. 「満腹王」 ガトル王:ある悩みを持った鰐人の王 カイルフ:狼人の青年 ※太膨ネタにつき注意※ ////////////// とある国に、ごうかな衣装を身に纏ったワニのおうさまがいました。 そのワニのおうさまは、前国王と王妃・・・つまり両親に、目に入れても痛くないほど溺愛され 贅沢三昧の暮らしをしました しかし、十分な愛情を受けたおかげでわがままに育つことはなく 王として国を治めるときになると、立派にその役目をはたします ですがそんな王様も、ひとつだけ問題を抱えていました −−−−−−−−−−−− 「ガトル王、食事の準備が整いました。」 「うむ、そうかわかった」 ワニのおうさまは、玉座から立ち上がるとゆっくりと兵士の後をついていきます 一歩あるくたびにズシン、また一歩進むたびにドシンと足音が鳴ります 体の大きなガトル王は、体長が大きいのはもちろんのこと、体重も城の中で一番あったのです。 3メートル近い身長は他の者を圧倒し、体重は平均の3倍近くありあます。 お腹は、毎年大きくなり狭い通路では挟まってしまうのでは、と噂されるほど。 重い体に苦労しながらもやっとの思いで広い食堂へたどり着きました 椅子に座ると当然のことながら背もたれが軋み、音を立てます。 「王様、“今回の”食事はこちらとなっております」 「ふむ。」 会議室の長テーブルよりも広く幅のある食卓の上にズラリと並ぶ豪華な料理の数々。 家来にエプロンをつけてもらい、ナイフとフォークを握ります。 いきなり手をつけたのは、分厚い肉のステーキ。大口を開けると、それを簡単に頬張りました 続いて、濃厚な味付けのパスタ、再び肉類のハンバーグ。 フカヒレに北京ダックと、庶民が惜しむような料理も容赦なく食べ終え 空になった食器は待機していた者たちが順番に片付けていきます。 元から丸く膨れていたお腹は、徐々にその丸みを増して 「げふぅーーーーーーー・・・・。」 すべての料理を胃袋に収めた時には、パンパンになっていました。 しかし好きなだけ料理を食べた王の表情は、少しも安らいでいません。 「その、ガトル王。今回も満足はしていただけませんか・・・・?」 少し残念そうな面持ちで、家来たちが王に尋ねます 「。。。。。。ああ、駄目だ;」 自身の丸いお腹を弧を描くようにして撫でながら、王様は焦点を合わせずに遠くへ目を向けました 王の悩み。 それはどれだけの量食べようが、どれほど美味しい物だろうが 食事をして、[本当に満足した]ということが一度もないのだ。 他のものが当然のように感じる満腹感がわからない。 腹は膨れ満たされているのに、王の心はまったく満たされることはなかった。 それからも毎日何度も何度も食事を繰り返す日々 本来なら太りすぎてまともに動くことすら出来なくなっていたかもしれないが 幸か不幸か王は太りにくい体質であった。 とはいえ立派な太鼓腹はいまだに大きくなり続けている このままでは、いずれ更に体重が増え太りすぎて病気になって命を落としてしまうかもしれない それは民も、城に仕える者たちも望んでいなかった。 そこで以下のような案が街に出されました 〜ガトル王を、食事で満足させたものには望む品を与える  希望者に与えられた1週間、自由な料理を出すことが可能  奮って参加されたし 〜 王の悩みは国民もわかっていたので、なんとかしたいと多くの参加者が城を訪れた ////////////// 1つめのチームは、王が味に満足していないのではないか そう考えた 「王様、街から選りすぐりのシェフが揃いました。これらの料理をお食べください」 そしてガトル王の前には沢山の料理が並べられた。 いずれも、工夫がこなされ一般人が食べたなら感動するほどに完成された料理の数々。 ガトル「では、さっそく頂くとしよう」 ナイフとフォークを器用に使い、まずはステーキを一切れ口に入れる。 ガトル「ほう、、、、これは確かに悪くない。」 もぐもぐ、もぐもぐ、むしゃむしゃ 一流のシェフたちは厨房に篭りきって料理を作っていく。 むしゃむしゃ、がつがつ、がつがつ 一日目、二日目、三日目、 王は休むことなく食べ続けています。 ですが、どんな自信作がきても王は笑顔を見せることはなく黙々と食べました そして一週間 ガトル「げふ、馳走になった。だが、、、人々が言う満腹感を得ることは出来なかったか。」 大きなお腹をさすりながら王はため息をつく。 その言葉に、周囲は落胆した。 2つめのチームの挑戦が始まった。 彼らは、王はきっと食材に満足できていないのだ、、、、そう考えました そして苦労して集めた貴重な食材は、高級なものから珍味までなんでも揃えました。 毎日、何種類もの珍しい料理が王の元へ次から次へと運ばれます ガトル「ふぅ、ふぅ、、(もぐもぐ)、、、、うっぷ。」 胃袋は満たされているのに、王は満足することが出来ません。 それでもめげずに新たな食材を持ってきては、王に料理を与えます ですが、1週間経っても王は一度も満足せずに彼らの挑戦も終わりました。 ////// 「ガトル王、また太ってきたなぁ、、、、。」 「2週間で随分と増えてしまったようだ。」 兵たちが心配するのも無理はありません。 ワニの王様は、胴も一回り大きくなって歩く速度もどんどん遅くなっていました。 この案は一種の賭けなのです。 もし一度も王を満足させずに終われば、加速的に王を太らせるだけにとどまってしまいます。 3回目の挑戦者は、王は大勢で食べる喜びを知らないからだと言いました そして、大広間で沢山の人々と一緒に歓談しながら料理を食べさせました。 王は話をしている最中、確かに楽しかったのですが食事に満足したわけではなく、 やはり失敗に終わりました。 それから多くの者達が王を満足させようと奮闘しますが、健闘むなしく ガトル王の体重は、徐々にだが更に増えていきました 巨大な玉座はギリギリで、座りっぱなしの状態が長くなっています。 /////// 8回目の挑戦者は、王が満足するには実は途方もない量が必要なのではないかと考えました 多くの者も、それに共感し支持しました。 いろいろ話し合われた結論として、最高級の食材で、至高の極めた味、そして量。 これらを組み合わせ、王に食べてもらう事になった 「ガトル王、一度いつもの限界以上までお食べになってください。 そうすればきっと満腹感を味わうことが出来ると思うのです」 「うむ、そうか、、、、、わかった試してみるが良い」 一日目、そして二日目はガトル王にとにかく料理を食べさせました 王は巨大な体をしていましたが、お腹はパンパンに張り詰め風船のようです もともと妊婦以上にお腹が大きく出たシルエットをした王は、より丸々としました 「ぐふっ、苦しいが、、、この苦しみを越えた先に、人々のいう満腹感があるというなら、、、」 三日目、王はがむしゃらに食べ続けます。 何キロもある肉類や、並々と盛られたスープ、ジャムやバターの塗られたパンは山ほど積みあがっています ムシャ ムシャ  がつ がつ 「はぁ、はぁ、、、、」 モグ モグ くちゃくちゃ ゴクゴク  ごくん 「んっく、ふぅ、くるしい、、、ぅう、う」 4日目にはとうとう椅子の背もたれが壊れ 仰向けに倒れこんでしまいました。 以前にも増してパンッパンに膨らんだお腹はウェスト何メートルあるかわかったものではありません 起き上がる体力のない王に、侍女や兵たちが直接口へ料理を運んであげます とっくの昔に限界まで食べた王は、吐き出しそうになりましたが 自分のためを思って頑張る人々に報いようと、我慢しました。 「王様、お次はフォアグラを使った料理で−−−」 「王様、これは海鮮類を盛り込んだ。。。。」 「王様、トロピカルフルーツを使ったお飲み物です。」 王様、王様、、、、 王が止めないので、休むことなく料理は口の中へ押し込まれるように入れられます 「げぇふ、、、うぅ、ぐぉおおぷ、、、は、はぁ、はぁっ!」 膨らむ腹で服は破け、その都度新しい衣装を着せられます。 そして再び1週間が経過し、、、 ガトル「はぁー、はぁー、、、げぇっぷ、、、(これだけ食べても、私は満足する事が出来ないのか、、、) ん、ん、、、ぐふ、、!」 視界には自分の大きく膨らんだお腹が見えます。 ガトル「すま、ないが、、、、ふぅ、ふぅ、誰か、腹を撫でてくれないか、、、どうにも苦しいのだ、、」 その言葉に数名が王の大きな胴体を優しく撫でてあげました。 「ん・・・?」 そしてある事に気づきます。 ぷにぷにで柔らかい所は変わっていませんが、 太っているにも関わらず押すとゴムボールのように強い弾力もあります 流石に詰め込みすぎではないか、、、、と心配した兵が医師を呼ぶと 医師は慌てて王様のお腹の張り具合やウェストの増加率を調べます。 案の定、これ以上は危険だと止められてしまいました。 ////// 結局、王は満腹と感じることは出来ない体なのではないか そのように皆かんがえ、王も諦め始めました。 挑戦する者も現れず、王の体重を倍ほどに膨れ上がらせただけで終わると思われました 「ぜぇ、ぜぇ、、、、」 ガトル王はベッドに寝たまま、荒く呼吸しています 呼吸のたびに大きく腹部が盛り上がったり、縮んだり。 (昔から丸々と太ってはいたものの、、、そのうち膨らみ続けた腹が天井まで届くかもしれんな) 自虐的な考えで笑っては見たものの、空しさが残ります。 一度は他の者たちのように、食事をして満足してみたかった・・・。 ぽろり、と一粒だけ涙が零れました。 誰も彼も諦めていた時、城に一人のカイルフという名の若い狼人が訪れました カイルフ「もしかしたら、王様を満足させることが出来るかもしれません。」 その言葉を誰も信じませんでした。 どうせ無駄だが、やってみてくれ 「私の料理は、準備に時間がかかります。長い間、王と部屋で一緒に居させてもらえますか?」 おそらく最後であろう挑戦者に 誰も期待せず、任せることにしました。 一日目 王「おぬしが、次に来た者か。 、、、どうせ無駄だと思うゆえ、頑張る必要は無いぞ。」 王のお腹は前回の挑戦の直後から巨大に膨れ上がったままです。 「はい、ですが試させてください。もしかしたら、、、ということもあります。 準備しておきますね」 その日、狼は王に水を与え、お腹を撫でたりマッサージをするだけで厨房に向かいませんでした。 二日目 「準備に時間がかかるといっていたな?どれほどの料理だというのだ」 「それは出来てからのお楽しみです。」 しかし、狼は差し入れ程度の食べ物と水を王に飲ませてやるだけで一向に準備しませんでした。 三日目も四日目も、そうでした 途中でお腹を押したり、耳を当てて何かを聞いていました 王「まだ料理は出来ないのか、、、もう半分も期間は無いぞ」 「ええ、大丈夫です。下準備は順調ですから。」 六日目の夜 ぐぅぐぅと、五月蝿いくらいの音がガトル王のお腹から響き始めました。 「はぁ、はぁ、、、おぬし、本当に料理の準備は出来ているのであろうな!?」 狼はまだ厨房へ行きませんでした。 王の膨らみきったお腹は、見事な曲線を描いていましたが 少しだけ小さくなっていました。 そして、七日目にしてとうとう狼が厨房へ向かいました トントン、と包丁の音やぐつぐつと何かを煮る音が聞こえます。 ガトル王「まだか、まだなのか、、、、? 、まったく私をこれだけ待たせておいて、さぞ豪勢で旨く大量の料理なのであろうな。」 いい匂いが鼻に届くたび、王様のお腹は更にぐーぐー鳴り出します。 そして、2時間ほどして王様の部屋に料理が運ばれてきました。 王「、、、なんだ、これは?」 それは一般家庭にあるような地味な料理ばかり。 拘った飾りつけもされず、量も昔の王様が食べていたくらい(それでも普通の者が食べれば腹がパンクしてしまうぐらい多い) ならば味がきっと凄いのだろう、と王は無理やり起き上がって手をつけはじめました。 太りすぎで、まん丸なお腹は床につくし足はがに股のように開く羽目になるので苦戦しましたが ようやく王はテーブルの前に到着しました。 とはいえ、腹が邪魔して届かないのでカイルフが補助してあげました。 スープを飲み、スパゲティを食べ、サラダを食べ、、、、、 「、、、どれも、普通だ、な。。。。」 もぐ、もぐもぐ 期待はずれの料理に、王は少しガッカリしました。 でも不思議なことに、もっと食べたいと思うのです (美味しい、、、、) もっと旨い食べ物をいくらでも食べたことがあるというのに、 この平凡で地味な品々がじっくりと味わいたいと思うくらいに美味に感じられた 食べたものがお腹に溜まっていく度、満たされていくのがわかります 長い時間をかけて、ようやく王様は狼の作った料理を食べ終わりました カイルフ「いかがですか、王様。」 暫く目を瞑り、黙っていたガトル王はやがて口を開きました。 「そうか、この気持ち、この感覚が。 満腹感なのか。言葉では言い表せない、この心地よさが、、、、」 「そうです、その感覚が私たちが普段感じていたものです。 食事をする喜びの一つ、必要以上に食べてしまう原因の一つでもありますね。」 「しかし、何故だ? なぜお前が作った料理は私を満足させることができたのだ。 特別な調味料か?それとも味付けを工夫したのか?それとも」 「いいえ、この料理は誰でも作ることが出来るものです。 ガトル王は待っている間、不思議な感覚がありませんでしたか?」 「言われてみれば確かに、、、。 気が短くなり、待つ時間が長く感じられた。なぜか、早く食べたいと思う気持ちが生まれたな」 カイルフ「そうです、、、、、王様、貴方さまは生まれたときから沢山の愛情と同時に多すぎる食料を与えられましたよね。 そのせいで物心ついた頃から、常に王様のお腹は満たされ続けていました。 ワニ族は本来、他のものより腹持ちが良く、殆ど食べなくてよい種族です。 ですから一度寝て起きる時までに大量の食料を消化せず、ずっと満腹状態でした。 、、、、本当は満腹感を感じないのではなく、空腹感の方を知らなかったのです。」 普通ならそんなこと考えられないから仕方ないとはいえ、 さすがに、それは盲点でした。 狼の発想の転換により、王は初めて食事による満腹感を得ることが出来たのです。 「・・・・・・なんと、そうであったのか。」 王は自分の丸く膨れたお腹を改めて見つめた。 食後パンパンに張っているはずの胴体も、今は腹一杯の状態で満足できている。 「ありがとう、礼を言うぞ。 お前のおかげで、わたしは寿命が延びただろう。・・・どんな願いでも叶えられるものは叶えよう。 何を望む?土地か、名誉か、財宝か? いくら感謝しても し尽くせんが 出来るだけの礼はさせてくれ。」 「ではお言葉に甘えて。 私の願いは、ガトル王がこのままも変わらず良き政治をして、 人々に安定した暮らしをもたらして下されば ・・・それだけで十分なのです。」 「なんと欲の無い男だ。ますます気に入った。 しかし、それでは私の気が済まんな・・・・うーむむ。」 暫く考え込んでいたガトル王は閃くと、ポンと手を打つように腹鼓をし、いいました。 「では、こうするか。いわれたとおり、私はしっかりとこの国を治めよう。 それと、おぬしにはこの城の出入りを自由とし、施設も自由に使ってよいことにする。」 「感謝致します。しかし、私は今の生活になんの不自由もございませんが、、、」 「う、む、、、そうか。 本音を言うとだな、おまえにはたまに城に遊びに来てほしい。 知ってのとおり私は浮世離れをしている。他にも多くの“当然のこと”を知らないと思うのだ。 それを普通の民であるお前に教えて欲しい。 そして、その時は、、、私を王としてではなく、一匹のワニとして接してくれないか?」 それは逆にガトル王から狼への願いでした。 王は多くの者に慕われるが、友と呼べるような存在が無く寂しかったのでしょう。 狼は快くその願いを承諾しました。   それから一年後 必要以上に食べる事の無くなったガトル王は徐々に体重が落ち着いてきました。 ですが、食事の喜びをしった事もあり結局食べ過ぎる時も多く、なかなか痩せる事が出来ませんでした。 ガトル「げぷっ、さすがに食べ過ぎてしまったな。しかし太りにくい体質なのはうれしいが、痩せにくい体でもあるとは知らなかった。 それにしてもカイルフ、おぬしはいつまでも痩身で羨ましい限りだ。」 「はは、健康に気をつけていますからね。 私はそれだけ大きな体で、健康なガトル王のほうが羨ましいですよ」 王の満月のようなお腹を撫で、狼のカイルフは笑った。 最初は遠慮がちだった彼らも、今では大分打ち解けて気軽に名前を呼び合っている。 「ははは、こんな体が羨ましいとは、笑わせてくれる。歩くだけで苦労するというのに、、、まったく人の気も知らず。 そういえば、お前のところは子供が生まれたそうだな?奥方も美人であったし。 ふぅ、私も早く身を固めたいものだが・・・」 「王は人柄は最高なのですが。 縁談でお会いになる方々は、まず体の大きさに驚かれますからね」 「ふ。体が、ではなく 腹がでかい と言いたいのであろう」 「ご自覚があるのなら、ダイエットがんばりましょう、王様」 「・・・・・・・・うむ」 あまり乗り気ではないワニの王様を見て、狼はまた笑った。 むすっとしていた王も、そのうち笑顔になり。 ////////////// ガトル王は、満腹感を得ると共に、友と居る満足感を手に入れ 安らかな心で、国を統治し続けました。 その国はどこよりも栄え、平和な日々が続いたそうな おしまい