そこの相撲部には、非常に立派な生徒がいる。 素行や成績が優秀で立派、というよりは目に見えて、であるが。 体が大きい生徒、と言われて皆はどのぐらいの大きさを想像するだろうか。 いずれにせよ、彼の姿を見れば大半の者は想像以上だと感じるだろう。 ここでは一般的に生徒の体重が1tもあれば十分すぎる肥満竜だ。 にも関わらず、彼(シュメルツ)ときたらその何倍も太っておりーーーー 「先輩、もしかしてまた大きくなりました?」 ぶつかり稽古をし終えて、リガウは数日前とは違う手応えを覚えていた。 明らかに部長(シュメルツ)の横幅、特に胴回りが一回り大きくなっている。 「そうか?自分の事だけど、わかんねぇなー。」 ドスンドスンと音を立てながら歩くシュメルツ。 わざと音を立てているわけではなく、普通に歩行するだけでこうなるのだ。 近くを通られると小動物は驚いて逃げてしまうぐらいだが、それも仕方ない。 しかし、リガウはそんな彼を尊敬していた。 ベクタ竜じゃないのに、あんなに立派な体ですげぇよなぁ。 俺も、せめて今の2倍ぐらいにはなりてーよ。 つっても、結構食ってるはずなのに思ってる以上に太らねーんだよな。 意識して太ろうとしてる俺より、コープやオーエン達の方が太ってるみたいだし・・・うー納得いかね〜! 彼は気づいていないのだが、コープやオーエンと違って相撲部で激しい運動をしているリガウは彼らよりもしっかりとした、代謝の高い体になっていたのだ。 無駄な脂肪も大半とは言え、ただの肉団子のコープたち(失礼)とは消費カロリーが比較するまでもなかった。 そんなリガウに、好機が訪れる。 「は?今日の補修は無し?」 「うん、そうみたい。聞いてなかったの?」 コープから聞かされてしったが、今日どころか暫くは予定されていた補修という名のスパルタ特訓(ダイエットプログラム)は無いようだ。 いろんな点に厳しい、真面目なワグナス先生が予定を変えるなんて珍しい事もあるもんだ。 だが、体重を一気に増やすチャンスである。 リガウは部活中に食べる鍋も積極的にお代わりして、山のように盛られた野菜や肉をバクバク平らげるようになった。 体育教師の監視や注意が無くなったおかげで、何も考えず好きなだけ食べられる。 補修の居残りダイエット運動が無くなり、一日の消費カロリーにも変化が現れる。 そのくせ、摂取量はどんどん増えていくのだから、当然ながら日々リガウの体にも変化が訪れ始めた。 「お、リガウもなんか体大きくなったか?」 「へへ、最近はなんだか調子よくって。ーーーって、先輩こそまた太っただろ?!」 「いやそれがさぁ、こないだ大食いチャレンジのある店を何件ハシゴ出来るか挑戦しちまってさ・・・4つ目終わった後なんて、腹が膨れすぎて起き上がれなかったんだよ。あん時は本当にパンクしちまうかと思ったぜ。」 少しは食事量を節制しないとなぁ〜、なんて口では言いつつ彼が量を減らす気は更々なかった。 くぅ〜、折角先輩に近づけたと思ったのに、また差をつけられた感じだぜ。 よっし、俺も休日に大食い特盛チャレンジのメニューがある店、限界まで巡ってやる! 思い立った次の休日、リガウは常連の店、滅多に寄らない遠い店も関係なく、とにかく大量に食える場所へ向かい、 食べて、食べて、食べまくった。 体重が200kgほど増えた。 余分な脂肪が蓄えられ、二の腕、太もも、背中が余計に丸みを帯びる。 平日の学校帰りにも食べ続けた。 体重が更に200kg以上増えた。 腹がパンパンになるぐらい食べて、お代わりして、デザートも完食。その後はアスターゼ草をモグモグ。 胃がすっきりしたところで、また追加で食べる。 そして、遂にーーーーリガウは1000kgも体重を増やしてしまった。そのすべてが、本来必要のない余分なものである。 でっぷりと巨大なお腹は、一回り以上大きくなり、以前のワグナス先生ぐらいにふとましくなった。 (以前の、と言ったのは何故か最近ワグナス氏も太っていたせいで彼も一回りお腹が巨大化していたからである) 体が想像以上に重たい。そんな自分の数倍あるシュメルツ先輩ってやっぱり凄ぇ。 けど重心がしっかりすれば、相撲でも有利になるかもなぁ、なんて思いつつリガウは喜んでいた。 のだがーーー 「なんでお前も太ってんだよっ!しかも俺以上に!」 「ふぅふぅ、えへへ・・・最近ちょっとパン食べすぎちゃって。」 ワグナスの補修が無くなった事により、リガウ以外の肥満トリオも順調に太っていったのだ。 しかも、何故か積極的に体重を増やそうとしたリガウ以上に。 ドドンと目立つ大きな大福餅みたいなお腹に成長しているコープは1500kgもの増加で、いきなりそこまで太ったせいかろくに走る事が出来ない程であった。 「(くっそーーー、やっぱりなんか納得いかねーーー!!)」 心の中で、彼はそう叫ばずにはいられなかった。 リガウの挑戦はまだまだ続く。頑張れリガウ、負けるなリガウ、いつかコープたちを超える、肥えた体になるその日までーーー おしまい