エオニアによるクーデターが、タクト・マイヤーズ率いるムーンエンジェル隊によって鎮圧され、トランスヴァール皇国はシヴァ皇王のもと再び平和を取り戻した。 その後、エンジェル隊は白き月にて再び聖母シャトヤーンの護衛に就き、タクトとその副官レスター・クールダラスはシヴァの命により辺境のロストテクノロジー探査へとかりだされた・・・。 辺境探査に出てはや2週間、だがいまだにロストテクノロジーのチリすら見つかっていない。 目の前には果てしなく続く黒い空間しかなかった。 それを眺めることのできる一隻の艦、そしてそのブリッジで作業を続けるクルーを視界に入れる人物が一人・・・。 「はぁ・・・、今日も何もなさそうだなぁ・・・」 ブリッジ後方の椅子に座り、頬杖をついてため息混じりにそう漏らす青年。 彼の名はタクト・マイヤーズ、この艦の司令官である。 エオニア戦役では、儀礼艦エルシオールの司令官として大きな戦果を上げ”皇国の英雄”とまで謳われた人物であった。 「タクト、お前はたまにしかブリッジに顔をださないくせに、愚痴をこぼすな」 ブリッジの中央の椅子に座り、右手に持った端末を操作しながら、男はうわごとのようにつぶやき続けるタクトに言った。 レスター・クールダラス、それが彼の名である。 銀髪の髪に、左目を覆う眼帯が特徴の硬派な男であり、エルシオールでは副司令を務めていた。 「やっぱりエンジェル隊とエルシオールに乗ってたときが一番楽しかったよ・・・」 「しょうがないやつだなまったく、しばらくほうっておくか・・・。ところでレーダーの調子はどうだ?」 エルシオールに乗っていた頃と生気の違うタクトに対し、レスターは半ばあきらめ気味である、しかし仕事に対する几帳面さは捨てていなかった。 もともとエルシオールのクルーは大部分が「白き月」の住人であったため、辺境探査に来る理由がなかった。 そのため、タクトは女性の比率が落ちたこの艦に不満を持っている。 しかし、一人だけ元エルシオールのクルーの女性が乗っていた・・・。 「クールダラス副司令、今のところレーダーに異常は見当たりません」 スクリーンにレーダーマップを表示すると同時に状況を報告する女性。 「アルモ、報告ご苦労」 アルモと呼ばれた女性は、エルシオールでオペレーターをやっていた。 エルシオールでもタクトの副官をやっていたレスターに対し強い恋心を持っていたので、辺境探査に半ば強引についてきたのだ。 「それにしても、2週間かけても手がかりすら無し。か・・・」 レーダーマップにより現状を再確認させられ、レスターも大きくため息をつく。 「せめて、ミルフィーユがいれば、多少はどうにかなりそうなんだがな・・・」 レスターは思い出したようにつぶやいた。 ミルフィーユは、稀に見る「強運」の持ち主で、幸運だろうが凶運だろうがなんでもかんでも自分の意思に関係なく引き込む女の子であり、現在はエンジェル隊として白き月の護衛についている。 「レスター、今その名前を出すのはやめてくれ・・・」 「まぁ、お前が選んだ道だ。いまさら引き返すこともできんだろう」 タクトは、エオニア討伐前の舞踏会の時にミルフィーユと一緒に踊るなど、恋人同然の仲だったが、タクトが不意に放った一言により関係が一気に崩れてしまったのである。 そのことをタクトはまだ引きずっていた。 「お前が恋より仕事を取った気持ちはよくわかる。それも一つの選択肢だ、またチャンスはめぐってくるだろうさ」 「うん・・・」 レスターは、自分なりにタクトをフォローする。 しかし、タクトはまだあさっての方向を向いている。 レスターの努力もむなしく、ブリッジの空気は鉛のように重いまま変わることはなかった。 そこに、沈黙を破る通信が入る。 「マイヤーズ司令、エルシオールから長距離通信です」 アルモがタクトを促す。 「エルシオール・・・?」 タクトはアルモの言葉に驚き、すぐさま通信をつなげるようにアルモに指示をした。 アルモはこくり、と頷き、端末を操作してスクリーンに映像を出す。 そこには、タクトの見慣れた顔が並んでいた。 その顔を見て、タクトは元気を取り戻す。 「あ、タクト!元気してる〜?」 真っ先に金髪の髪の少女、ランファ・フランボワーズが身を乗り出してたずねる。 「ランファ、それにみんな久しぶりだね。肉体的には元気だよ」 「なによ、その微妙な返事は」 「まぁ、いろいろあってね」 タクトはそういってハハハと笑ってみせた。 「タクトさん、探査のほうはどうなっておりますの?」 次に、スカイブルーの髪に白い耳をつけた少女、ミント・ブラマンシュが落ち着いて話す。 「・・・あんまり」 再び現実に戻され、ため息をつくタクト。 そして顔を上げてスクリーンを見ると、そこには帽子を被って単眼鏡をかけ、手に鞭と、何かの端末を持った女性が映っていた。 「やぁタクト。おまえさんに今日は素敵なプレゼントを上げよう」 「フォルテも元気そうだね、ところでプレゼントって・・・?」 その発言に驚きを隠せないタクト。 その表情を見ながら、フォルテは笑って端末を操作し、スクリーンに映像を出した。 「これは、現在進行中のプロジェクトさ。エルシオールのクルー増員のほかに、エンジェル隊のメンバーを増やすことになったのさ」 「なんだ、それなら俺たちには関係ないじゃないか」 少し残念そうに息を吐くタクト。 しかし、フォルテは笑いながら続ける。 「そのプロジェクトにタクト、あんたとそこにいる元エルシオールクルー2名が組み込まれることになったんだ」 「な、なんだって!?」 タクトは、その発言に目を丸くする。 それを見てフォルテは、してやったりの表情で、プロジェクトの中身を詳しく説明した。 「なるほど、元クルーの俺たちが、新しいエルシオールの乗組員教育のために必要だってことだね。で、レスターどうする?」 「ん?あ、ああ・・・」 突然のタクトの振りに、呆然としていたレスターは薄い返事をした。 「レスター?」 「ん、ちょっと待ってくれ、今状況を把握しているところだ・・・」 「OKなら、そっちに案内役の艦を回すことになってる。っていってももう出発して、もうすぐそっちに着くはずだよ」 「え・・・?」 タクトがその言葉を聞いた直後、レーダーが反応音を鳴らす。 「マイヤーズ司令、距離20000ほど先にドライブアウトを確認、識別処理に入ります」 「タイミングばっちりだねぇ、多分それが迎えに来た艦だよ」 アルモの識別処理が終わるまで、しばしの沈黙が流れる。 「間違いありません、白き月の友軍艦です」 アルモの声が、静かなブリッジに響く。 「で、どうする、こっちに来るのかい?」 フォルテが映像の向こうで笑う。 それは、選択肢が一つしかないことの表れだった。 「レスター、どうやら君に聞く必要はなかったみたいだね」 「ん、そうか・・・」 まだ頭が少し混乱しているらしく、また薄い言葉を返す。 しかし、もはや彼一人の返事では選択肢が増えることはない。 呆然としている部下をしりめに、話は進んでいく。 「それじゃ、行くことにするよ。久しぶりに君たちとも会いたいしね」 「おやおや、会いたいのは”君たち”じゃないだろう?」 「う・・・」 フォルテはそう言ってフフフと笑う。 図星を突かれたタクトは何も返すことが出来きず、言葉を詰まらせる。 「今ミルフィーはここにはいないよ、ちょっと私用で出てるんでね。まぁこっちに来てから会いな」 「そうか・・・それじゃそうさせてもらうよ。じゃ、またエルシオールで」 そう言って、タクトは彼女達に敬礼をする。 フォルテたちも、それに対して敬礼を返す。 「あいよ了解っ。楽しみに待ってるよ、司令官どの」 そう言って通信は切られた。 同時に、白き月の使者の艦の着艦を知らせる音がブリッジ内に響く。 それは、新たなる歴史の幕開けの序曲のようだった・・・。