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2人の通夜会場に設けられた祭壇。遺影のあどけない笑顔が弔問の人たちの涙を誘った(19日、長浜市小堀町) |
滋賀県長浜市で園児2人が同級生の母親に殺害された事件は、24日で発生から1週間を迎える。殺人容疑で逮捕された谷口充恵容疑者(34)=中国名・鄭永善=は滋賀県警の調べに、長女(5つ)と幼稚園の友だちの関係に悩み、ほかの子どもに憎しみを募らせたと供述しているが、母親同士の付き合いにも悩んでいたといい、動機の解明には至ってない。最愛の子どもを突然、奪われた遺族の悲しみは癒えず、地域や幼稚園は子どもの安全について模索を続けている。
■捜査
犯行当日の17日、谷口容疑者は家族で朝食を取ってから、グループ通園の集合場所に向かうまでに犯行を決意し、包丁を持ち出した。車に武友若奈ちゃん(5つ)と佐野迅ちゃん(5つ)を乗せて神照幼稚園の前を通り過ぎ、人けのない農道で、助手席に長女を乗せたまま、後部座席の2人を殺害したとされる。
子どもの安全を守るグループ通園での事件とあって、県警は動機解明に全力を挙げている。谷口容疑者は「娘がほかの子になじめない。娘がだめになるから、ほかの子を殺した」と話す半面、逮捕後、娘を心配するような言動はないという。
谷口容疑者が「ほかの母親となじめない」と話し、通園をめぐって同容疑者と被害園児の保護者が幼稚園に要望や相談を繰り返していたことから、県警は母親間のトラブルも含めて調べている。
幼い園児を20カ所も刺す執拗(しつよう)さや過去に精神的な不調を訴えていることから、犯行に至る心理状態も慎重に調べる。
■容疑者
中国黒竜江省出身の谷口容疑者は1999年に来日し、翌年結婚した。長女を出産後に勤めた滋賀県湖北地域の新聞販売店の店主は「中国人と名乗って契約を取り、好感を持たれていた。キムチを振る舞ってくれたこともあった」と社交的な一面を語る。しかし、2003年から通院し、長期入院したこともあった。2年前に夫の実家から今の家に移り、長女が通園を始めた。昨春からは園に長女の様子を頻繁に見に行き、当番以外の日も通園について行った。
近隣住民は地域に溶け込もうとする姿を目にした。主婦は「幼稚園の母親と話をするのがつらいと言いつつ、仲間に入ろうと頑張っていた」と言い、昨秋には自治会のバレーボールにも自主的に参加した。一方、幼稚園児の母親(30)は「どこか謎めいていた」と印象を語り、「グループ通園について来たら、信用されなくなる」と感じたという。長女についての行動などを知った住民の中には「国柄が違うから」と話す人もいた。
谷口容疑者は家の中で激高することもあった。事件の数日前から不眠気味で、前夜もほとんど眠っていなかった。「娘が誰とも遊ばない」。同じ幼稚園の母親が悩みを打ち明けられたのは、つい最近のことだった。
■地域・幼稚園
被害園児2人と谷口容疑者の自宅は近くにある。地元自治会は緊急集会を開いて、幼稚園の送迎の安全確保に向けた連携の強化を確認した。外国出身の住民も多く、これまでも日本語教室を開いたりしているが、「コミュニケーションを一層深めよう」と話し合った。
神照幼稚園は、被害園児の保護者と谷口容疑者の間でトラブルのあったグループ通園を当面休止し、個別送迎に切り替えている。通園を再開して3日になるが、園児たちは普段通り元気に遊んでいる。通園方法については「グループの方が社会性が身につく」「個別の方が安心」との声がある。23日からは、送迎の保護者に名札を付けてもらっている。
■遺族
23日夜、若奈ちゃんの自宅を弔問した知人によると、両親を慰めるために友人5、6人が集まっていた。2人とも疲れきった様子で、「とても話し掛けられるような状態ではなかった」という。母親は、若奈ちゃんの写真を見ては、泣きながら何度も名前を呼び、「かわいそうで、見ていられなかった」と話していた。
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