キャラクター [☆印はメイン。体型的な意味でry] ☆べスティード 雄黒竜(ドラゴン)/もともとかなり太めだった魔王。 ・スラちゃん 性別不詳 /スライム。溺愛され、太りすぎた巨大スライム ☆レオヴ   雄緑竜 /魔王の側近。実は食い意地が張っている ・フェルマ  雌青竜 /魔王の側近。冷静沈着だが、怒らせると怖い。 ・ドウトン 雄タヌキ(獣人)/敵対するパーティーの忍者。自分の体型はコンプレックスだが、他人の腹は好き ・カルパ  小亀/医師であり、博士でもある(都合の良い)知能の高いモンスター *********** 5.変化する体 魔王が倒れる、という自体を城内の誰も見た事は無かった。 絶大な魔力を持ち、何よりも屈強な体の竜を倒せる存在などいる筈が無かったからだ。 現に、今までも魔王が怪我をしたという話は聞いたことが無い。 それにも関わらず、今、竜魔王ベスティードはまるで担架で運ばれる患者のように、 特別なベッドに寝かされたまま救護室へと向かっていた。 いったい竜魔王に何があったのか。 レオヴは急ぎ魔王が運ばれた部屋へ向かった。 重たい体のせいでドスドスと廊下に音が響き、腹も大きく揺れる。 部屋へ向かう途中に慌ててしまい何度も転んだせいで、救護室へ到着するまで報告を受けてから10分以上時間がかかってしまった。 「ベスティード様っ!」 手と腹が同時に扉を押し開け、レオヴは無残に倒れている竜魔王の姿を眼にして愕然とする。 ゼェゼェと息を切らし、重度の病に苦しむようにベスティードが呼吸を乱し、冷や汗を流していた。 目立った外傷は無い。 そもそも傷を付けられることが無いから、当然なのだが。 そんな魔王を、城の名医師(リスやトラ、はたまたロボットによく似たモンスター)たちが冷えたタオルで大粒の汗を拭いたり容体を調べていた。 しかし、なにせ何倍も体格差があるので、複数が対応しないと汗を拭くだけでも精一杯だ。 「レオヴ、遅かったわね。」 一足先に来ていたフェルマは邪魔にならぬよう、部屋の隅でその様子をジッと見ていた。 「はぁ、はぁ・・・・それで竜魔王様の容態は?」 「まだ詳しい事はわかってないわ。 外傷は無し、毒が効くはずも無い。 魔術や呪いの類は全て術者に返す。 そんな魔王様を苦しめるなんて・・・異例の事態ね。」 「そんな馬鹿な、、、」 しかし、レオヴにも原因は全くわからない。 名医達ですら原因がわからないのに、自分に思いつくはずも無いのだが。 「ただ。。。」 「ただ?」 「体内に異常がありそうなのは、見当がついてわかっているわ。 特に胃・・・いえ、腹部かしら。見てて何か気づかない?」 言われて、レオヴはベスティードの方を再び向いた。 初めはわからなかったが、よく見ると城を出発する前と違う点があった。 「(胴体が、一回り大きくなっている?)」 気のせいと思ったが、そうではない。 記憶にある竜魔王様より、明らかに胴回りが太くなっていたのだ。 「気づいた? 今も城に運ばれた時より若干だけど大きくなってるみたい。」 「な、なんだって?!」 遠征時の短期間で、見た目が変わるほど太るはずがない。 今なお変化することが何よりおかしい。 続けてフエルマはこう説明を付け加えた。 「勇者たちとの戦闘を見ていた部下達との話によると、 魔王様は何か小さなカプセル・・・薬のような物を口に投げ込まれたみたいなの。 どんな異物も害を与えないから、気にしないでいいと誰もが思っていたわ。」 実質、勇者と魔王の戦闘は10分も経たずにすぐ終了した。 3ターンあったかどうか。勿論魔王の圧勝である。 勇者どもは村へ強制送還され、ベスティードも岐路につこうとしたのだが、数時間後に次第に容態が悪くなり、まともに歩くことすら出来なくなったのだという。 そして、現在は寝たきりの状態が続いている。 「ハァハァ、ハァハァ、うぅ、腹が・・・苦しい。グフ、、、」 その表情は、見ている側にとっても非常に辛かった。 しかし、多くの医師達が懸命に看護するが、結局原因がわからぬままその日を終えてしまった。 仮に特別な毒だとしても、竜魔王の生命力ならばきっと大丈夫に違いない。 初日に何もできなかったモンスター達は、そう信じて尊敬する魔王の回復を待った。 _________________ 「ん、いつの間にか眠っていたのか。」 二日目の朝、レオヴは魔王が看護を受けている部屋の廊下前で目を覚ました。 大勢がわらわらと部屋にいても、魔王様が回復するわけではないし邪魔にしかならないので退室していたのだ。 一日ゆっくり休み、魔王様の体調も良くなっただろう。 そう思い再びレオヴは様子を見に扉を開けた。 だが、相変わらず竜魔王は寝たきりの状態。 それだけではなく、昨日よりも症状が悪化しているようだった。 劇的に変化したわけではない。 だが、わずか一日で差がわかるほどに腹回りが大きくなっていたのはやはり異例の事態だ。 元々、立派な膨れた太鼓腹ではあったが、今では巨体と合わせて更に迫力のあるものとなっている。 「魔王様、朝食です。どうぞお召し上がりになってください・・・。」 見ると、給仕たちが朝御飯を食べさせている。 だが、なかなかベスティードは口を開かずに、隙間から少しずつ食べさせている様子が見えた。 これにも、レオヴや他のモンスター達も驚いた。 城内で1・2を争うほど食欲もあった魔王様が食欲がないなんて事は、余程具合が悪いのであろう。 本来10分で食べ終えるような料理も、30分以上時間をかけてようやく食べ終えたようだった。 「うぐっ、ぶふぅ、、、!ん〜・・・」 相変わらず、ベスティードは息苦しそうで、診ている者たちの不安も募っていった。 いてもたってもいられず、レオブは最も優秀な医師に話しかける。 小柄な1メートルほどの亀のようなモンスターだが、知識や診断力は抜群に優れている。 「まだ、原因はわからないのかカルパ?」 「ふぅむ、体内で悪さをしている何かがいるようなのだが。 しかしウィルスや病原菌がベスティード様の体内に長時間居るなど考えられんぞ・・・・」 胃カメラのような道具が無い世界、中の状況を詳しく知ることは出来なかった。 「特別強力な毒を盛られた可能性は?」 「可能性はゼロではないが、 elixir(エリクシル)よりあり得ん代物だな。 それよりも別の可能性が高い。 腹がパンパンに膨れているから、ガスが発生しているようじゃ。 が、それだけでなく実際に太ってもいるようだからなぁ」 どうやら、実際に魔王様は太っているらしい。しかし、詳しい事がさっぱりわからない。 「勇者どもに聞けば、一番早いんだが、、、すでにこの近くにはおらんしなぁ。」 カルパの、その言葉にレオヴはハッとした。 そう、連中に聞けば良いのだ! そして、レオヴは急ぎ「あの捕虜」のいる部屋へと走った。(ちなみに気分的には走ったつもりだが、今の太った 体ではほとんど歩く速度と同じである。) しかしその途中、フエルマと廊下で出会う。 すでに同じ考えに至っていたフエルマが、縄で縛られた例のタヌキ忍者(名前は”ドウトン”と言うらしい)を引き ずっている状態であった。 「おい!捕虜に対する扱いが酷いぞ!これだから野蛮なモンスターは!!」 「うるさいわねぇー、しっかり3食ご飯食べたうえ、ベッドでグースカ寝てたくせに偉そうな口利かないの。 あら、レオヴ起きたのね。」 「ああ。 それより、そいつは・・」 「ええ。こいつも、今回の勇者のパーティーだったから何か知ってるはずだと思って。」 当の本人はぶすっとした表情をしている。 職業も忍者であるようだし、簡単に情報を出すようには見えない。 「さて、あなたに聞きたいんだけど・・・ あなた達のPTと戦った竜魔王様の体が、何故か膨らんできてるのよ。」 「・・・ほう。 フン、だがお前らモンスターどもに話すことなんてあるものか。」 「お前、やっぱり知ってるのか!言え、魔王様に何を飲ませたんだ!?」 問い詰めようと近づくレオブを、フエルマがとめた。 「待って、とりあえず魔王様のいる場所に連れて行くわよ。」 そして、再びレオヴ達は魔王の居る部屋へと入った。 この時、ドウトンは竜魔王を見るのは初めてである。(レオヴを魔王と勘違いしたのも、その為。) このタヌキ、もといドウトンは巨大なお腹が大好きなのだが、それは自分のコンプレックスである太鼓腹と比較して 優越感を得るためである。 ニヤニヤと小馬鹿にしたように、竜魔王の体を見回していた。 丸々とした立派なお腹は特に注目し、次いで太い手足や尻尾も舐めまわすように見つめていく。 「くく、太った竜と聞いていたが、まさかここまでとは。実に良い腹をしてるじゃないか。」 「元から城一番の竜だったけど、あんた達が変な物を飲ませたせいで、余計にね。 それで、あんた達は結局何を飲ませたの。」 「さぁて、ね。 俺が仮に知っていて、敵であるお前たちに言うとでも?」 「ま、それは当然思ってないけど。それならそれで、こっちにも考えはあるわ。」 スッ、とフエルマが目を細めるとドウトンはまるで蛇に睨まれた蛙のように体が硬直する。、 「…あなた、自分の体型に劣等感を覚えているのよね。言う事を聞かなければ、その太鼓腹をもっと大きくさせ てやる、と言ったらどうする?」 その言葉に、一瞬ドウトンの表情が曇り言葉が詰まる。 だがすぐに落ち着いた余裕の態度に戻したのは、さすが忍者と言うべきか。 「・・・・・・ハッ、馬鹿らしい。そんな脅しに聞くもんか。」 ぷい、と顔を背けたのは動揺を見透かされたくなかったからだが、その態度でも十分効果的な脅しだとわかって しまう。 「なら試しておきましょうか。」 ニコリと笑顔になったフエルマだが、その顔は見る者に恐怖しか与えなかった。 ドズン!と、突然前脚でドウトンのお腹を鷲掴みにすると、そのまま床へと押し倒した。 ウェスト2メートル以上の狸腹だが、巨大なドラゴンでは片手で十分だった。 「ガハッ!?な、何しやがる・・・結局暴力で解決か? これだからモンスターってのは!」 強気の口調だが、全く抵抗できないまま床に押し付けられたままのドウトン。 「別に、乱暴な事は何もしないわ。 ただこれを飲んでもらおうと思って。」 先ほどと変わらぬ笑顔のまま、フエルマは部下に指示し、とある液体の入った小さな小瓶をドウトンの口元へ持 っていき無理やり飲ませた。 「んぐ・・・んぐ、、、ぷはっ! な、何を飲ませた!?」 毒にしては、やけに美味しいしノドごしも良かった。 しかし態度の悪い捕虜に親切心で飲ませる物が体に良いわけが無い。 「別に害があるものじゃないわ。普通のモンスターならね。 それは夏バテとか、食欲が無いときに飲む食欲増進の飲料。 即効性で、効き目も強いから大型のモンスター以外は50ミリ程度飲めば十分な代物。」 「はぁ!?」 先ほどの液体は、小瓶と飲んだ量から察するに500ミリは飲んだはず。 「もし、何も教えてくれないって言うなら、今日から貴方への食事すべてにこの薬を隠し味に入れてあ・げ・る♪」 飛びっきりの笑顔になったフエルマは、掴んだ狸腹を優しく揉みほぐしたり、ぐいぐいと円を描くように回し始めた 。 「ゥアッ///、な、なにをっ!!」 「そろそろお腹が空く頃じゃないかなぁ〜って思ってw」 そのマッサージは、とても気持ちが良く、とても凶暴なドラゴンがやっているとは思えないほどであった。 しかし、その刺激によって腹への意識がどんどんどんどん強まっていき、遂には腹の虫が鳴り出した。 (ぐぐぅ、ぐ〜〜) 「はぁー、はぁー…うっ、ふっ! (う、うそだろ・・・本当に腹が減ってきやがった!)」 (ぐきゅるるる・・・・・) まるで、3日以上食べていないかのような飢餓感。 だ、駄目だ。ここで腹が減った事が伝わったら、あいつの思うツボじゃないか! 「ふふ、お腹が空いてきたでしょうし。 料理も、持ってきて貰ったわ。」 ふわっと温かな料理の香りが鼻につく。 見ると、山盛りになったスパゲティや分厚いステーキなど、カロリーの高そうなものが大量に用意されているではないか。 それらを、一皿ずつ目の前に置かれていく。 先ほどよりも強く揉みほぐされるお腹が、もう我慢が出来ないとよりいっそう大きな音を立てて鳴り続ける。 「〜〜〜〜〜!!」 ダメだ。駄目だ。まだ耐えるんだ。こんな空腹感、少し我慢すればすぐに収まるさ。ヨダレが垂れてきたって?そりゃあそうさ、あのステーキやハンバーグの肉汁を見てみろ。溢れすぎてスープが飲めるんじゃないか。あれを食べて良いって事か?喉も渇いてきた。畜生、こんな風に見せ付けるなんて、あのドラゴン絶対にSだ。ドSだ。そのくせマッサージが気持ちよすぎて、うぅ、やばい、、、腹が、あぁ駄目だ、まだ駄目だ、駄目・・・ もう駄目だ。 「おっ、俺が悪かった!!すまない!喋るから、それを食わせてくれっ!いや、この際なんでもいい!食べ物を口にっ!飲み物でも良いですから!お願いしますぅううー!!」 涙目で訴えかけるドウトンを見て、ようやくフエルマは本当に笑顔を見せた。 「ふふふ、初めからそうすれば良かったのよ。 どうぞ好きなだけ食べてね。」 その様子を見ていたレ配下のモンスター達は、「彼女には逆らうまい」と思ったと言う。 「女って怖いな、スラちゃん。」「うにゅ〜。」 そう呟かずにはいられないレオヴであった。 ようやく鉤爪のついた手がどかされ、「待て」が解かれたドウトンは無我夢中になって料理を貪り始めた。 「ガツガツ、ふぁ、ふふぁい、ふぐっ、ムシャムシャ!ふふぁむぐ、もぐ、ふむぐっ・・・!!(訳:ああ旨いっ、美味すぎるだろっ。お前達いつもこんな美味いもん食ってるのか!?)」 後半は喋る気もうせて、食べる事に集中したドウトンはもう止まらない。 彼は、この時意外でもずーっと我慢をしていた。 太らないように、このお腹を成長させないように、なるべくカロリーの低い物を選んでいた。 パーティーでは、沢山食べたい欲求を抑え、影でこっそりおやつを食べて気を紛らわす日々。 だが、こってりと油の乗った肉や、調味料たっぷりの料理を口にし、彼の枷[かせ]が外れた。 食欲増進の薬、とは言ったが今回は実際の効果以上を発揮する事になった。 ドウトンはその後20分、ひたすらバクバクと食べ続け、やっと腹が満たされたかと思うと再び追加注文。ようやく満腹になり、我に返った頃にはもうその太鼓腹はこれでもか、というぐらいにパンパンに膨らんでいた。 「げふぅううう〜〜、あー美味かった・・・・ って、しまったΣ?!!」 「ふふ、短時間でなかなか立派になったじゃない。まさかここまで食べるとは思わなかったけど。 どう、太らない自信ある?」 食べ物で膨れたとはいえ、30センチ以上大きくなった自分のお腹を見て、ドウトンはガックリとうなだれて答えた。 「無理、、、です。 わかりました、話しましょう。」 いつの間にか敬語になりつつあるドウトン。 そして、とうとう魔王様を苦しめる原因が彼の口から語られ始めた。 6.エチオン ---------------------- まず、勇者達の話し合いで一番の問題は、どうやって魔王を倒すかであった。 これまでにも、様々な勇者のライセンスを持ったパーティーが挑んでは、ろくにダメージも与える事無く敗北していた。 「だから、俺達は倒さずに魔王が戦闘不能になる方法を考えたんだ。」 ドウトンは話を続ける。 竜魔王は、話によると大分太っているという情報はあった。 だから、もしも今以上に太らせて、身動きを封じる事が出来れば。そんな考えに至ったんだ。 パーティーには優秀な魔導師や調合師がいたからな。特別なアイテムをつくり、それを使って魔王の身動きを封じる作戦に出たのさ。 今回は負けてでも、とにかくそのアイテムを飲ませる事が最優先だった。俺達は敗れても何度でも挑戦し直せるからな。 「でも俺は負け戦に加わる気は無かったから、単独行動したってわけ。」 「太らせるアイテムだと? そんなもの、どうやって作ったんだ。」 「太るのは副次的なもんだ。特別な微生物を作り出したのさ。 栄養があり、なおかつ爆発的に繁殖する物を。 詳しくはしらねーけど、元々存在する微生物から生み出したらしい。 体内で駆除されないように毒を抜き、代わりに栄養源として吸収されるようにな。」 魔王を苦しめている物の原因がようやくわかった。 しかし、いまひとつ納得ができない。太らせるなど、体に害があるだけだし、それこそ毒ではないのか。 レオヴが不満そうな顔をするので、ドウトンが補足した。 「乳酸菌とか、いろいろ体にとって有益なもんがあるだろ。 あんたらの魔王が取り込んだのは、それよりも体に馴染みやすい生きた栄養源そのものと考えていい。 太るのは確かにマイナスだが、生物の根源としては栄養を貯めることは有益な事さ。」 なるほど、だから駆除されることなく体に居座り続けているのか。 「しかし、予定ではここまで短期間で太るはずじゃないんだが・・・。」 改めて、ドウトンはベスティードの巨体を見る。まさに風船腹と呼ぶに相応しい体、太い四肢と尻尾。 首にまで僅かだが余分な肉がつき始めていた。 そこで、レオブがとある事実に気付いた。 「・・・・・・・・ちょっと、待て。その微生物・・・菌か? この際どっちでもいい、今も魔王様の体内で増え続けてるって事か。」 「そうだな。俺は知らんが、昨日より太ってるんだろ? 微生物は吸収されながら、分裂を繰り返してるからな。 つまりだ・・・・そいつ(魔王)はカプセルを飲まされてから、ずーーっと栄養を取り続けている事になる。」 「そ、それは48時間以上休まずに、ずーっとメシを食ってるのと同じって事か?!」 「お、その例えはわかりやすいな。実際そこまでじゃないだろうが、それぐらいだろう。」 なんという事だ。それでは魔王様が苦しむのは当然。 生きた分裂増殖する微生物(食べ物)が腹の中に住んでいて、それを消化吸収し続けていたのだから。 「ぐぬぅうう、げぇ〜っぷ!!」 ここでベスティートが再び大きなげっぷを吐き出す。 後でわかった事なのだが、この微生物(インフル・エチオンと名付けられた)は消化される際に無味無臭、実質無害のガスまで出していた。 そのせいで魔王様の腹はパンパンに膨れ続け、エチオンが増殖するスペースも益々増えていたのだ。 原因はわかったが、それは逆に絶望する事実でもあった。 栄養源として魔王の体がエチオンを受け入れている現状、共生の形で居続けることになるかもしれない。 そうなると、魔王様はこのままどんどんと太り続けてしまう。 ろくな対策が思い浮かばないままに、その日も終わってしまった。 元々ドラゴンの体重は数トン以上で、特に魔王ベスティードはアフリカゾウの何倍も大きく重い体重であったが、今では大型の鯨と同じかそれ以上になろうとしている。 エチオンに侵された体はまたたく間に倍近い体重となり、その腹回りはあまりにも太い。 時間の経過と共にムクムクと肥え太っていくその様は、風船のようである。 前後左右、綺麗に弧を描く体は元々丸い種族だったと思いたくなってしまう程だ。 日が昇り、新たな一日が始まる。 栄養バランスを考え、なんとか朝食を摂らせようとするがそれは酷というものだろう。 「本当の意味で」満腹状態の腹に、飯を入れる事は酷い所業だ。 しかし、エチオンの吸収による栄養価がわからない現状、体の維持に必要な食料は食べさせておく必要があったのだ。 「魔王様、どうかお食べください、、、。」 「フゥー、フゥー、グフゥ〜〜・・・(モグ、ゴクン)・・・ゲフっ、ゲフ!」 離乳食を貰う赤ん坊のように、寝たきりのまま不器用に口をあけて朝食を食べるベスティード。 そこに魔王の威厳などはなく、同情を貰われそうな哀れな姿であった。 巨大化した魔王の体から逆算し、朝食の量も確実に増えていた。 「魔王様、お次は海鮮類のスープです。少しずつ、ゆっくり流しますね」 「ハァ、ハァハァ、あぁ、わかった。 うっぷ・・・(ゴクゴク、ゴクン)、、、グッ、ゲ〜ップ!!」 食べるペースが遅いため、すでに朝食の時間だけで1時間が経過していた。 山積みになった皿が運ばれ、入れ替わりで追加の料理が来る。 パンパンに膨れたままの腹は、どれぐらい食べたのか想像する事ができないが、尋常でない量である事は空になった食器の枚数を見ればわかる。 溜まったガスを吐き出すたびに、辛そうな表情を見せる魔王を見ているのは、部下達には辛かった。 特に信頼の厚いレオヴは、気が気ではなく、なんとかしたいと思っている。 だが、なにも対策が思いつかいまま時間だけが過ぎていき。 魔王の体は更に大きく膨らんでいくのだった。 ◆◇◆◇◆ 「げふっ、、ふぅ、ふぅ、苦し、腹が、、!ぬううぅ、ぐふぅ〜〜っっ!」 わずか数日の間で、魔王の体は誰が見てもわかるほど巨大に太り膨れ上がった。 完成された生物でもあるドラゴンは、太っても身動きが取れるように本来はバランスよく体が成長する。 獣人達のように、身長の成長を抑制する物質は竜族には出ない。 そのおかげで、ぶくぶくと醜く肥え太る事は無かったが、それでも短期間で有り余る過剰なエネルギーを取り込んでいくせいで、四肢や胴体が優先されて立派に成長していく。 元々巨大なドラゴンであったが、ベスティードはわずかとはいえ体自体が大きくなっていた。 膨らむ腹が苦しいのだろう、ベスティードは時折苦しそうに呻っては冷や汗を流し続ける。 「ううう、ぐぬぬ・・・?!!」 腹を押さえる腕も、今ではかなり太くなっている。肉でだぶつきはしていないが、パツパツだ。 「お前達。魔王様にシーツをかけて、僅かでも苦しさが軽減されるようにしておくのだ。」 「わ、わかりましたっ」 カルパの指示でモンスター達がせわしなく動く。 特別な伸縮性の高く薄いシーツをベスティードの腹の上にかけてやり、床に思い切り引き伸ばす。 そのままシーツの四隅を杭のようなもので、床に固定してやった。 気休め程度だが、膨れ続けるお腹を抑える手助けにはなる。 だが、昼食を終える頃には、シーツはピチピチに引き伸ばされていた。 夕食の時にはすでに限界がきており、伸びたシーツがより一層彼の巨大なお腹を際立たせている。 「ぶふぅ、ぐふ〜〜げぇぷ!」 そして、夕食の最後の一品を食べ終えたとき、シーツは腹の頂点から音を出しながら引き裂かれ始めた。 [ビリ、ビリィ!!!] 「ぐぬぉおおっ!ふぅふぅ、うぐぐぐ・・・・・!!!」 突然、おさえつけられていた腹部の抵抗力が無くなった事により、ボン!と魔王の腹が一回り大きく膨らんだ。 その苦しさからベスティードは首を左右に振ったり、足をばたつかせる。 ズンズンと、巨体の動きにより部屋がわずかに揺れた気がした。 「い、いかん?!早く新しいスーツをっ、今度は二重に被せて差し上げるのだ!!」 再び巨大な腹にシーツが被せられるが、効果は薄いだろう。 「(・・・・魔王様っ。)」 その様子を見つめるレオヴは、何も出来ない自分がただ悔しくて、牙を噛み締めた。 「へへへ、立派な腹だなー。ちょっと触ったりするのは駄目?」 「駄目に決まってるでしょ。」 ドウトンが興奮気味に巨腹を見ていたが、フエルマが睨むとつまらなそうな表情を見せた。 「それより、なんで俺はまた呼ばれたんだ。」 「あんたたちのパーティーはもうこの近くにいないし。 悔しいから、腹いせ。」 そう言いつつドウトンに食料責め(食わせる方の)をするフエルマ。 八つ当たりでしか無いが、文句を言いながらドウトンも積極的に食べ続けていた。 獣人のくせに、ドラム缶を膨らませたみたいな体型になりつつある。 そんな彼らのやり取りを見る余裕も無いレオヴは、思いつめた表情のままひとりで部屋を出て行った。 翌日、状況は悪化する一方であった。 竜魔王は前日より更に太り、膨れ、巨大化し、常に苦しそうだ。 「ぐぷっ、ふぅふぅふぅ、げぷ・・・」 替えの2重に被せたシーツも破れるほどに体は膨らみ、満月のようなお腹は天井知らずといった所。 狭い部屋だったら、すでに腹部が天井に到達している頃だ。 「ねぇ、、、、カルパ。魔王様、ずっとこのままなのかしら?」 「いやぁ、そんな事はないはずだ。分裂回数に限りはあるだろうし、分裂速度に吸収の速度が追いつくだろう。 だが、早くても2週間、長ければ数ヶ月はこのままの可能性もあるやも・・。」 しかし、エチオンは分裂の際にエネルギーとして魔王の魔力や筋肉を消費しているようだった。 それが最終的に脂肪として溜まっていくのだから、酷い話だ。 本来なら、ここまで長い間エチオンが生存する事はなかったはずだが、魔王の膨大な魔力が災いした。 もし、この状態から回復しても膨れすぎた上に筋肉も衰えては、ろくに身動きも出来ない体になってしまう。 だから今では、積極的にタンパク質の高い肉を食べさせまくっていた。 それにより、ベスティードは更に太ってしまうが背に腹は変えられない。 部下のモンスターたちが補助で無理やり体を動かしてやるおかげで、腕や足はまだ引き締まった状態を維持できた。 満月のような胴体は相変わらず丸く、超巨大な風船腹であった。 「そう・・・・・直るなら、まだいいかしら。 (・・・・・・そういえばレオヴの姿が見えないわね。)」 フエルマがあたりを見回す。 だがしかし、片時も魔王の傍を離れたくないはずだろうに、レオヴの姿は見えなかった。 周囲の者に聞いても、首を横に振るばかりで居場所を知る者はいない。それほど気にする事でもないか、とフエルマはその後数時間特に意識しなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー **************** レオヴが姿を見せなくなってから、二日が経過していた。 流石に心配になったフエルマは、周りのモンスターたちに行方を聞いた。 「ねぇ、あなたたち。食事の時間になってもレオヴを見かけないけど、どこにいったのかしら?」 「レオヴ様??なぁ、お前どこに行ったか知ってるか。」 「いえ、この間は見たのですが少し前からは一度も・・・」 他のモンスターたちにも聞いたが、同じような返答ばかりが返ってくる。 いったいどこに行ったのやら。魔王様を置いて、解決法を探しに城から離れるとは思えない。 だが城内にはいない、となると城の外にある食料庫ぐらいしか行く場所はないはず。 城内にも大きな食料庫があるが、更にそこへ補充する為の超巨大な食料専用庫があるのだ。 今の魔王様でも、食べきる事は当分不可能な量のものが。 フエルマは、どうせしょうもない事をしてるんだろうと思いつつもレオヴを探しに、その食料庫へ足を運び。 案の定、そこにはレオヴがいた。 「・・・・あんた、何してんの?」 ため息をつきながら、変わり果てた姿(お腹)になったレオヴに声をかけてみる。 「ふぅー、ふぅー、ゲプ!! んぐぐ、み、水・・・・!」 食料庫にある食べ物を、いったいどれだけ食べたのか。 最近はかなり太った体型になっていたレオヴだが、今ではその倍近い、下手したらそれ以上のボリュームある胴体をかかえていた。 食べすぎで喉に詰まったのかレオヴは水を求めている。 とりあえずフエルマが近くのタルに入った果実酒を飲ませてやった。 「ング、ング、ング・・・・ぶはっ! あ、ありがとう助かった、、、、げぇっぷ。」 「で、結局何してたのよあんた。まぁ、あらかた予想はつくけどね、、、」 「ふぅ、ふぅ、ふぅ〜〜・・・ 魔王様が、どれほど苦しんでいるか、確かめたくて・・・一日中、食べ続けていたんだ・・ぐぅうっぷ!!! それと、ふぅふぅ、何か解決の手がかりが得られないかと思って。」 予想していたことだが、実際にそんな無駄な苦労をするとは・・・と思うとフエルマは呆れつつも感心した。 自分は、絶対にそんな無意味な事はしない・・・が、その魔王様を思う真っ直ぐな気持ちは羨ましくもある。 「はぁ、そんな事だろうと思ったけど。 それと、もう2日は過ぎてたわよ。」 彼は一日中倉庫で食べ続けて、感覚が麻痺していたのだろうが、実際には48時間前後、休む間もなく食べ続けていたことになる。 「う、そう、だったの・・・か・・・!!! うっ!ぐぅう、ぬふぅ〜、ふひぃ、く、苦しい・・・!!」 うんうんと唸り続けるレオヴ。 果たして彼がどれぐらい食べていたかというと・・・ ==・・二日前・・== 「魔王様・・・、四六時中食事するとはいったい、どれほどの苦しい事か・・・っ」 「(その苦しさを、一度は経験しておかねば。それに、何か解決策や、苦しみを緩和する方法がわかるかもしれない!!)」 そしてレオヴは食料庫にある、ありとあらゆる保存食に手をつけ始めた。 ここにある物は、調理する前のものだが、基本的に味がついているのがほとんどだし、調味料や塩コショウは大量にある。 それらを肉にかけて、レオヴはガブリとひとかじり、ふたかじり、たったの3口で肉片を飲み込んでしまう。 続いて手を伸ばしたのは、魚介類。大型の魚に軽く炎を吐き、ほどよい焼き加減にするとこちらも余裕の一飲み。 その後も食べ続けわずかレオヴは数十分のうちに、一般的な竜5頭分は食べきった。 摂取カロリーは、この時点でかなりのものだ。 肉や魚、果物以外にも、野菜もバクバク食べるが、糖分の多い甘いイモや巨大なカボチャなどばかりをどんどん腹におさめる。 すでに真ん丸なお腹は徐々にだが、より大きく膨れ始める。 「むぅ、やはり飽きてくるか」 味のバリエーションが少ないので、レオヴの食べる速度は次第に落ちてきた。 レオヴは、むっちりと詰まったボール腹を上下に揺らしながら厨房へ材料を運んだ。 その間にも、もちろん脂の乗り切った骨付きをかじりつつ。 ここは食料庫だが、城が戦場になった時の為に調理する器具や環境、寝泊りする道具すらある。 レオヴは食べ物をほおばりながら料理するという、端から見れば滑稽な姿に映っていただろう。 彼は、料理を食べるのが大好きで、実は作るのもけっこう好きだったりする。 まずはありったけの麺を茹で、パスタを作ったのだが。その間もパンにウィンナーを挟み、大量のケチャップとマスタードをかけてガブリ 。 米も炊き始め、ピザまで何枚も焼き始めた。 手を休まず、口も休ませず、レオヴは何十分も何時間も、腹に料理を詰め込みまくった。 「ぐぬ、んん〜・・・げふ!」 6時間が過ぎた頃、とうとう巨腹を持つレオヴも限界を迎えた。 だが、ここからが本番なのである。ヒィヒィと苦しそうに呼吸を乱しつつも、ひたすらに食べて食べて食べまくる。 腹はグングン成長し、ひとまわり膨らんでもまだ止まらない。 炊き上がったご飯に、大量に揚げ物や溶いた卵を載せ、ガツガツと頬張る。 次いで焼き上げたラザニア(これもかなり大きな特別製)をふーふーと冷ましながら食べる。 こんがりと焼けたチーズをふんだんに乗せたピザを片手に、新たな料理に取り掛かる。 お腹がでかくなるにつれ、作業が難航し始める。 むしろ、今までその体型でよく料理を作れたのかと感心していいぐらいだ。(体を横にしたり、高いテーブルや棚をうまく利用していた のであろう) もうこれ以上口にしたくないが、それでも魔王への忠誠心から彼は口をあけた。 バク、バク、バクバクバクバクバクバク・・・!!!!! 10時間が経過したころには、まともに身動きが取れない状態。 これでもか、と膨れた胴体は左右上下均等のバランスに広がっており、ある意味見事であった。 「ぐ、うぷ---?!」 何度も吐き出しそうになるが、口を押さえてすぐに飲み物で押し込んで誤魔化す。 24時間胃袋をフルに働かせ、食料が詰まりに詰まった腹はぐんぐん成長していった。 とうとう一日が経過した頃には、元からの立派な体型に拍車がかかり、風船太鼓腹を超えた胴体へ変貌していた。 もはや料理など作れるわけがなく、寝不足と息苦しさにより朦朧とした意識の中であったが、レオヴは執念で手当たり次第に近くにあ る物を貪った。 「う・・・・がふっ。ハァハァ、、、 (魔王様は、これより辛い状態を、何日も・・・)」 その事を考えると、早くなんとかしてあげたいという気持ちが強まった。 しかし、苦しみは少し理解できたところで解決策が一向に浮かばない。 考えのまとまらない寝ぼけた脳のまま、麻痺しつつある「食べる」という行為をひたすらレオヴは繰り返した。 30時間が過ぎると、ペースは開始よりだいぶ落ちたが、それでも並みの大食い竜ぐらいに食べ続けている。 ぷくぅーと膨れ行くお腹に両足が追いやられ股は開き、それでもなお大きくなる胴体は本当に風船といっていい。 限界しらずのドラゴンとはいえ、ここまで腹が膨れる事を想定した体構造などしていない。 「食い溜め」というにはいささか多い、いや異常な量であるはずだ。 「ふー、ふー・・・もうどれぐらい時間が経ったんだ・・・? (ガツガツ、むしゃ・・ゴクン)、ふぅー、・・・ぐふぅっ!!」 膨大な食事量で巨大化する竜の姿。 ボール状になりつつあるレオヴの体は、パンパンに張り詰めているが、それでもふにふにとした柔らかさがある程度みてとれる。 仰向けに寝そべったまま、どで〜んと腹を天井に見せつけ、届く範囲の食料に手を伸ばす。 もし彼が摂取したカロリーや脂質・糖分をもし数値化すると、ダイエット中の者は驚愕のあまり声も出なくなるに違いない。 もはや何も考える余裕が無くなったレオヴは、ほぼ反射といって良い無意識レベルで手と口を動かし続けた。 ひたすら食べ、 とにかく食べ、 吐きそうになるほど食べ 食べて食べて、とことん食べまくり、わずか二日で見違えるほどに太ってしまったのである。 ==== 「それで、結局なにかわかった?」 答えには期待していないフエルマの質問。確認といってもいい。 「ぅ・・・・・特には。」 がっくりと項垂(うなだ)れるレオヴ。とはいえ、今の彼は顔というか首をほとんど下に向けれないのだが理由は体型を考えれば当然と も思えた。 「それに、消化してる最中にスラちゃんもある程度は吸収するんだから。貴方だけが苦しむわけじゃないのよ」 (それと、あなた自身の体も心配する連中は城にたくさんいるんだからね。) 最後の言葉は声に出さなかったが、目でそう訴えた。 「そっか・・・・ごめんなスラちゃん。」 「ま、仕方ないわね・・・。気が済んだ? それじゃ戻りましょう。」 振り向き、帰ろうとするフエルマにレオヴが慌てて声をかける。 「あっ、ま、待ってくれないか? ふひぃ〜・・・、その・・・腹一杯過ぎて、動けなくて・・・・」 「・・・・。」 暫く無言になったフエルマだが、「仕方ないか」と呟くと、体重がどれほどあるか想像しがたい彼の尻尾を掴みズリズリと引きずった。 なんとか球体状のレオヴを城まで引っ張ったフエルマ。 さすが魔王に信頼を置かれた竜だけのことはある。冷静な判断力だけではない、という事だろう。 しかし、魔王の休む部屋が何やら騒がしい。 慌てて部屋に入るフエルマ、と、一方で同じく急いで部屋に入りたいがまだ苦しさで満足に動けないレオヴ。 「何か変化があったの?」 「うむ、腹部が膨れすぎて、呼吸に障害が出始めたのだ。早く手を打っておかねば・・・」 亀似の医師、カルパは変わらず落ち着いた声だが、内心はあせっていた。 魔王の体は、以前と比べると比較出来ないほどに丸く巨大である。 常に膨れた腹部は、いまだに膨張を続けているのか被せたシーツがまた引きちぎれそうである。 以前まではぜぃぜぃと、早く大きな呼吸であったが、今はヒューヒュゥと、掠れた音が聞こえる。 [ミチ・・・ミチ・・] 再び、シーツに切れ目が出来始め、限界が来ようとしている。 新たな布を用意しなければいけないのは、時間の問題であろう。 「なんとか吐き出させたいが、押した程度では変わらないだろうし。 押し出すほどの重りを乗せて・・・傷がつくとはおもえんが、負荷になってしまう。ただでさえ苦しんでいるのに・・・」 悩む彼らの元へ、ほぼすり足に近い状態で息を切らしつつレオヴがやってきた。 「はぁっ、はぁっ・・・ぶはぁーー・・・。 どうにかする方法はないかっ??」 「さっきも言ったとおり、・・・っと、なんだレオヴその姿は?」 「いや・・・(ぜぇはぁ)、私の事はおいといてくれ。」 「ふむ・・・・・いや待てよ。お前さんのその体で、一時的には解決出来るかもしれん。」 カルパが述べた案は、単純明快であった。 魔王様に次いで膨らんだ今のレオヴが乗っかり、ガスをまとめて吐き出させるというもの。 おもしを乗せるのとは違い、パンパンに膨れてるとはいえレオヴのお腹はぷにぷにとした柔らかさも面積もあり、それでいてかなりの重 量がある。 それに、魔王様を下にして圧し掛かるなど、緊急時とはいえ位(くらい)の高いモンスターで無ければ恐れおおくて無理なのだ。 魔王の側近で、なおかつ重量のあるレオヴが適任なのだ。 初めは、そんな失礼な事をする訳には・・・と否定していたレオヴ。 だが、新たに補強したシーツが破れ魔王の超巨大な風船腹があらわになり、苦しそうな表情と姿を見てついに決心した。 仰向けに寝そべったままの(・・・というよりその姿でしかいられない・・・)魔王ベスティードに、尻尾側から登る事になるのだが、まず それが難しい。 「うぅ、失礼します魔王様・・・!!」 周りのモンスターたちに手助けられながら、魔王様の尻尾を踏みつけるレオヴ。そこを足がかりに、パンッパンに膨れ上がったお腹( だが、強い弾力の他に柔らかさもある)を登る。 [ぐぐぐぐぐ・・・・!!!] と、かなりの重量があるレオヴが乗ったおかげで、わずかにベスティードの胴体が沈んだようにも見える。 だがレオヴはまだ体重を本気でかけてはいない。 膨れて丸々とした魔王もだが、レオヴも現在では軽く丸々と太っていたので、 遠くから見ると超巨大な風船の上に、特大のバランスボールを乗せたような構図になっていた。 それからレオヴは、ハグするような形で(腹が大きくなりすぎて、腕がまわらないが)ゆっくりと、ゆっくりとベスティードのお腹へと倒れこ んだ。緊張のあまり心臓がバクバクして、あまりに活発に働くものだから勢いあまって破裂しそうだった。 だがそうなってしまうのも無理はない。すべてのモンスターの頂点に君臨する絶対的な存在を相手に、上から押さえつけるなど、まる で服従させるかのようであるし、忠誠心の高い彼だからこそ強く胸が痛んだ。 「ヒゥー、、、、、ヒュゥーーー・・・」 目に映ったのは、満足に呼吸も出来ず、さらには体内で増え続けるエチオンと消化の際に発生するガスにより苦しめ続けられる魔王 様の姿。 いっときでも、苦しみを和らげられるなら。本当に相手のことを思うなら、体面や位など関係ないのだ。 「よし、それではそのまま位置を・・・もうすこし真ん中よりに、そのあたりだ。 おまえたち、シーツとベルトを。」 カルパの指示で、レオヴの上から頑丈なシーツをかぶせる。 その上から、帯のように太いベルトを2,3本おおくの力自慢たちに持たせ引っ張らせた。 まだ全員力をこめていないが、それだけで十分にレオヴの体は魔王様のお腹とより密接になる。 ある程度、腹が押された事で魔王の喉元がむくりと膨れた・・・が、吐き出すまでには至らずすぐに戻ってしまう。 「それでは、全員力を込めろっ!!1,2の・・・・」 せぇいっ、という声と共に屈強なモンスターたちが思い切りベルトを左右から引っ張る。 それによって、シーツごとレオヴの体が床に押し付けられ、それにより魔王の腹部をダイレクトにおしだす形となった。 レオヴも遠慮なしに全体重をかけて、地盤沈下させんばかりの勢いで自らの体を、腹を、グググっ!と突き出した。 「ぬぅ、うっ・・・魔王様、なんとか、吐き出してください・・・!!」 非常に強い力が背中にかかり痛い・・・が、そんな事を気にしている場合ではない。 「、・・・ッーーーー!」 魔王の腹がへこみ、胸部と喉側が大きく膨れる・・・・が駄目であった。 強い反発力で魔王の胴体が元の形にボンッと膨れて戻り、もしおさえつけていなければレオヴは飛ばされていただろう。 だが、逆に固定されていたことにより強くおしかえされる形になり、レオヴまで一瞬呼吸不可に陥ってしまう。 「レオヴ、大丈夫か?」 「げほっ、ゲホ。ーーーあぁ、平気だ。次は、もっと力をこめていこう。」 急がなければ。こうしている間にも、魔王様は苦しみ続けている。 24時間体制で腹が満たされるエチオンの解決法はまだ見つかっていないが、せめて、呼吸は楽にしてあげたかった。 再び全員が呼吸を合わせ始め、直径何メートルあるかわからない巨大な風船腹に挑む。 「それじゃあ行くぞ、1・2のーーーーーふっ!!!」 全体重を一点(自分の腹部)に集中させ、円を描くようなつもりで、えぐり込むようにして今度は体を押し付けた。 同時に今度は先ほどよりも強くベルトとシーツで引っ張られ、まるで何倍もの重力下であるかのようにレオヴの体が床に向かって・・・ 性格には魔王の腹へ落とされた。 初めはたぷんとした柔らかさが伝わり、すぐに非常に強い抵抗と弾力が跳ね返ってきそうになる。 だが、レオヴ達は踏みとどまり、さらにその奥へ進むように自身のボールみたいな巨体を沈めた。 [むくぅ〜〜!]と、行き場を探すベスティードの腹に溜まっていた空気が胸を通り過ぎ、喉元をとおり、異常なまでの膨らみを持たせ る。 だが、あと一息届かない・・・・ 「うにゅ〜っ」 「(・・・スラちゃん?よし・・・っ)」 その時、レオヴのお腹にいたスラちゃんが声をかけ、レオヴは一気に空気を取り込むとスラちゃんがどんどん膨れた。 それにより、更にレオヴの腹が突き出て、最後の一押しとなり・・・ 「フッ・・・ゥーーー!!」 げぽんっと、音を立てて、遂に魔王の口から空気の塊が排出された。 つかえが取れたのか、次の瞬間にはベスティードはまるでフタを飛ばしたシャンパンのように、怒涛の勢いで不要に発生した体内のガ スを吐き出しまくった。 「ぐぇええ〜〜〜〜っぷ!!!!!!!!!??」 「げぇっ、げぇえええええぷ!!ぐぇえええっぷ!うっぷ!!! ごふぅうう〜〜〜・・・はぁはぁ、ウッ、・・・げぇぷ!!ぐふうぅ〜〜っ!!!!!」 何度も何度もげっぷをし、まるで大地震の後に起きる余震のように、それは定期的に吐き出され止ることがなかった。 それほどまでに、エチオンが吸収される際に発生するガスが溜まっていたのだろう。(もっとも、あれほどまでに膨れた腹を見ていれ ば納得がいくのだが。) 「はぁ〜、はぁ〜、はぁーーー・・・・・・・。 スゥー・・・ぷはぁ、、、」 ベスティードは、久々の落ち着いた呼吸により、ようやく余裕を取り戻した。 歓声とまではいかないが、周囲にいたモンスターたちの表情が明るくなる。 「魔王様、大丈夫ですか?!」「うにゅぅ。」 「ふぅ、ふぅ・・・うむ、、、レオヴにスラちゃん。それに他の皆も感謝する、、、うっぷ。」 こうして、なんとか以前のように会話出来るようにはなった。しかし、根本的な問題は何も解決していないのだ。 「しかし、こうやって空気を出したところでエチオンは一緒に出ることは無い・・・か。 体外に出しさえすれば、生きられぬのだが・・・このままでは、いずれまた同じことが起きよう。」 カルパが頭を抱えつつ、何か良いアイディアが無いか考え続けた。 しかし、有効そうな解決策はなかなか思い浮かばない。 「うにゅ。にゅう?ぐにゅにょ。」 「え、あぁ・・?わかった、大丈夫だ。」 スラちゃんがレオヴに話しかけていたが、周りのほとんどのモンスター達はどんな会話をしていたかわからなかった。 「どうかしたのか?」 「いえ、スラちゃんが外に出たいと言っていたので。・・・むぐっ?!」 説明と同時に、レオヴの口からスライムの一部が出てきた。 スラちゃんもかなり巨大になっていたので、少しずつ体を細めて外に出始める。 呼吸ができるように、ちゃんと上部に隙間を空けてあげるのは賢いスラちゃんらしい。 「ぐっ、おっ、んぐ・・・・んぐぅーーーっぷはぁ! はぁはぁ。。。」 数分して、ようやくスライムの全体が体の外に出た。 もともと、かなり太って巨大化していたスラちゃんであったが、以前にも増して大きく成長していた。 というより、見た目にはわかりにくいがスラちゃんもかなり太ってしまったのだろう。 こんな大きな子が自分のお腹に入っていたのが驚きだが、それ以上にスラちゃんが抜けた後も相変わらずかなり立派でぼぉんと膨 れた自分のお腹がちょっとだけショックなレオヴであった。 「うにゅぅー」 「ふぅ、ふぅ〜。おぉ、スラちゃん・・・元気そうで、安心したよ・・・・げぇっぷ。」 久々に最愛のスライムの姿を見て、わずかに笑顔を見せるベスティード。 今ならば仮に敵襲があっても大丈夫であろう。この部屋にいるモンスターたちはいずれも世界に名を轟かせるような強者ばかりいるの だから。 そして、スラちゃんは何かごにょごにょと魔王様に告げーーレオヴ達には届いてなかったーー何を思ったか、超過剰満腹状態のベス ティードの口へ体を滑り込ませていくではないか。 「こ、こらスラちゃんっ!? 今は魔王様は苦しんでて、遊べるような場合じゃーーーっ」 止めようとするレオヴを、逆に魔王がスラちゃんを飲み続けながら、もがもがとした口調で制止させた。 「ぐぷ、ごぷっ・・・んぐ、レオヴ、まて、かまわん、、(ゴクゴク)、、、うぐぐっ!」 今は何かを喉に通すだけで辛い状態のはずである。にもかかわらず、ベスティードはスラちゃんを自由にさせていた。 しかし、こんな苦しいときでも甘やかしているというわけではなく、何か意味のある行為なのだろうという事は想像できる。 ほんの少しずつだが、せっかくサイズの小さくなった魔王のお腹はまたムクムクと膨れ始めた。 昔の魔王だったら、今のスラちゃんを飲み込んでいれば一回りも二周りも大きくなっていただろうが、今では体が大きくなっておりそこ までの影響は無い。 「はぁー・・・はぁーっ・・・・・んぐ、んぐっ、、、! げふぅ〜〜〜。」 あの巨大なスライムが全部体内に入ってしまうと、ただでさえふっくらしたパンのように太り、なおかつパンパンに膨れていた魔王のお 腹は見事な球体へ再び戻ってしまった。 「だ、大丈夫ーーーですか?」 「うぷっ、さすがに、ちと、苦しいな、、、、すまんが、暫く腹をさすってくれんか・・・」 ぜぇぜぇ息を乱しつつ、頼み込む魔王の願いを聞き届けようと近づいたレオヴだが自身の腹が邪魔してろくに撫でれずに断念してい た。 それなら俺が、とどっから沸いて出たのかドウトンが興奮気味につっこんでいったがフエルマの尻尾に叩き落とされ、とりあえず彼女が 優しくお腹を撫で続けてやった。 「しかし魔王様、なぜスラちゃんはお腹に入ったのですか・・・?」 居心地が良さそうだから移動した、なんてことは無いはずだ。 「ふぅふぅ、ぐぇ〜っぷ! いやそれがな、、、、ふーふー、、、お前がたらふく食った時に、気づいた点があると・・・それを試してみたいそうだ。」 「私が・・・ですか?」 さっきまでの暴食を思い出すと、また胸焼けがおきそうになった。しかし、あれでスラちゃんは何に気付いたと言うのだろう。 しかし特に変化も無いまま時間だけが過ぎていった。 割と落ち着いていた魔王様だが、次第にエチオンの吸収の苦しみが強まってきたようだ。 エチオンを体に宿してから、いったいどれだけ長時間休まずに食事をしている事になっているのか・・・想像もつかない。 更に大きさを増すベスティードの胴体。魔王は必死に息を整えて、なんとか耐えている。 自分ではろくに寝返りも打てず(モンスターたちが体を押して転がすように動かしてやる事は可能だった)仰向けに寝たきりのまま。 スライムが入ってからも、周囲のモンスター達は看護し続けた。 それから、2・3時間が経過したころだろうか。 だんだんと魔王の顔色が良くなってきたのだ。相変わらずふぅふぅと声を出していたが、次第に症状がよくなっているように思えた。 「魔王様、何か変化がありましたかな。」 カルパが顔色をチェックしながら尋ねてみる。腹部の膨張率も、以前よりも緩やかになっていたからだ。 「うむ・・・心なしか、満腹感は・・・・わずかだが、落ち着いてきたように思えるな。 スラちゃんがいて、安心しているからだろうか?それとも別に何か。。。」 その言葉を聞き、カルパは何か納得したように口元に手を当てひとりごちた。 「ふーむ、スライムの体構造と特別な吸収方法がうまく働いたというのか・・・。」 「えっと、どういう事なんだ。スラちゃんが何かしているのか?」 「能動的というよりは、受動的かもしれんが・・・・。 スライムの食事方法は極めて特殊なのは知っているだろう?口以外だろうが、どこからでも吸収する事が可能なのだ。 栄養素となるべきものだけだが、、、、それが、たとえ目に見えないほど微細なものでもだ。」 スラちゃんはレオヴが暴食をしている時、自分が意識せずともどんどん胃にたまった吸収と消化の手助けとなっていた事に気付いた 。 そこで、魔王に栄養を与え続けるエチオンも吸収できるのでは・・・と思ったのだ。スライムとは思えないほど賢いのも、魔王が弱小モ ンスターとして排他せずに愛情を注いだからだろう。 しかも魔王と違って、スライムにはエチオンがエネルギーの糧とする魔力や筋肉が一切無い。 何度も増殖することができないのだ。 「そうだったのか・・・凄いなスラちゃん、、、!」 これでようやく解決策が見えた。 カルパは、城内にいるすべてのモンスターを集めて、一気にエチオンを吸収させてしまう事を決めた。 長引くほど魔王が苦しむだけだし、スラちゃん1匹の補助では非常に時間がかかるからである。 「うにゅ〜」「くにゃぁ。」「にゅー?」 続々とスライムが集められてくる。大小、色も様々な個性ある連中だ。みんなも、魔王の不調が心配だったのか、召集にすぐ応じて 集まった。 が、ここで魔王には最後の辛い時間が訪れる。城中のスライムを飲み込むわけなのだから。 「ふぅ、ふぅ、ごふぅ〜っ! ぜぃぜぃ、それじゃあ初めてくれ・・・・」 んがぁ〜っと大口を開き、舞おうが1匹目のスライムを飲み込み始めた。ぐびぐびと、硬くて弾力のあるゼリーのようだ。 ポンプが水を送り込むように、ごぷりごぷりとノドが膨れたりしていた。 続いて2匹目、3匹目も順調に飲み込んでいく。 「ぐにゅぅ〜」 4匹目、今度はスラちゃんほどではないが、ひときわ大きな子がお邪魔しますとばかりに口の中へ入っていく。 「ぐふーーー・・・ぐぶぅっ・・・ン、ンガァ・・・!!」 苦しかったのだろう。びくりと体が跳ね上がったが、腹が少し突き出る程度で体が重くてほとんど浮かばない。 その様子をハラハラしながらレオヴが心配そうに見つめる。 そんな彼をフエルマが大丈夫だから、ちょっとは落ち着いてなさいとなだめていた。 5匹目、6匹目、7匹目、8匹目・・・・とうとう10匹目のスライムがお腹に入り満たされる。 風船腹はもはや気球船腹といっていいぐらいの圧倒的なサイズとなっていた。 何度か補強した気休めなシーツが再び引きちぎれる。 シーツが破けた時に一気に腹を抑える力がなくなってしまうので、途中でボタン留め式の布を被せたりもした・・・がどちらにせよ、気 休めにしかならない。 「魔王」と呼ぶに相応しいと言えば相応しいスケールの風船竜となるベスティード。 15匹目も飲み終え、小さいスライムたちも続々と体内に入っていく。 「ごぶ、ぐぼぶっ・・・・んぐぉ、ごく、ごく・・・(ごくん)。 はぁはぁはぁ、、、、ぐぶぇ〜っぷ!」 げっぷと同時に、また腹をおさえていた布をとめるボタンが弾け飛ぶ。 みっちりとスライムが詰まったお腹は、それはそれは大層立派なものであった。ここまで巨大化しながら、球体を維持し、かといって はち切れそうな事は無いのだから竜の体は頑丈である。 かなり小さい子もいたが、それでも30匹以上体に収めきるのは凄いことであった。 だが、これだけのスライムがいてくれたら、エチオンの分裂速度を吸収と消化する速度が上回るに違いなかった。 「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったが・・・さすがはわしらの王だな。」 カルパが安心した、という事で他のモンスター達もホッと胸をなで下ろした。 「魔王様、よかったぁ・・・・」 感極まったのか、ぽろぽろと涙を零すレオヴを他の連中がからかったが、そんなのを気にならないぐらいに嬉しそうだった。 だが----- 「うにゅ、うにゅぅ。」 「ぐにゅ??にゅ〜」 スライム達がなにやら会話をしているようだが、詳しくは聞き取れない。 数時間後、続々と魔王様の口からスライム達が退出してくる。 たっぷりエチオンを吸収して取り込んだのだろう、どの子も体がふっくらとして太ったのがわかる。 しかし、スラちゃんがなかなか出てこない。 「スラちゃん、魔王様のお腹の中が気に入ったのかなぁ・・・?スライムは割りと狭い場所も好きだし。」 そんな軽い気持ちで、誰も不思議に思わなかった。普段から大の仲良しのスラちゃんだし、暫くは一緒にいさせてあげようと。 それから更に2時間が経過。 先に外へ出ていたスライム達は、満腹で動けずにみんなくったりしている。 レオヴ達も食事を済ませて腹を大にしてから、魔王様の看護を続ける。 「ふぅー、ふぅー、ふぅ〜〜〜・・・・・。 あぁ、いつぶりだろう、こんなに腹がすっきりしたのは。 ん、出るのかいスラちゃん?」 まだ動けないが、深呼吸をした魔王の顔はとても穏やかに見えた。 と、ようやくスラちゃんがゆっくりと重い動きで口から体を細めて出てきた。 どれだけエチオンを吸収したのだろうか、元から他のスライムたちとは比較できないほど太っていたのだが、今では倍以上にぼってり と膨れてパツパツである。 最初に、様子がおかしいと気付いたのはベスティードとレオヴであった。 「スラちゃん・・・大丈夫かい?」 食べすぎで苦しいのかと思ったが、様子がおかしい。 いくらなんでも、体が大きくなりすぎているような・・・いや、実際に膨れていた。 取り込んだエチオンが多すぎるのだ。 消化時に発生するガスと、元々残っている分裂回数によりいまだエチオンは増殖している。 水を注げば軽く膨れてしまう単純なスライムの体は、ろくに抵抗力も無いためぐんぐんと膨れていくのが目に見えてわかった。 そして、このまま行くとどうなってしまうかも・・・。 「ス、スラちゃん・・・?!」 「にゅ、うにゅ・・・っーーー。」 ぷくぅ、と本当に風船を膨らませるみたいに大きくなるスラちゃん。他のスライムを早めに出して、残りのエチオンを全部自分が処理し たのはこうなる事を見越しての事だったのであろう。 「スラちゃん・・・!」 ぐんぐんと成長し、自身よりも大きくなったスラちゃんにレオヴががっしりと抱きついた。 「俺の体の中に入ってくれ、そうすれば、大丈夫だ!」 「にゅ、ぅ・・・。」 だが、それでは解決しないと頑なに拒まれる。エチオンを全て死滅させる為にはこうするのが一番だ、と。 「駄目だ、駄目だっ!たとえ魔王様が無事でも、スラちゃんがいなかったら意味がないんだっ・・・・!!」 自分でも、驚くほど大きな声で叫んでいた。しがみつき、抑えようとするが何の効果も無い。スラちゃんは、更に膨らんでいく。 なんとかしなくては。自分は、魔王様を守れなかっただけでなく、たった1匹のスライムを・・・友達を守れないというのか。 こんな時でも、必死に考えても、何も案が浮かばない。そんな自分を呪いたかった。 「スラちゃん!!!!!」 最後に、大粒の涙を零しながら、名前を叫んだ。特に意味はなかったが、スライムは笑顔で返事をしてくれた気がする。 「くにゃ、ぐにょぅ・・・うにゅ。」 ボン・・・、と低い音が一度だけして、それから暫くは静寂があたりを支配した。 ■□■□■□■□■ ----それから、一年後---- 城の中庭にて。 「そうか、あれからもう1年になるのか・・・。」 空に浮かぶ昼月(午前中にのぼる薄明るい月)の満ち欠けと、外に咲く季節花で、その事を知ったレオヴはなんだか不思議な気持ち だった。 あれからはダイエットの日々が続き、なんだかあっという間だったような気がする。 レオヴは今ではなんとか昔の体型に近づき、活動や戦闘にはほとんど支障が無くなった。 途中危うくリバンドしかけたが、なんとか食事量を抑えてがんばっている。 フエルマは相変わらずである。女性はどうやってあのプロポーションを長年維持し続けることが出来るのか不思議でならない。 狸忍者のドウトンは、気付けば城に居付いていた。食べ物もうまいし、町よりもよっぽど平和だからだそうな。 あれ以来自分の体型をあまり気にしなくなったので、若干太ったようだ。自分より何倍も大きかったり、あれほど太った竜たちを見て いたら悩んでいたことが馬鹿らしくなったらしい。今では食堂で働いて、余りものをたくさん食べていることが多い。 配給で、太目の連中にはやたら大盛りで配るのは相変わらずだが。 それから魔王様なのだが、あの時と比べると大分痩せたとは思う。が、まだまだ・・・元の体型に戻るにはあと2年はかかるかもしれな い。(もっとも、少しだけ成長して体が大きくなったので完全に同じサイズにはならないのだが) 妊婦も顔負けの巨腹は相変わらずだ。 そして・・・・・・ 「うにゅ。」 物思いにふけっていると、横からそこそこ大きめな、というより太ったスライムがひょっこりと顔を出した。 「あぁ、スラちゃんおはよう。」 そっと頭(?)と思われる部分を撫でてやると、嬉しそうに体を動かしていた。 そう、確かにスラちゃんはあの後膨らみ続けてパンクしてしまった。だが、内臓も無ければ中も外もほぼ無いようなスライムという特別 なモンスターは穴が開こうがその後に防げば何も問題なかったのだ。 (後で思い返してみれば、魔王様がほとんど心配していなかったしなぁ、、、、、。) インフル・エチオンは、その時の勢いで全て外気にさらされて死滅してしまったし、他のスライムに取り込まれた残りはほとんど微量だ ったのですぐに吸収消化されてなくなってしまった。 暫くスラちゃんと一緒に遊んでいると、ドスドスと足音を立てながら魔王・ベスティードがやってきた。 「レオヴ、それにスラちゃんもいたか。」 「え、はい。・・・何かあったのでしょうか?」 「実は、偵察兵の報告で、歴代で一番の強さを持った勇者一行が来ているらしいのだ。 運動不足も解消したいところだし、レオヴよ一緒に来るか?」 「・・・・はい、喜んで!」 久々に、本気で戦闘が出来るかもしれない。 ブレスもろくに吐く機会が無かったし、それに戦闘をするのはモンスターの性(さが)だ。 「にゅー。」 「む、スラちゃんも行きたいのか?」 さてどうしようか、と困り顔になるベスティードへ、レオヴが進言してみる。 「この際、一緒に連れて行きませんか。留守番はさびしいでしょうし・・・。 安心してください・・・魔王様もスラちゃんも、私が命に代えてもお守りしますので!」 「ふ、そうか。ならば共に連れて行こう。だがな、レオヴよ----」 ぽん、と肩を叩かれたレオヴは、内心、意見を出したのは失礼だったかも・・・と不安になった。 「お前や、城に住む全て、誰一匹としても欠けてはならんのだぞ。お前も、私の部下であるが、それ以上に大切な友なのだから。 みなを守るのは、魔王である私の役目だ。」 「・・・・・はい。」 それ以上は何も言わず、レオヴは支度をすると言ってその場を離れた。 嬉し涙を見られるのが、なんだかとても恥ずかしく思えたからである。 「うにゅぅー?」 魔王城は、それからも平和であった。 平和になりすぎて、また運動不足になったモンスター達や魔王様がちょっぴり太ってしまい、またダイエットする羽目になったのだが それはまた別のお話。 〜おわり〜