を落とす。連鎖で、ピチューが持っていた木の実や果物はすべてバラバラと地面に落ちた。 ビクリと体を震わせるピチュー。こんな態度や、大声を出されたことは無かったので、幼いその子は完全に混乱してしまった。 「えぅ、ヒック、にーちゃに、うっ、よろこんでほしくって、ぼく、ヒックーーー・・・う、うわぁああん!!!」 「あ、ピチュー?! ご、ごめんねライチュウお兄ちゃん。また、後でっ」 ペコリと礼儀正しく頭を下げると、ピカチュウはわんわんと泣いて森の奥に消えていったピチューを追いかけていった。 「・・・・・。」 ライチュウは呆然として、その様子を見送った。なんで、自分はこんな酷い事をしちゃったんだろう・・・ 見れば、木の実や果物はどれも一級品とも思える物ばかりで、苦労して集めただろう事が容易にわかった。 あれは夢の出来事で、現実の彼らはこんなに優しいのに・・・・ 「っ・・・。」 泣きたくなった。 そうだ、折角貰ったんだから、食べないと・・・ 「(シャク・・・。)・・・・・いつもは、美味しいはずなのに。」 悲しい気持ちで食べると、ぜんぜんおいしくなかった。 ストレスのせいか、ヤケ食いして全部食べきってしまう。 暫く放心してぼうっとしていると、また強烈な眠気が襲ってくる。 「なん、で・・・寝た、ばかりなのに・・・?」 《ケッケッケ、もっとお前は苦しむんだ、そしてーーー》 また声が聞こえた。 ー◆ー 気がつけば、いつもの事務所だった。 そして、お決まりのごとく山積みのプレゼントが・・・・ 「え、凄い多い・・・?」 今までに無い量が部屋を埋め尽くしていた。 と、いつもどーり不機嫌そうな、そして悪そうな顔をしたピカチュウが部屋に入ってくる。 「ふー、やれやれ、バレンタインの時期はこれだから困るよ。 あ、まだ外にもこれ以上の量がたっくさんあるからさっさと食べてくれよ?☆」 ニコッと笑顔で凄まじい事を言われた。 え、部屋の中にもこれだけあるのに・・・外には、これ以上・・・? 甘いチョコレートの匂い。きっとおいしいのだろう。それが、普通の量で済むのならば・・・。 愕然とした。でも、食べるしかないんだ・・・ ライチュウは手始めに、生チョコトリュフを3箱食べ終わった。続いて、板チョコレートを10枚。 ナッツ入りの物を1ケース。キャラメルソースや生チョコ等のドーナツを合計30個。 うぅ、ぜんぜん減らない。 チョコレートバナナケーキを1ホール。チョコチップマフィン、チョコレートババロア、フォンダンショコラ、ガトー・ショコラ。 口の中が甘い。口直しにアイスやオレンジジュースを飲み干す。お腹がすぐに一杯になってしまう。脂肪分も糖分も多いチョコレート系は、かなりライチュウの体を肥えさせる働きをした。 だが休憩する暇も無く、ホワイトチョコ、ビターチョコの連続攻撃に苦しめられた。 チョコスフレ、チョコクランチ、ミニパウンドケーキ1ダース・・・。チョコクリームのタルト・・・ 「ふー、ふー、あ、あとどれぐらいあるんだろう・・・?」 きっと、まだ数%も終わっていない。先が遠すぎて、ライチュウはこのまま全てを投げ出したくなった。 しかし体は止まらず食べ続けている。 お腹がぼってりと膨らみ、四肢も背中も脂肪が貯めこまれぱっつぱつ。もし食べ始める前に服をコーディネイトしていたなら、破竹の勢いでボタンとベルトがはち切れていただろう。 それほどまでにライチュウの体は膨張していた。特にお腹のボリュームアップ量が凄まじく、カビゴンよりも大きく、ベロベルトよりも丸い、そんなサイズから更に進化していった。 食べ続けているだけで、1週間があっという間に過ぎた。 超肥満風船の姿になったライチュウは、楕円状のぼってり体型となり、本当に歩くことすら出来なくなっていた。 お腹は常に床と接しているせいで座っていても立っていても、大差ない。 腹はパンパンなのに、かなり柔らかそうな見た目で実際少し身動きするとぽにょんと揺れる。 「ひふぅ、はふぇ、もう、本当に、だめだぁーーー・・・!!」 《ちっ、もう”奴”が来たのか。そろそろ潮時か、、、》 ライチュウの、黒い太った影がもっそりと動く。 謎の声が響くが、ライチュウには他の事を考える余裕が全くない。 さすがの巨体を誇るライチュウも本当に限界だった。しかし、本当の地獄が始まるのもこれからであった・・・。 「まーったく、まだまだ残ってるのにしょうがないなライチュウは。」 巨大なチョコレートを手に取ったピカチュウはヒョイと軽々とライチュウの腹に飛び乗ると、なんと、無理やりそれをライチュウの口に押し込んだ! 「むぐぐっーー?!」 ピチューが手渡し、そして受け取ったピカチュウがライチュウに押し込む。本来なら1個だけで十分足りる量の巨大なチョコレート。 それを惜しみなく!容赦なく!一切の慈悲も無しにピカチュウはチョコレート責めを続けたのだ。 「むぐぐ、ひぃひぃ、ふっ、うぁっ!!(ゴッ、ゴクン)」 辛くて苦しくて、ライチュウは涙目になって、でも抵抗できなくて・・・どんどん膨らむお腹に力を入れるだけで精一杯だった。 明らかにピカチュウにプレゼントするサイズじゃないだろう、って感じのネタチョコレートと思わしき巨大チョコ。 それを1個、2個、3個ぐいぐいと詰め込んでいく。そのピカチュウの姿はドSそのものである。 「ごめん、なさっ、もう、無理ですぅ、うううう・・・うぅ、、、、んムグゥっ??!!!」 ズボォッと口が限界まで開かれ、頬っぺたは餌を溜め込んだパチリスみたいに膨れ、そしてお腹はマルマインやフワライドを連想させるように丸く、むっくむっくと膨れていった。泣きながら訴えるが、ピカチュウはニヤリと意地悪な笑みを浮かべるだけで止める気配は無い・ばかりか・・・ 「うーん、このペースじゃ全然駄目だね。ピチュー、残りのチョコレート全部とかしておいて。」 「了解ピチュ!」 「・・・!?」 何をするつもりか、すぐにわかった。なにやら巨大な装置にチョコレートを全て放り込んで準備完了。 そして、部屋の外の巨大なタンクに溜め込まれた溶かしたチョコレートを、特別な給与口でライチュウに与え始めた。 「ンンンンンンンンンンーーーーーーーーーーーー????!!!!」 ガボッ、ゴボ、ボポポっ・・・。 音を立てながら、ドプゥントプンとチョコレートがライチュウに流し込まれていく。息をする余裕も無い。 ドボドボと滝のような量がライチュウを襲い、みるみる体が更に膨らんでいった。 膨張するライチュウは、事務所内の机や椅子を壁際においやって、そればかりか腹がとうとう事務所の壁に到達してしまった。 だがチョコレートは更に注がれる。 「ひっ、ひっ、ふぅ・・・(ごぼっ、ごく、ごくん)、ふはっ、あっあ・・・!」 ラマーズ法を思わずしてしまう程の苦しさ。パンパンに膨れたライチュウは事務所に収まりきらないサイズへと変化していき、壁や天井がミシミシと音を立てて瓦解し始める。 「あ、んぐ、んぐ・・・・・!!(おなか、が、パンパンで、もう、だめ・・・・・・・・!!!)」 ギュウウ、と部屋が軋んで壁がはずれそうな勢いだ。チョコレートは全く無くならずに、ライチュウは太り続けーーー ーー◇ーー 「うぅ、うっ、ううう・・・・。」 ビクッと時折体を震わせながら、ライチュウは悪夢にうなされ続けていた。 必死にピチューとピカチュウが呼びかけたり体を揺すっても、一向に目を覚まさない。 どうしようか途方にくれていると、ぬぅっと大きな影が彼らを暗くした。 ピカチュウが背後を見ると、そこにはずんぐりと太った胴体をしたポケモンがいた。 ???「気配を追って来てみれば、奴め・・・。だが、もう行ってしまった後か。」 「あ、あなたは・・・?」 ???「おっと失礼。私の名前はヨノワール。 そのライチュウを苦しめているのは、“悪夢”だ。そしてその原因を生み出している元凶・・・ゲンガーを追っているのだ。」 ピカチュウ達には、何がなにやらわからない。 「あ、あの、あの・・・。ライチュウお兄ちゃんは、どうすれば助かりますかっ」 「安心しろ。その為に私が来たのだ。」 すると、ヨノワールはライチュウにいきなり抱きついたかと思うと、その胴体にある大きなギザギザ模様を口のように開いた。 と、同時にライチュウの中から黒いモヤのようなものがヨノワールに流れ込み始めた。 「ぐっ、う・・・・・!」 “夢食い”を相手の体力を奪わずに、悪夢だけ奪おうとすると様々な問題が生じる。 夢を見ているものにとっての、マイナスなエネルギーだけを取り込むのだが、それらは不純物に近く、ゴーストポケモンにとっては、なんというか、まぁわかりやすく言うと過剰なカロリー摂取みたいな事になってしまう。 つまり、ちょっと太ってしまうのだ。 (ゴク・・・・ゴク・・・・・ゴクン!!!) 「ふぅーー・・・・」 煙のようなモヤを全て食べつくしたヨノワールは、ポンポンと叩いて更に大きくなったお腹を落ち着かせた。 「うぅ、、、ん・・・・スゥスゥ・・・。」 ライチュウの呼吸が落ち着いて、汗もひいてきた。 「あっ、ありがとうございます!」 ピカチュウは、とりあえずヨノワールが兄を助けてくれたということだけは理解できて、お礼を言った。 「いや、なに・・・同族(ゴーストポケモン)の不始末だからこれぐらいは、な。じきに、その子も目を覚ますだろう。 今まで何か問題があっただろうが・・・すぐに元気になるだろう。」 その言葉を聞き、なんだかホッとした。 しかしヨノワールはわかりにくい表情だったが、真面目な雰囲気で呟いた。 「結局、また奴には逃げられてしまったーーーか。だが、確実に距離は近づいてきている。早くゲンガーを止めないと。」 挨拶もそこそこに、ヨノワールはどこかへと行ってしまった。 そしてーーー 「ん・・・あ、あれ?」 なんだか体がすっきりしている。毒が全部抜けきったような、なんだか爽快な気分。体もかなり軽い。 ライチュウが目を覚ますと、ちょっとだけ目が潤んだピカチュウとピチューががばっと抱きついてきたもんだから、何事かと思ってあわてた。 「ちょ、ちょっとどうしたのさ2匹とも・・・・!!?」 「大丈夫?どこも痛いところとかない?」 「ライチュウにーちゃ、よかったぁ・・・」 なんだかただごとではない雰囲気だが、自分はなんともない。確かに悪い夢は見ていたけど、今じゃ特に気にしていない。 「なんかわかんないけど、だいじょーぶだよ。」 ぽふぽふのお手手で2匹を抱え込むと、優しく包むように抱擁してあげた。(太ってるからじゃないよ。体が大きいからだよ。) と、ピチュー達の耳に、”ぐぅーー”というライチュウのお腹から音が聞こえた。 お腹におしつけていたから、かなり大きな音だった。 「あ、あはは・・・そういえば夢では沢山食べて宝、なんだかお腹空いてるや。 その・・・また果物取ってきてくれるかな。おいしかったし、、、。」 「・・・・うん!」 嬉しそうにピチューは笑った。ピカチュウとライチュウもつられて笑った。今、こうして食欲があるのは、元気一杯だからだ。 食べ過ぎに注意しよう、ってライチュウは思ったけど、頑張れたかどうかは別だった。 《おしまい》