主人:女トレーナー(トウコ) ベストパートナー:ペンドラー          〜〜プロローグ〜〜 メガムカデポケモンは大きな体を折り曲げて、倒れている人間に顔を寄せている。 「“ご主人っ、ご主人っ!!”」 ポロポロと零れる涙。1匹のペンドラーは最愛の主人を目の前に、大声で泣き、啼(な)いていた。 キュウ、キュウと悲しそうに、小動物が脅えるような声で鳴いた。 「だい、、、じょぶ、、、だよ。わたしは、大丈夫だから・・・・・・。泣かないで、ね?」 かすれた主人の声。虚ろになっていく瞳。上がっていく体温と呼吸数。 苦しめてしまった。自分の「毒」が、大好きな主人を−−− ペンドラーは自分の生まれ持った体の特性を憎む。 外的から身を守る為の「毒」は、親身になってくれる者にも、意図せずとも、牙を向いた。 自分の体じゃ、苦しむ主人の看病をするどころか、余計に悪くしてしまうだろう。 リュックにどくけしが入っているのは知っている。けど、ポケモンに使い道はわからないし、脚だけの自分じゃどうしようも無かった。 悔しかった。謝っても、泣いても何も解決しない。それでも言葉をかけ続ける事ぐらいは、したかった。 「ごめんなさい、、、っ。ご主人、ごめんなさい・・・!!」 そのペンドラーは、ずっと謝り続けた。 自分が代わりに苦しめば良かったのに。 後悔して、後悔して、同じ過ちを繰り返さないように、ペンドラーは強くその日の事を胸に刻み込んだ。 1年近く前の、今となっては昔の出来事である。 ===【ドクドク、時々、ドキドキな毎日】=== ある曇り空の日。ペンドラーと若い女性トレーナー・トウコが舗装された道を歩いていた。 「んー、なんだか雨が降ってきそうだねーペンドラー。」 「(コクン)」 ペンドラーは、その呼びかけに大きな首を曲げるようにして答えた。 「お。」 間髪いれず、ぽたりと一粒の雫。 初めは ぽつぽつ と、次第に強く、そして音を立てて激しくなっていった。 「わっ、わっ、傘持ってないのに!ペンドラー、あそこの大木の下まで走ろっ。」 小さなカバンを頭の上に、彼女は走った。ペンドラーも、見た目とは裏腹にかなり早い動きで主人の後を付いていく。 「ふぃ〜、とうちゃーっく!」 そこそこ濡れたが、特に持ち物に影響を与えるほどじゃなかった。 安心し、彼女はため息した後に深く息を吸い、走って乱れた呼吸を整えた。 かなり大きな木だったようで、多くの葉っぱや枝が大部分の雨風を防いでくれた。 落ち着いて外を見ると、なるほどかなり土砂降りの雨だ。雷でも鳴りそうな雰囲気である。 「ありゃりゃ。本降りになっちゃったね。困ったなぁ、次の街まで結構あるのにぃ」 むぅー、と少しだけ頬を膨らませて雨雲を睨み付けるご主人。 「どうせなら、ボルトロスとか、ゼクロムが一緒にやって来るなら文句無いのにな。 あ、いっそのことカイオーガかライコウでも・・・。」 と、呟きながら左右に歩いていた彼女の足がピタッと止まった。 「あれ?・・・んー?」 ジロジロとペンドラーを見ていく。そしてペタペタと触り始めた。 ペンドラーは、ビクッと少しだけ体を後退させる。今はもう大丈夫とはいえ、油断は出来ない。 そして、ぐるりとペンドラーの周囲を廻ってから、改めて彼女は顔を上げた。 「ペンドラー、以前より大きくなった??特にこの辺。」 言いながら、彼女はペンドラーのぽってりとしたお腹をツンツン。 ドキリとして、ペンドラーは思わず体が飛び上がりそうになった。 最も200.5kg以上の体重は簡単には浮かばなかったが。 ぷるぷると首を振って否定する。事実ではあったが、ある理由から知られたくなかったのだ。 「気のせいかなー・・・クシュン!雨に濡れちゃったから、ちょっと寒くなってきちゃった。」 ぶるるっと体を震わせる主人。半そでで薄着だから、かなり寒いはず。 少しでも冷たい風を和らげようと、ペンドラーはその巨体を近寄せた。 「あはは、ペンドラーありがとね。」 とっても優しい相棒を、彼女はそっと撫でてやる。レパルダス(猫科に近いポケモン)なら、きっと喉をゴロゴロとさせているだろう。そんな嬉しそうな顔でペンドラーも目を閉じた。 いつしか、ふたりともウトウトし始め、気づけば互いに深い眠りについていた。 【◆】 夢を見た。 遠い昔の事。怪我をして、動けなくなったフシデを抱えて走る少女の姿。 つまずいて転んでも、背中から倒れ、決して手放すことなく、ポケモンセンターをひたすらに目指した少女の姿。 手当てを受けて全快した数日後、そのフシデはボールで捕まえられる以前から。 そう、自分の意思だけで、彼女の元へ向かって歩いていた。 【◇】 気づけば、雨はやんでいた。 昔の夢を見て、懐かしい気持ちになったペンドラー。気がつけば主人(トレーナー)はまだ自分に寄り添ってスゥスゥと寝息を立てていた。 絶対に二度と傷つけない、と心に誓った。 そして、起こさないように慎重に体を離すと、近くにモモンの実が無いか捜し始めた。 ペンドラーはある“我慢”をしていた。それは毒の分泌である。特性に“毒のトゲ”を持つ彼は、自己防衛のために毒をその体内で生成している。 しかし、その毒で昔最愛のご主人を傷つけ、苦しめてしまった事が彼のトラウマとなっていた。 だから彼は無理やり毒の分泌を抑えるようになった。生成された全身の“毒”を体内に留め、浄化させる。 自身の体内で生成される物質なので、「毒」本来の効果は受けないとはいえ明らかに体にとって悪影響ではある。 常に集められた“毒”は腹部に溜まり、時間をかけて分解されエネルギーとなる。そのせいで、この子の腹部は平均個体よりも「ぼってり」と膨らんでいたのだ。 主人が近くにいたり、接している時は特に細心の注意を払って体内の全ての毒素を腹にためる。 だから、長時間一緒に寝たりすると、数時間もすれば彼のお腹はとっぷりと太ってしまい、かなりメタボに見えてしまう。そして、今もそのような状態になっていた。 そして今は、万が一毒に触れた時に濃度が薄くなるよう、モモンの実を大量摂取しているのだ。 ペンドラーは長い体を器用に動かして、モクモクとモモンの実を食べ続ける。すでに、32個平らげたが、多いに越したことは無い。 もうお腹一杯で苦しいのだが、無理をして追加。結局、60個以上のモモンの実をその胃袋に収めたのだった。 「あ、ペンドラーどこ行ってたの? 心配したんだから。」 なるべく急いで帰ったが、主人は起きて図鑑をいじっていた。 「キュゥ、、、。」 ペンドラーは申し訳なくて、頭(こうべ)を垂らした。でも、主人は眠っていた場所から動かずに、いつもみたいに待ってくれていた。信頼してくれているのがわかる。 「あ、ペンドラーそのお腹。またこっそりおやつ食べてたんでしょー?」 つんつんと太鼓のように張ったお腹を触る主人。たんに食いしん坊な子と思ってくれているので、ほっと一安心。 「ご飯、いつもの量で足りないなら追加するよ?」 思わず、反射的にコクンと頷いてしまった。 「やっぱり! 体大きいし、まだ成長してる食べ盛りだもんねー。今日の夕食から少し多めにしておくね。」 嬉しいけど、ちょっと申し訳ない気持ちもあった。 でもご主人が用意してくれるポケモンフーズは本っ当に美味しいから、、、案の定その日の夕食はペロリと平らげてしまった。 ぽってりしたペンドラーのお腹は、食後にまた一回り膨らんでいた。 しかし、ペンドラーは重大なミスを犯していた。沢山ごはんを食べれば、それだけ代謝や循環が活発になり、より多くの“毒”が生成される。 そしてそれを無理に溜め込むペンドラーは、過剰な栄養とエネルギーがプラスされたぷんたぷんのお腹になっていったのである。 数ヵ月後ーーーーとうとう“我慢”し続けた無理がたたってしまう。 ポケモンセンター、重症患者室のひと部屋。 「クゥ、キュウ・・・・。」 呼吸も荒く、ペンドラーは苦しんでいた。今では不自然なほど、明らかに肥満か膨張と見て取れる巨大な風船腹となっており、激しい呼吸と同時にたゆんたゆんと揺れる程だった。 体内での循環を無理やり止めたり、変えたりしたせいでペンドラーの体内では毒素の不純物や栄養が全て腹に溜め込まれて体全体をパツパツにするほどにまでなっていた。 かなり熱もあり、人間なら39度後半の高熱に近い重症だ。 「ペンドラー、しっかりしてペンドラー・・・!」 トレーナーは呼びかけることしか出来ない悔しさで、泣きたかったが、それだけが今の自分に出来ることだから、と声を枯らしてでも呼び続けた。 「ジョーイさん、ペンドラー・・・・、大丈夫ですよね・・・。」 しかし、女医の表情はあまり楽観視出来ないことを物語っていた。 「非常に、苦しそうな状態です。この症状は、“もうどく”以上だわ・・・毒タイプのポケモンは、本来中和するはずなのに。 こんな事例、今までにもありません。毒消しを与えているけど、少しの軽減にしかなっていないようなの。」 「そんな・・!」 「この子は、自分で作り出した“毒”を体外に分泌する機能が著しく低いか、抑えているのかもしれない。 いくら毒に耐性のある子でも、長い期間蓄積し続けた猛毒は体に害があるはず・・・。」 「どうすればいいんですか?私、なんでもやりますから・・・だから、お願いしますペンドラーを助けてあげてっ!」 ご主人が自分の為に泣いてくれている。その姿が見れただけでも、ペンドラーの気持ちは少し楽になった。 結局また迷惑をかけてしまっている・・・けど、その優しさが身に染みてとても嬉しかった。 「クォオン・・・。」 小さく弱々しい声で、ペンドラーが大丈夫だよ、と伝えているみたいに体を起こして鳴いた。 だが、酷く重症の為にすぐに倒れこんでしまう。 [ゴポ、ゴポポ・・・。] と、水が流れるような音がペンドラーのお腹から聞こえ、それと同時に更に腹部がぷくぅっと大きくなった。 ペンドラーは苦しくなり、更に呼吸が乱れて汗も尋常ではない。 「・・・いけない、体調が悪化したせいで、体内の毒の生成バランスがおかしくなっているんだわ。 このままだと、今以上にお腹が膨張してどんどん苦しくなるかもしれない・・・・けど、毒消しや万能薬みたいな“薬”は大量に摂取しても悪影響になるわ。 少しの量だと、体内の毒を完全に浄化するほどの効果は無いでしょうし;」 その言葉を聞いて、トウコはある事を思い出していた。 「(そういえば、この子・・・)」 そうだ、いつもこっそりおやつを食べているだけだと思っていた。でも、いつもペンドラーが食べているのはモモンの実ばかりだった。 どうして気付かなかったんだろう。昔から、ずっとこの子は・・・ 「ジョーイさん、薬は駄目でも、モモンの実だったら大丈夫ですよね?!」 「え?えぇ・・・。けど、あれは自然物で毒を打ち消す成分は微々たる物なの。 この子に必要な量を集めるのは、とてもじゃないけどーーー」 「でも、可能性はゼロじゃありませんよね?!」 ジョーイの静止も聞かず、気がつけばトウコはポケモンセンターの廊下を抜け走り出していた。 待っていてペンドラー、すぐに元気を取り戻してあげるからーーー! 街に出て、市場を巡った。だが、今の時期はそれほど出回っておらず、倉庫にもほとんど無い状態だった。 2時間以上走り回って、民家からもなんとか頑張ってかき集めたけど、僅か10個のみ・・・ 「こんなんじゃ、ぜんぜん足りないーー。」 それでも無いよりはマシとポケモンセンターへ走って、ペンドラーの元に届けた。 「・・・ク・・・キュウ・・。」 普段は、大きい声で野生のポケモンが驚くぐらいなのに、今は弱ってこんなにも力無い声しか出せていない。 「はい、ペンドラー、これ食べて・・・。」 食欲は無いのだろう、1つ食べるだけでもかなりの時間を要してしまう。 栄養ドリンクや病弱時に与えるポケモンフーズも食べたりしているが、体力は減る一方みたいだった。 2時間も立つと、ペンドラーのお腹はまたまた大きくでっぷりと太っていた。 「熱がちっとも下がらない・・・待ってて、冷やしたタオルと氷枕持ってくるから!」 ジョーイとタブンネも看病しているが、トウコも必死になってペンドラーが少しでも楽になるよう頑張った。 何度もタオルを交換して、水に濡らしてからきつく絞る。 頭に氷を入れた水枕を載せ、タオルで体の汗を拭いてあげる。山なりになっているお腹を撫でてあげると、少し安心したように呼吸が落ち着いた。 やはり、一番つらいのはこの巨大になったお腹なのだろう。 体調悪化の寒さで震えてたので薄い毛布をかぶせるが、胴体部分がかなりの膨らみを持ってしまっている。 症状は依然として改善されないーーー 「ペンドラー・・・」 こうして、相手の事を想っていると思い出が蘇ってくる。 不機嫌な野生のポケモンに襲われた時、真っ先に先頭に立って立ちふさがってくれた。 足を滑らせて川に落ちそうになった時も、服を引っ張って助けてくれた。 絶対に負けられないジム戦、体力が限界に近いのに耐え抜いてくれたーーーー いつも、私の事を守っていてくれた。 私も、恩を返さないと・・・ううん、きっと恩返しとか、そういうのじゃない。パートナーなんだから、困った時は助け合うのが当たり前なんだ。 「まだ、諦めるのは早いよね・・・。」 「ジョーイさん、私・・・もう一度行ってきます。この子の事、お願いします!!」 そして、パソコンに向かうと、ボックスの確認をして、素早い手つきでボールの転送を開始した。 次々と転送されてくるモンスターボール。その中の一つ一つに、仲間が入っている。 「よし、これで全員ね・・・。」 大量のボールをリュックに入れ、街の外へと走る。 そして全てのボールを宙に投げると、今までの旅で出会った仲間みんなを外に出した。 大小さまざま、個性豊かなポケモン達が姿を現した。 通りかかった人が見かけたら何か大抗争でも起こるのか?!と警察に連絡したくなるような光景であった。 「みんな、お願いがあるの・・・・ペンドラーが今、とても苦しんでて、なんとかして助けてあげたいって思ってる。 でも、私だけの力じゃきっと助けられないーーーだから、みんな手伝って欲しいの・・・お願い!!」 精一杯叫んで、”仲間”に協力を求めた。 ≪ギャオオォォン!!≫ 一斉にポケモン達は吼えて、森中に声を轟かせた。そして、一同揃って首を縦に振り頷いた。 「ありがとう、、、みんな・・・・!!」 みんなに大量のモモンの実が必要であることを伝え、そして散会ーーー。 トウコも森の中を走り回った。 広い森の中、モモンの実はなかなか見つからないーーーオボンの実やオレンの実も集めるが、多少の体力回復では解決しないだろう。 「はぁ、はぁっ・・・見つからない・・・!」 まだ、8個しか手に入れていない。探し始めてから、もう数時間経過しているのにーーー早くしないと、ペンドラーはもっと悪化しているはず。 焦る気持ちとは裏腹に、モモンの実は見つからない。 腕の Cギアを見ると、集合の時間だ。 トボトボと気力なく歩きながら、集合地点にトウコが向かうとーーー信じられない光景があった。 ≪ギャオゥ!!≫ 早く早く、と急かすようにポケモン達が鳴いていた。そして、彼らの持ち物に大量のモモンの実があった。 その合計数は、少なく見積もっても100個を軽く超えている。 「みんなっ・・・!」 仲間の力と、絆を見て、トウコは嬉しくて泣きたい気持ちになった。けど、今は干渉に浸っている場合じゃない。 一刻も早くペンドラーの元へ行かなければ。 トウコはランニングシューズの限界を超える速さで走り続けた。 ーーーー ドドドドド・・・・・・!! 「ん、地震か?なんか変わった揺れだが・・・」 「向こうの地方にいるグラードンとかいうポケモンが寝返りでもうってるんじゃないか?」 なんて街の人たちが笑って、ただならぬ気配を感じ後ろを振り向くと・・・ 「お、おいなんだあれ・・・・ ーーーうわぁあ?!」 【ズドドドドッ!!】 津波のように大量のポケモンたちが地鳴らししながら爆走してきた。 トウコと、その仲間たちである。彼女らは驚く市民たちに脇目も振らず一直線にポケモンセンターの中へと入っていった。 集中治療室には全員は入れないので、トウコは数百個のモモンの実を数匹のポケモンと持って、共に入室した。 「ジョーイさん、これ・・・!」 「!! それだけの量があれば、完全に毒を中和出来るはずです。 ペンドラーの容態は悪化しています、急ぎましょう!」 「はい!!」 ペンドラーの元へ駆け寄ってみると、更に顔色は悪く、お腹は益々膨れて呼吸するのも辛そうに喘いでいた。 「待ってて、すぐに助けるから・・・ペンドラー、これ食べて。」 「・・・・。」 食べる気力が無いのだろう、ほんの少し口を近づけたがペンドラーはモモンの実を食べてくれない。 トウコはすぐさま休憩室とミキサーを借りて、モモンの実のジュースを作り始めた。 「・・・よし、出来た。」 一杯目が出来るとすぐさまペンドラーの元へ。液状にしたおかげで、なんとか飲んでくれた。 再びジュースを作りに行き、何往復もしてペンドラーに飲ませてあげた。 ジョーイやラッキーも栄養剤を飲ませたり、タオルを取り替えたりと忙しく世話をし続けた。 けど、パンパンに膨れ上がったペンドラーに何度もジュースを飲ませるのはなかなか大変である。 バイキングで3日間食べ続けた者に、更に追い討ちで飲み物を与えるようなものだ。 押さえ込む体力の無いペンドラーの為に、柔らかいシーツをピンと張ってお腹に被せ、ベッドの下で結び少しでも楽をさせる。 何杯も、何十杯も大量のモモンジュースを飲ませる必要があり、ペンドラーはビア樽よりも丸々と太った胴体になり、シーツもビリビリと破けてしまう。その都度、新しいシーツをかぶせてやり、声をかけながら、必死に看病を続けた。 「頑張って、ペンドラー・・・・頑張って・・・!!」 この子は、優しいから、ずっと我慢し続けたのだろう。 昔、私がミスをして、毒で倒れてしまった時の事を、この子はずっと悔やんでいたのだ。 むく、むくとお腹は更に大きさを増していく。それは非常に苦しいだろうが、次第に熱は下がってきていた。 すでに真夜中を過ぎているが、トウコは休まずにジュースを作り続け、ペンドラーに飲ませ続けた。 「キュウ・・・(クピ、クピ)」 ペンドラーも、苦しい中頑張ってジュースを飲み続けた。 あれだけあったモモンの実も、残るところ僅かになっている。 ジュースにする時、実だけではなく水や砂糖類、その他様々な物も混ぜなければならず、実際のモモンの数以上にペンドラーは摂取した事になる。 そのせいで、山のように大きなお腹が形成され、そのボリュームはカビゴンすら圧倒している。 一日中走り回り、すっかり体力の無くなったトウコは、最後のジュースをペンドラーに飲ませると、無事を祈りながらそのまま眠りについた・・・ ーーーー クルル、クルルっと、外のマメパトが鳴く声でトウコは目を覚ました。 「ん・・・朝ーーー?」 カーテンの隙間からは、光が漏れていた。いつの間に眠ってしまっていたんだろう。 そうだ、ペンドラーは・・・?! 「キュルルル・・・。」 ベッドに寝たままで、かなり大きく太ってしまったペンドラーは、こちらを見て元気そうに鳴いてくれた。 もう、顔色はすっかりよくなっている。 「ーーーよかった、ペンドラー!!!」 「!!///」 トウコは嬉しさのあまり思わず、大玉転がしに使うボールみたいな、満月みたいな、特大のぽってりしたお腹にむぎゅううっと力の限り抱きついた。 ペンドラーはちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうな顔で、もう一度鳴こうとして・・・ ーーーーーミシ、ミシッ・・・ギシィ!! と、なんか不吉な音が聞こえて、あ、これは、もしかして、あれかな。とお互いに思った。 【ズドーーーン!!】 と騒々しい音を立てて、ペンドラーの寝ていたベッドは足が折れ、中心部が窪み、完全に“陥没”した。 「いたたた。ゴメンゴメン。でも、大型ポケモン用のベッドがまさか壊れちゃうなんて・・・・」 改めてパートナーの姿を見る。すっごく丸々としてて、なんか、可愛いというか・・・ 「ぷっ・・・・アハハハ!」 安堵とか、ペンドラーの姿とか、色んな気持ちが混じりあって、彼女は大きな声で笑った。 ペンドラーは益々恥ずかしくなって、顔を真っ赤にして、小さく鳴いた。 「・・・・・キュウ。」 〜エピローグ〜 「ふ、この道を通るなら俺様を倒してから行くんだな!」 空手でもしているのか、武道着を着た男が、目の前に立ちふさがった。 トレーナーの目と目があってしまったら、それはバトルの合図。 急いでるんだけどなぁ・・・と思いつつも、バトルはいつも胸がワクワクする。それに、ペンドラーの“ダイエット”にもちょうどいい。 「OK!バトルしましょ。いって、ペンドラー!!」 『キュォオン!!!』 ズッシィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!! けたたましい音を立てて着地する、巨大なポケモン。本来は長いはずの体は、全体的に丸くなりすぎて逆に短く見える。 だが、通常固体よりも”凄まじく巨大なペンドラー”だった。・・・太りすぎてる、ともいえる。 「な、なんだそいつは?!え、ええぃ、行けダゲキ、そいつの腹に思い切り強烈な一撃をぶち込んでやれ!!」 「ッ!!」 相手トレーナーが出した、柔道家みたいな姿をしたポケモンのダゲキは、素早いフットワークでペンドラーに近づこうとしてーー。 「遅いよっ、ペンドラー、ハードローラーッ!!」 ペンドラーはその巨体で、信じられない速度で転がる。 相手のポケモンは、目の前に広がる、視界を埋め尽くすほどの“巨大な腹”を最後に見て、押しつぶされ、一撃でノックアウトされた。 「う、嘘だろ?!くっ・・・!」 再び出してきた格闘タイプのポケモン。だが、“むし/どく”タイプのペンドラーに格闘技は1/4しか効果が無い。 そして、“このペンドラー”は正面からの普通の打撃攻撃は完全に受け付けない。ーーー理由は推して知るべし。 結局、ペンドラー1匹で相手を封殺。 「やったね、ペンドラー!」 小さい足?はあるが手らしき部分は無いので、ぽにょんっとお腹にハイタッチ。 まだまだ柔らかく太ったままだ。 あれ以来、ジョーイさんから言われて定期的にたっくさんモモンの実を与えるようになった。 毒を薄める効果もあるが、あれは(果物)なので、なかなかどうして、ペンドラーは益々太ってしまう。 なので、今は一緒に協力してダイエット中。ペンドラーは愛想を尽かされないよう頑張り続けていた。 「でも、これはこれで可愛いけどね。」 ちょっと(かなり?)見た目やシルエットは変わっても、進化すればポケモンの見た目は大きく変わるのだ。 太ったぐらいで、この絆は変わらない。 「よし、次のジムも頑張ろうペンドラー!!」 《これからも、ずっとご主人の隣を歩き続けよう。》   ペンドラーは今一度固く、てっぺきのような信念で心に刻み込んだ。 直後、《グーー》とお腹が鳴いてしまったので、ちょっぴり綺麗に決まらなかったけど。   お し ま い