気がつけば、この息苦しさにも慣れてきた。 正直、自分がここまで太ってしまうとは思わなかったが。 ぐるるる、と隣の部屋まで届きそうな音が、自分の腹の虫だとは・・・昔の私では信じられない。 ベクタの黒竜であるワグナスは、恥ずかしさを覚えつつこの空腹感をなんとか抑えようとした。 別の事に意識を集中させよう・・・例えば、そう、もうすぐディナーの時間だ。今日の献立はいったいーーーと、駄目だ駄目だ。思った直後に夕食の事を考えてどうする。 しかし、想像した夕食のメニューに唾液が少しだけ口の中を潤す。 再び、お腹がグゥと今度は小さく鳴った。ワグナスはそのお腹を擦るが、それは手の届く僅かな範囲のみだった。 巨大な胴体ーーー以前の鍛えた体の貯金である逞しさはまだ健在だったが、もうごまかしがきかないほどの肥満体だった。 なにせ、部屋から出られないのだ。 入り口は肥満竜に合わせて出られないのだから、仕方ないといえば仕方ない。 だが、それだけではないーーー私は、、、、自力で起き上がれなくなっていた。 改めて自分の今の体を見下ろす。視界に映るほとんどが自分の超巨大な太鼓腹。 今の私は寝たきりのままだ。妻の補助を受けて、なんとか起き上がりたまに運動はしている。 そのおかげで、四肢や胴体は、他のベクタ肥満竜に比べると、まだ、ギリギリ引き締まっているーーーと思いたい。 本来なら、起き上がれないほどの体重ではないのだが、あまりにも食べ過ぎる量が多く、私の腹部は日々どんどん成長してしまいーーー今だと起きる際に突っかかってしまうのだ。 「ふんっ、ぐーーー、ぬん!」 何度か挑戦しようとしたが、やはり駄目。 力をこめて膨らませると、天井に届きそうなほど巨大化した自分の巨腹はあまりにも重くのしかかっている。 疲れを癒すために、手元の台に載せてあった清涼飲料水と、カロリー摂取補助食品をおやつとして無意識に食べる。 う、また食べてしまった; 妻用の、大量のお菓子やおやつ類は底なしのようで、無くなることがないうえに、どんどん補充されてしまう。 私は小腹が空くたびにソレに手を伸ばしーーー更に太ってしまったのだ。 「あなた〜、夕食の準備出来たわよ〜」 その言葉に、私の空腹中枢が刺激された。 起き上がり、食卓に並べない現状、妻が料理を運んできてくれる。 それも、大量にーーー。 ある程度カロリーは考えているらしいが、なにしろ妻(ダンターグ)は私より何倍も食い意地が貼っているし、正直低カロリーの料理は出てこない。 しかも、日に日にその量が増えているのだから、まったく困ったものだ。(※しかし、お代わりを何度もする今のワグナスが原因であった) 先に結論を言ってしまおう。 ディナーに出てきた料理の数は、35皿。 お代わりを含めると48皿相当。 しかも、ひとつの皿がとんでもないボリュームとカロリーであり、 総摂取カロリーは恐らくーーーうむむ、今後はいつも以上に運動してなんとか痩せなくては; だが、数日後ーーー私は、、、、、 とうとう天井に体が接してしまうレベルに太ってしまった。 「ふぅ、ふぅ、ふぅ、体が重い。。。」 しかし、空腹が我慢できない。そして食べ続ける。 お代わり、お代わり、お代わり・・・・・ 空の料理はどんどん増えていき、ワグナスのはち切れんばかりに柔らかな肉が詰まった巨大な太鼓腹はますます巨大に膨れ上がっていく。 そして、とうとうーーーーーー!! 「!!!」 ガバッと体を起こして、“2800kg”のワグナスは目を覚ました。 「ふぅ、まさかあんな夢を見るとは、、、(汗)」 そう、夢なのだ。 だがそんな夢を見たのには理由がある。 ぐきゅるるる〜、と豪快な音が隣の部屋から聞こえる。 近隣の家にも聞こえたのではないかと思うと、少しばかり恥ずかしい。 「ねぇあなた、そろそろ夕食にしない?」 その声を聞いて、私は用意されていた数々の料理を彼女の部屋へと持っていく。 そう、夢の原因は彼女ーーーなにしろ、夢で見た私以上に今の彼女は太ってしまっているのだから。 ベクタに帰省して、戻ってきた時よりは太っていないが、このままのペースで太ってはまた同じかそれ以上に肥え太ってしまうのではないだろうか。 あぁ、リバウンドとは恐ろしいものだーーー。 ぶくぶくと肉付いていく彼女が、夢で見た私と違うのは、とにかく運動をほとんどしないこと。 それなのに食べ続けるものだから、ここまで太るのも仕方ない。 だが、愛する妻を職場復帰させねば。 なんとか食事制限させようと、ワグナスは彼女の注文した出前を代わりに食べては、彼もまた徐々に太っていくのであった。 おしまい